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転生先は

目覚めた空間で女神と出会ったハジメ。

夢の中かと思われていたそこで、すでに死んでいることを知らされる。

テレビの大食いコーナーの真似をして餅をのどに詰まらせて死んだハジメは、笑撃の事実に言葉を失うのだった。

 俺ことコイワハジメは死んだ。

テレビでやっていた大食いコーナーの真似をし、餅をのどに詰まらせて。

餅は気をつけて食べなければいけない。


 悲劇から目をそらすように目の前の人物をみる。


 髪は金色のように輝いて見えるが時折漆黒のような深さものぞく。

虹のように輝く瞳、すっとした鼻筋、果実のように瑞々しい唇。

もちろん顔だけではない。

メリハリのある体、透き通るような肌すらっとした伸びた手足。

その体に白く輝く衣服を纏い、こちらを上から見下ろしいる。


(何回見てもでっかいなこの人)


 女神の身長は10メートルはありそうで、文字通りこちらを見下ろしていた。

餅を食べながら。


「うふふ、お餅をのどに詰まらせちゃうなんてドジっ子さんですね。」


「その話はもう忘れてほしい。」


「忘れるわけにはいきません。まだ話の途中ですから。」


 そう、俺の死因はわかったのだが話の途中だった。

女神は座る位置を整え再び語り出す。



「テレビの真似をしてお餅をのどに詰まらせてハジメさんは死にました。ここまではいいですね?」


「……。」


 なんとなく頷きづらいが無駄なことをいっても仕方ない。黙って先を促す。


「そして、お餅を詰まらせ死んだハジメさんを発見したのが強盗のヤマダさんです。」


「ちょっと待って?」


「彼は驚きながらも、救急車を呼びその間ハジメさんへ懸命に声をかけ続けました。『おい!死ぬんじゃない!帰ってこい!!童貞のまま死ぬなんて俺は許さねーぞ!!』」


「情報が渋滞してる。」


「彼の必死の声も届かず、搬送先の病院にてハジメさんは帰らぬ人となったのでした。手違いで死んでしまったときはやっちゃったと思いましたが、人々の根底にある美しき心に私は忘れていたものを思い出したような気がしないでもないのです。そして、」


「ストップ!!!!」


 俺はたまらず声を張り上げる。突然だした大声に女神はビクリと体をふるわせてこちらをみるが、俺もそれどころじゃない。

え、何?強盗?どゆこと?


「確認したいんだけどいいかな?」


 俺の言葉に女神はやれやれというようなジェスチャーで肯定する。なんだこいつぶっ飛ばすぞ。


「まず、餅を詰まらせた俺を発見したのが?」


「強盗のヤマダさんです。」


「はいそれ!なに強盗って!?」


「誰もいないと思ってハジメさんの家に入ってきた強盗さんですね。本来なら彼にハジメさんは殺されていました。」


「え、こわ。」


「しかし、私がお餅に気を取られてしまい因果が乱れ、ハジメさんの死因が変わってしまったのです。そのため彼は強盗から第一発見者にクラスチェンジを果たした訳なのです。」


「果たせてねーよ。未遂なだけじゃねーか。ん?餅に気を取られて?手違いって……。」


 女神を見ると露骨に目をそらす。


「も、もしかして俺は手違いで死んだ、のか?」


 女神は言っていた。手違いで死んでしまった、と。だったら俺は死ななくてもよかったんじゃないのか!?俺は女神に死因を操作されたために……。


「俺は本当は死ぬはずじゃなかった?」


「そ、それは違います!」


 大きな体で女神は必死に否定する。


「ハジメさんはあの日、餅を食べなくても強盗に殺されていました!物凄い殺されてました!滅多刺しでハチャメチャに死んでいたのは間違いありません!どのみち死んでたんです!」


 ひどくない?


「でも、その、ハジメさんがお餅を食べようとしたとき美味しそうだなぁって、つい魔が差して食べようと。そこでちょっっっと手違いが起きてですね。」


「なんやかんやあって俺が餅を詰まらせて死んだ、と。」



 結局俺は死んでいた。餅を詰まらせて死ぬか、強盗に殺されるか。結局死ぬんだったら何だったの俺の人生?

特に凄いことをやり遂げたわけでもなく、普通に生きて、悪いことも多分してこなかったと思う。いや、何かしてたのかも。

でなきゃこんな結末あんまりじゃん。

やり残したことがあった。これからやりたいこともあった。

できることならやり直したい。



 そういえば……。



「転生って?」


 女神は言っていた。転生がどうのこうの。つまり、やり直せる?


「本来は命の輪廻に手を加えることはできないんです。ただ、結果は同じでも私が介入してしまったことは事実でして、ハジメさんがこの世界の輪廻から外れてしまったのです。」


 死ぬ、という結末は変わらなくても、そこに至るまでに女神が手を加えてしまった。その気がなくても。


「ですのでハジメさんを輪廻の輪に戻したいのですが、外れてしまったところに戻すのはなかなか難しく、新たに組み込める世界へ行っていただこうとここにお呼びしたしだいです。」


「新しい、世界?元の世界には戻れないのか?」


「難しいだけで戻すことは可能です。ただ、記憶などはなくなってしまうほか、約5000年後の世界にはなってしまいますが。」


「5000年。」


 なんだよそれ、そんなの選択肢があってないようなもんじゃん。

今の記憶のまま別の世界に転生するか、記憶を無くして元の世界に転生するか。

記憶がないならどこの世界でも変わらない。

前世の記憶とかあんまり信じてないけど、俺の場合は絶対無くなっちゃうんだろうな。



 俺はやり直したい。そっくりそのまま人生をやり直せなくたっていい。

新しい世界でだって、いつ死ぬかはわからない。

でも当事者になるまで死ぬっていうことがわからなかった。

今度は違う。俺は悔いの無いように生きたい!いつ死んでもいいように、太く短くてもいい!やっぱり長生きはしたい!


「女神様、俺、転生します。新しい世界で。」


 このことは忘れない。絶対にこの決意は忘れない。


「わかりました。ご迷惑をおかけしてしまったお詫びに誠心誠意、対応させていただきます。」


「ありがとうございます。」


「ふふ、畏まらなくてもいいですよ?それと、私は女神ではありません。」


 そう言って女神、ではなく彼女は微笑んだ。神様的な物かと思っていたけどどうやら違ったらしい。


「私達はアーズワーズの中枢アーロキエート、コードアジェンダ……いえ、女神のようなものですね。私のことはアンジェとお呼びください。」


「わかった。アンジェ、よろしく。」


「えぇ、よろしくお願いします。ハジメさん、いえ、エロチュパリスさん!」





「なんて?」


 え?エロ、エロなに?


「エロチュパリス、ハジメさんの転生先でのお名前です。意味は物凄い勢いで飛ぶ!です!」


「え、うん。」


「転生先のヌルペッチョハンチョネルは比較的穏やかな気候ですが、空を恐竜のような生き物、ベラボラボルーンに支配されています。」


 エロチュパリスが頭から離れない。

なにをチュパリスすればいいの?ハンチョネルをヌルペッチョすればいいの?


「エロチュパリスさんが今まで生きてきた世界とは違うかもしれません。ですが、新しい世界でもきっとやっていけると私は信じています。行きましょう、エロチュパリスさん。新しい世界へ!」


「……ンジ」


「え?何ですかエロチュパリスさん?」


「チェーンジッッッ!!!!」


 俺は声の限りに拒否をした。



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