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もう一つの記憶

突然現れた謎の襲撃者。

その姿にハジメは忘れていた記憶を思い出す。

「大丈夫でしたか?ハジメさん。」

「あぁ、俺は大丈夫。びっくりしすぎて全く動けなかっただけだから。」

 騒動が収まった後、固まったままの俺を心配してアンジェが声をかけてきた。

 

 空間に穴をあけて現れたものはアンジェによって無事撃退された。

ひび割れた空間も間もなく修復され、襲撃前の穏やかな空気に戻った。


 死んだので転生する。ただそれだけのはずがとんでもないことになってきた。

 もう少しで転生前に死ぬところだった。転生前に死ぬとはなんと面妖な。



 あれは俺を見ていた。

 明確に俺を狙って現れた。

何故そんなことがわかるのかと言われればはっきりとした理由はない。

 ただ、俺は思い出した。


 あれに殺された記憶を。



 俺の死因はテレビの大食いコーナーの真似をして餅をのどに詰まらせたこと。

本当は強盗に殺されるはずだったところを、アンジェの食い意地によって死因が書き換えられてしまった。

 なのに俺にはあれに殺された記憶がある。

 餅を詰まらせて死んだ瞬間のことは曖昧に覚えているだけなのに、あれに殺された瞬間のことは鮮明に頭に浮かぶ。

まるでデータとしてこの体に残っているかのように、今まさに腹を食い破られたかのような痛みを覚えている。


「ハジメさん顔色が、今日はゆっくりと休んでください。」

「あれはなんなんだ?なんで俺狙ってたんだ?」

「……ハジメさん、あれは【無へ帰るもの】たちです。輪廻を破壊し、無へと帰ることがあれらの目的なのです。」

「……。」


「全てを破壊し無に帰る。ここは【始まりと終わりの時】、輪廻を見守る場所であるここはあれらにとって邪魔な存在で」

「アンジェ、ハジメが聞きたいことはそれじゃないわ。」

「ど、どういうことですか?」

 カルディナが俺の目を真っ直ぐに見て問う。


「記憶が戻ったの?」


「俺は、俺には、【無に帰るもの】(   あれ    )に殺された記憶がある。俺ではない俺が誰なのかは覚えてない。

でも殺された記憶だけははっきりと覚えている。

なぁ、俺はなんなんだ?俺は誰なんだ?

なんであれは俺を殺そうとする?」


 聞かなければならない。理由はわからないが絶対に聞いておかなければならない。 

 アンジェは答えない。

 でも俺も引き下がるわけにはいかない。


「アンジェ、このままだといずれハジメは思い出すわ。自分が何者であったのか。」

「……。」

「そして私たちのやろうとしていることを知る。きっと、悲しむでしょうね。」


 カルディナがアンジェに優しく話しかける。

 アンジェたちは何かやろうとしていた。それに俺は関係していて、それを知ると……悲しむ?


「私たちはそれを望んでいた。そのために計画を立てた。」

「計画?」


 そういえば時々言っていた気がする。

ただ、あれは作業にたいする計画だと思っていた。

 カルディナは俺に向き直り言葉を続ける。


「ハジメ。アンジェはあなたを騙していたわけじゃないの。それだけは信じて欲しい。」

 カルディナは真剣な顔で俺を見つめる。


「俺はアンジェを信じてるよ。もちろんカルディナも。」

 俺の言葉に嘘はない。

過ごした時間は少ないけど、それでも俺はアンジェもカルディナも信じてる。

言葉にすると薄っぺらく感じちゃうけども。


「聞かせて欲しい、俺のことを。アンジェたちのことを。」


 ふぅ、と聞こえた吐息には諦めも混じっている気がした。

 アンジェは俺の目を見て微笑む。いつもの微笑みとは違う、哀しげな微笑みだ。


「本当は話すことなく終わりたかったんです。ハジメさんには何も抱えず、新しい命を生きて欲しかった。」


 そしてアンジェは語り出す。


「私たちの計画、それは、女神の転生計画です。」


少し短めです。

後ほどもう一話投稿します。


急な体調不良で寝込んでました。風邪です。

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