俺と女神と転生と
薄暗いような、眩しいような、そんな不思議な空間で目が覚めた。
ふわふわとしたまるで寝起きのような意識のまま辺りを見回す。
何もない。
「夢、かな。」
もしかしたらこれが噂の明晰夢というやつかもしれない。が、今見たい夢は特にない。
目が覚めたら夢の中。
夢は眠りが浅い時に見るんだったかな?ということは、俺はもうすぐ目覚めるわけだ。
そう考えるとこの時間も名残惜しい。
もうすぐ起きる、もうすぐ目覚める。
ふぅ、と一呼吸して目を閉じる。
朝は何を食べようか……パンでいいかな……あと
ふと目をあけるとそれがいた。
それは美しかった。そう、美しい。
それを一言で言い表すならば……女神。
この世のものとは思えないほど美しい容姿。
美しい顔、美しい体、美しい肌。
俺の語彙力ではとても表現しきれないほどの美しさ。
髪なんかピカピカ光り輝いているし、背後からはだんだん光が差してきて眩しいくらいだ。
ってゆーか眩しいなマジで。眩し過ぎて目があけられないんですけど。
それと一つだけ、一つだけ言うならば。
「でけーよ」
そこには10メートルはあろうかってくらいデカい女神がそこにいた。あと眩しい。
「目覚めなさい人の子よ。」
もう目覚めてる。
「瞼をあけてこちらに顔を。」
眩しくて瞼をあけらんないの。
「あれ?死んでる?」
「死んどらんわ。」
「うわっ!びっくりした~。」
「……。」
なんだこの人、気が抜ける。
「人の子よ、顔をこちらに。……顔を。顔……どうして瞼を閉じたままなのですか?」
「あなたが眩しいから目をあけらんないんですよ。」
「まぁ!眩しい笑顔だなんて!」
言っとらんわ。あとさらにピカピカするのはやめなよ。
「ふふ、人の子から口説かれたのは初めてです。嬉しいとかじゃないんですけどぉ、ちょっとだけサービスしちゃいますよぉ。」
「……サービス。」
サービスと聞いてエッチなことを期待してしまった俺は悪くない。悪くないのだ。
ここは夢の中なのだ。夢の中ならば合法なのだ!ありがとう明晰夢!!
「えぇ!サービスとしてとびきり可愛い女の子に生まれ変わっちゃいます!他の子には内緒ですよ?」
「ん?」
今なんて?
「それに加えて、この世界では超能力と呼ばれている力もプレゼント!これで完全無欠の美少女完成ですね~。」
「ちょ、ちょっと待って!」
「おや、まだ足りませんか?欲しがりさんですね~。いいですよ!私は今とてもいい気分なのです。あなたのお願い叶えましょう。胸の大きさですか?」
「む、胸はいいから!そうじゃなくてっ!!!!」
思いのほか大きな声が出て自分でもびっくりしたが、今はそれどころじゃない。
胸は大きいのが好きだけどそれよりも先に聞きたい事がある。
「生まれ変わっちゃうって何?え?夢だよねこれ。」
「いえ、夢ではないですよ?あなたはもう死んでいます。」
……死んでいる。
死んでいるってことはつまり、死んでいる。
言葉の意味はわかってる。わかってるけどわかりたくない。
このまま目が覚めることはなく、朝ご飯にパンを食べることも出来ない。
会社に行って同僚と会うこともなく、友達と飲みに行くことは叶わない。
あの漫画の続きは読めないし、ドラマの最終回は見ずに終わった。
そういえば明日はゴミの日だ。忘れずに出しとかないとな。最近いろいろ厳しくなってるけどゴミの分別は大事だ。出す前に確認しとこう。
あ、スーツをクリーニングに出しとかなきゃな~。そうそう忘れてた、シャンプー買っとかないと。あぁ、あとはー、……ははは。
「死んでるんだもんなぁ。」
いや待て。いきなりなことで混乱してるけどこれが事実であると決まって
「あなたは死んでいる。これは夢や幻、思い込みでもありません。」
俺の心の中を読むように、いつの間にかピカピカ光を発しなくなっていた女神がそう言った。
「で、でも」
「悲しい、事件でした。」
「事件……?」
「これから話すことは全て事実ですが、あなたには受け入れがたい事かもしれません。しかし、私は嘘をつけません。」
女神は話す。これまでにない真剣な顔で。
「死を受け入れる、それは難しいことです。何故ならばあなたはここにいるのだから。」
そう、俺はここにいる。
ここに俺がいるから受け入れられない。
意識ははっきりしてる。言葉だって喋ることができるし考えることだってできる。
俺という存在がここにあるのだから、死んだなんて言われたって受け入れる方が難しい。
「俺は、ここにいる。」
「はい。あなたはそこにいます。」
「話を聞かせてほしい。」
「人の子よ。あなたに全てを話します。」
覚悟はできた……いや、嘘。覚悟なんてできてない。でも話を聞かなきゃいけない。
聞かなきゃ前に進めない。たとえ死んでいたって前向きに死にたい。
深呼吸をして女神に告げる。
「ハジメだ。コイシハジメ。」
「ハジメさん。あなたが何故死んだのか、お話しいたします。」
そして女神は語り出す。
「あなたが亡くなったのは数日前。天気の良い日でした。休日に一人、家でくつろいでいた時のことです。」
そう言われて俺は思い出す。
その日、休日でも特にやることがなく俺はボーッとテレビを見ていた。
特別見たかった訳じゃない。ただやっていたから見たお昼の番組。
「テレビに映っていたのは大食いのコーナー。どんどんと食べ進めるのを見てあなたはこう思いました。『俺もやってみよ。』、と。」
「え?」
「そしてハジメさんは余っていたお餅で一人大食い大会を開催し」
「ちょ、ちょっと待って」
「お餅をのどに詰まらせて死にました。ちなみに最初の一個目です。」
……。
「一個目です。」
「もうやめて」