第45話 人の戦い
ギルバードは戦いの中でスキルを成長させ、新たな力を手に入れた。
だがその代償は決して小さい物では無く、メインウェポンであるクリスタルホーンとクリムゾンアギトが大きな損傷を受けている。
彼自身も大きな怪我こそ無かった物の、疲労は大きく戦闘後に倒れてしまった。
そして現在。
「……んっ、ここは」
「「ギル!!」」
「父さん、母さん……?」
既に自体は収束を迎え、本来の主であるウェイド達は屋敷へ戻っている。
ギルバードは疲労から寝込んでいた為に時間間隔が飛んでおり、突如として両親が現れたかのように感じているだろう。
「遠方の依頼に行ってたんじゃ……」
「デルカが襲撃されてるって聞いて、急いで帰ってきたんだよ」
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ギルバードの両親はスタンピードの前日にデルカを出立している。
理由はアンドレイ第二王子からの呼び出しであり、目的地は王都。
スタンピード当日はヘスターの少し先まで到達していた。
意外にも順調な道中に機嫌を良くしていた一団だったが、彼らの後方から近付いた早馬が一報を届ける。
「ご当主!!」
「どうした、何があったんだ?」
「そっ、それが……スタンピードが発生して!」
「それ位ならデルカの戦力で簡単に処理出来ると思うのだけど……何かあったのかしら?」
「はっ、はい! それが――」
ウェイドはデルカを守る立場に居る都合上、街に存在し使える戦力は概ね把握している。
ジュリアンの言う通り、普段であれば確かに問題は無かった。
だが今回は状況が違う。
多くのハンターが遠方の依頼を受け、領主である自分達も遠く離れた王都へ呼び出された。
領主直轄の騎士団もそれなりの練度を誇ってはいるが、存在意義の大部分は治安維持である。
対魔物専門のハンター比較し、スタンピードの戦力として数えるのは少々酷といえる事だ。
「――マズイかもしれんぞ、この状況は」
「アナタ?」
「その通りです。ウェイン様が苦肉の策として元盗賊団の奴をギルバード様の元へ送り救援をお願いしていますが、それをしなければならない程に我々は追い詰められています……」
ウェインの息子、ギルバードはハンター達から戦闘訓練を受けている。
ヘスターでも多くの事を学び、好成績を残している事から戦力としては申し分ないだろう。
本当であれば実の息子を一人で戦わせたくないが、ウェイド達では距離的に間に合わないかもしれない。
そして何より、貴族には貴族の義務がある。
街を守る為に素早く対応する事を選んだだけなのだから、ウェイドがウェインの判断を恨む事は無いだろう。
だがこうした状況は恨んでいるらしく、その顔からは苛立ちを隠せずにいた。
「……よし、俺は一足先にデルカへ戻る。王都の用事はジュリアンに任せても良いか?」
「勿論、今のアナタは人前に出せない顔だもの。……けど、少し良くない未来が見えているわ。気を付けてね」
「ジュリアンがそう言うのならば、相当なのだろうな。……だが逃げる訳にも行くまい」
ウェイドは馬車から馬へ乗り換え、数人の護衛だけを引き連れてヘスターへと急いだ。
そうした急ぎの道中、ロベルト領を通りがかったその時。
彼らの前に一人の男が立ちはだかった。
「おやおや、これはこれはウェイド殿。随分とお急ぎのようですが……どうしたのですかな?」
「ロベルト伯爵か。……すまないが急がなければならない、そこを退いて頂けるだろうか」
「ハッハッハッハッ! この土地の主に随分な物言いだね、たかが子爵如きがッ!!」
デルカへの最短ルートはこの道である。
だが子爵というウェイドの立場上、伯爵であるフレデリック・ロベルトを押し通る事は出来ない。
「子爵如きでも、例え上位者に逆らってでも……しなければならない事はあるのです」
「そうか……なら――」
ロベルト伯爵は合図を出した。
ウェイドを守る護衛達は彼を守ろうと動くが、横の草陰から飛び出す魔法には対処が間に合わない。
「――どうするって?」
だがその魔法は難なく撃ち落とされた。
そもそも誰かが隠れているのは感づいていた上、ウェイド自身の戦闘能力は高い。
護衛が守りに動いたのも、相手方の護衛をウェイドに近づけ巻き込ませない為である。
「ふっ……ハハハ! 貴様がこの程度で死なんのは分かっているよ!!」
「何を……ッ!?」
草陰から出てきたのは伯爵と同じ青髪を持つ少女、ジェシカだった。
「まさか自分の娘を戦いの場に出そうと言うのか……!」
「それは貴様とて同じだろう?」
「違う! 俺は……俺達は、そんな顔をしている奴を絶対に戦わせない!!」
ウェイドは領民を守る意思がギルバード本人にあるから戦わせている。
だが伯爵は自身の欲望の為だけに娘を戦わせ、そこに本人の意思は介在していない。
だから彼女は戦場に立つ覚悟を持てず、相手を攻撃する事に苦悩を抱えていた。
「だ、そうだ。お前は自分の意思で戦っているだろう? ジェシカ」
「お父様……私は……」
ジェシカはギルバードと同様に好成績を収めている。
だが戦場に出た事は無く、自分か相手が死んでしまうかもしれない事……そしてウェイドの発する殺気に気圧されていた。
「どうやら違うようだな、伯爵」
「ふん……例え違おうとも、お前は戦わなくてはならない。さぁ、奴らを蹴散らすのだ!」
「ぁ、私……私は……」
ロベルト伯爵の言う『蹴散らす』はヘスターで行っていた訓練などでは無く、ウェイド達を殺せという意味である。
彼女にはそれを理解する頭と、躊躇してしまう心があった。
だがそれと同時に、父親であるフレデリックの言葉に従わなくてはならないという矛盾した思いを抱えている。
そんな状態ではウェイドどころか、護衛の相手ですら務まらないだろう。
「ロベルト伯爵、押し通らせて貰うぞ」
「ッチ! ジェシカ!!」
ウェイドは護衛を引き連れ、顔を俯かせるジェシカの横を通り過ぎた。
一歩二歩と近づくロベルト伯爵も護衛を引き連れているが、彼らもウェイドの護衛やウェイド自身には勝てないだろう。
だからこそ黙り込んでいるのだが、ロベルト伯爵だけは口撃を止めなかった。
「……フンッ、今更戻った所で遅いわ! 今頃貴様の納める街は魔物に蹂躙されているだろう。これで貴様らは領地の管理不行き届きで爵位は取り消しだなァ!! フハハハ!!!」
「何だと? 貴様、一体何をしたんだ……!」
他の言葉であればウェイドは足を止めなかっただろう。
だが現状のヒントが彼にあるというのならば、まだ彼の話を聞く必要がウェイドにはあった。
「貴様程度の頭では理解が追いつかないのも無理はあるまい! 私がスタンピードを起こしたという事も……ハッハッハッハッ!!」
「貴様、やはり我々に危害をッ!!」
「ご当主! 抑えて下さい、ご当主!!」
クリフ家に仕える執事、ウェインは前回のスタンピードが人為的に起こされたと睨んでいた。
そしてその容疑者はロベルト伯爵であると疑い、様々な調査を行っていたのである。
ウェイドとしては近隣に敵が居るとは信じたく無かったのだが、こうして自白されてはウェインの予想を認めるしか無い。
ウェイドはロベルト伯爵に詰め寄り、釣られて護衛も移動をする。
だがこれこそが彼の狙いだった。
「今だジェシカ、逃げろ! 逃げて王子にこの話をするんだ!!」
「ほぉ? 娘を逃がそうとする姿勢は認めてやろう。だが貴様には聞きたい事が山のようにある、デルカでじっくり話を聞かせて貰おうか……!!」
娘は何とか逃がす姿勢を少しは見直したが、間接的に多くの人を犠牲にしようとしたロベルト伯爵を見逃す事は出来ない。
ウェイドは彼を護衛に捕縛させ、相手方の護衛と共にデルカへ向かった。




