第39話 一つになったクラス
エドによる特別授業が行われた翌日。
ロイは朝から寮を飛び出し、竜の隠れ家へ来ていた。
彼は最近特に通い詰め、殆ど覚えてしまった店内を通り……とある個室へ向かう。
そこで待ってたのは彼と同じDクラスの生徒、そして少し前まで対立関係にあったファルティス・テフィラーだった。
「よ、遅くなって悪いな」
「構わん、それより要件は何だ」
ロイは前日の夜、ファルティスを呼び出していた。そしてその待ち合わせ場所がここという事だ。
どこか不機嫌そうなファルティスにを余所に、ロイは不敵な笑みを浮かべる。
「――そうだな、じゃあ本題から行こう。そろそろ手を組まないか? 四層以降の攻略に、これ以上の仲違いは不毛だろう」
「……私もそう考えていた所だ。あくまでも貴様らの力を借り、我々は手数を貸す。……それだけの関係で良いのなら、私は受け入れよう」
「あぁ、俺達もお前らの手が欲しいだけだからな。それで十分だ」
ロイは自分達の事しか考えられていなかった。
だから相手に合わせた条件を出す事が出来ず、ファルティスのような相手との交渉が失敗していた。
対するファルティスは、他人の力を都合よく借りるという。柔軟な考えが足りなかった。
そんな彼もエドから“必要であれば誰とでも手を組む”という姿勢を学んだ。
考えを変えた二人にとる交渉は呆気ない程にあっさりと終わり、その後は食事を取った。
ちなみにファルティスは辛い物が苦手のようで、悪戯がてら何も言わずに激辛料理を食べさせたロイに大層ご立腹だったそうだ。
それこそ一時は交渉を白紙撤回するレベルにまで至っていたが、甘味を奢る事で無かった事にしてくれたとか無かったとか……
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エド先輩の特別授業から、早くも数日。
今日もロイは遅刻ギリギリで教室へ入ってくるという、いつも通りの光景が繰り広げられていた。
だが――
「あぶねー! 何とか間に合ったぜ……」
「貴様……もう少し話を纏められなかったのか……」
「いやぁ、だって色々話す事あるから仕方ないじゃん? それにお前だってノリノリだったじゃねぇか」
「ぐっ、それはそうだが……」
――唯一、ファルティスと共に来るという違いがあった。
ファルティスは激しく息を切らせながら文句を言っているが、対するロイは笑って聞き流していた。
その様子をみたキャロル先生は、特別授業の効果を確認したのか笑顔で授業を始めた。
ご機嫌なキャロル先生による授業もいつも通りに終了し、僕達生徒は迷宮へ向かう……前に、ファルティスとロイの二人から呼び止められた。
話を聞くに、どうやら彼らは対立を止めて手を組む事にしたらしい。
ロイが作戦を立案してファルティスが指揮、ギルが切り込んでラシムとタツヤがサポート、エミリーが超火力を叩き込む。
そうした動きをすれば、このクラスでも迷宮が攻略出来ると考えているようだ。
ロイとファルティスの二人は受け入れて貰えるのか不安そうだったが、Dクラスで対立していたのは彼らだけ。
彼らが仲良くするのであれば他の生徒に対立する理由は無く、実にすんなりと受け入れられた。
そうと決めた僕達は早速迷宮へ向かい、軽く自己紹介をする事にした。
ロイと対立していた相手方のリーダー格……ファルティス・テフィラーは直接戦うのは苦手だが、指揮下に入った人の体力等を把握出来るスキルを持っているらしい。
長い髪で目元を隠した少年、ラシムは土系の魔法を得意としている。
地面を隆起させて足止めしたり、生えていれば植物を操って相手の動きを止める事が出来るらしい。
だが攻撃は苦手らしく、決め手となる大技は持っていないとの事だった。
そして黒髪の少年、タツヤは驚く程に勘が鋭い。
三層から現れる迷宮限定の魔物、ゴブリンが仕掛けた罠に最初に気付くのはいつも彼だ。
そんな彼はナイフの扱いが得意のようだが、魔法は使えないと話していた。
そんなメンバーを加えて迷宮に挑んだ僕達は、三層を難なく突破することが出来た。
ファルティスも元々対立したとは言え、一度協力すると決めた以上は適切に動かすと約束をしてくれた。
そんなファルティス曰く『三層以降は集団での戦闘を前提に作られた傾向にある』らしい。
つまり少数で挑む場合はそれぞれの戦力が一級品でなければならず、エド先輩が発した言葉の意味もこれだったのだろう。
「よーし、何とかここまでは来れたな」
「凄い……こんなにアッサリと……」
「あぁ。どちらか一方だけでは難しい事でも、力を合わせれば簡単になる……エド先生が言いたかったのはこういう事なのだろうな」
「前衛が増えたおかげで戦いやすくなったぜ。これからよろしくな、ギルバード」
「ギルで良いよ、こっちこそよろしく。ファルティスも、これからよろしく!」
「……貴様、妙に馴れ馴れしいな。まぁ良い」
そうこう話している内に、僕達は四層のボス部屋前に到着した。
ロイとファルティスの作戦をここまでの道中で実行してきたが、小物相手では特に問題は無かった。
だがそれはこの先に居るボスにも通用するとは限らない。
全員が緊張した面持ちでボス部屋に入ると、その部屋の中央にはいつも通り上から大きな物が降ってきた。
降ってきた四層のボスは、ミノタウロスと呼ばれる人形だが牛の頭を持つ魔物だ。
そいつは三層までのボスとは違い、スライム等の魔物を呼び寄せる習性を持つ。
それだけであれば良かったのだが、ここには大きな岩の魔物……ゴーレムまでもがその配下として現れるのだ。
スライムは数が多く、ゴーレムは硬い。そんな魔物とボスが僕達を阻んでいた。
「タツヤ、弱点はどこだ?」
「あー、ちょっと待ってくれよ……ん、多分頭だ!」
「分かった、そのデカブツはロイとラシムに任せる。ギルバードとタツヤはボスを、エミリーと私は雑魚の相手だ。絶対に勝つぞ!!」
「「「了解!」」」
今まではスライム達の対処に行っていたが、今回の僕は皆に任せてミノタウロスへ斬りかかった。
ちなみにマジックアーマーは部屋に入る前に装着しており、武器はクリムゾンアギトだけを持っている。
少数であれば使えたクリスタルホーンによる牽制は、味方の人数がここまで増えると使いにくい物だ。
そんな事を考えていると大きな斧が振り下ろされ、僕はそれをクリムゾンアギトで受け止める。
ミノタウロスは大きく重そうな斧を軽々と振り回す程の力を持っており、今の僕では単純に力負けしてしまう。
前までであればここで負けていたかもしれない。
「そーらよっ! 大丈夫かー、ギルさんよー!!」
「大丈夫だったけど、ちょっと遅かったんじゃない?」
「そりゃどーも、すんません……ねっ!」
だが今は背中を預けられる仲間が増えているのだ。
僕はタツヤを頼りにし、攻めては引くを繰り返していた。
下がった隙きにチラッと横を見れば、ロイとラシムの対峙するゴーレムが片膝を付く瞬間だった。
「――ロックウォール! ……後はお願いします、ロイ・ブラン」
「へいへい、っと……ギル!」
「はいはーい、マジックソード! ……で、どーぞ」
「助かる!!」
ラシムは石の壁を作り出してゴーレムを囲み、僕はマジックソードに魔石を入れてロイに投げ渡した。
しばらくするとくぐもった爆発音が聞こえてくるが、今そちらばかりを見ている余裕は無い。
「今だ、エミリー・クラスタ!!」
「ありがとうございます、でもエミリーで良いですよ? ――ファイヤーブラスト!!」
ロイ達とは反対側には自分を囮にし、スライムを集めるファルティスが居た。
後少しで飲み込まれる……という所でエミリーの魔法がスライム達を包み込み、纏めて処理した。
「ファルティスって意外と無茶をするんだ……」
「あいつも生真面目だからな、もっと他人を使えば良いのに……」
「けど、僕達も負けられないね」
「あぁ」
「「……行くぞ!!」」
気合と共にタツヤが先に切り込み、反撃しようとするミノタウロスを入れ替わりで僕が受け止める。
ミノタウロスは力押しで僕を叩き切るとするが、その背後にはエミリーが控えている。
近くに居るファルティスが合図を出すと、エミリーは魔法を放った。
「――ファイヤーランス!!」
「ハァッ!!」
それに合わせて僕も斧を切り上げて後退する。
すると後に残るのは炎の槍が深々と突き刺さったミノタウロスだけであり、反撃をする間も無く光の粒となり……その体を空中へ溶かしたのだった。
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学園都市ヘスター。
そこへ備え付けられた施設の一つに、マキシムラビリンスという場所がある。
そこは王立スティージ学園に通う生徒が挑戦する場所であり、再び竜の隠れ家へ呼び出されたファルティスが挑戦した場所だ。
前回はロイから、そして今回はエドからの呼び出し。
こうして呼ばれるのは何か裏があるとファルティスも考えているが、竜の隠れ家に居た時に偶然エドも近くで食事をしていた。
そこでの会話を聞いていた他に、キャロル先生から様子を伺っている事から彼らの動向はある程度把握している。
いい方向に向かっているとは思うが、本人と直接話して試したくなったからエドはファルティスを呼び出した……というのが実情だ。
「で、どうだったかな? 皆との共闘は」
「……悪くは無い。単純に動かせる駒は増えると、戦闘は楽になる」
「そうか、それなら良かった。僕がこうして教えた甲斐があるってモンだね」
成果を実感したエドは、口元に笑みを浮かべながら串焼きに口を付ける。
その様は豪快なはずだが、ファルティスの見る限り顔や服に一切の汚れが付いていない。
つまり一見雑に見えるが、丁寧さが隠しきれていないのだ。
ここへ来てそう確信したファルティスは、エドへ質問を投げかける。
「――だがエド先生、アンタは俺達に何を隠してる? その仕草は明らかに一般人のそれじゃない」
「……何かを隠していると言う事は、そこにはそれ相応の意味がある。人間誰しもがそれを知りたいだろう」
「なら――」
「――でもね、世の中には知らない方が良い事もある」
串焼きを置いたエドからは、口元の笑みが消え去っていた。
ファルティスは踏み込みすぎたと心の中で舌打ちするが、その判断は遅すぎる物だった。
「何でも知ろうとするその貪欲さは称賛出来る事さ。でも君のそれはただ厄介事を引き寄せるだけだ、ロイとの一件もそうだろう?」
エドの言う事は正しい。
ファルティスはロイの思惑を知ろうと深追いした結果、噛みつかれてしまい対立という形になっていたのだ。
返す言葉も無く、これ以上の追求は無意味であると感じたファルティスは大人しく下がった。




