第38話 特別授業
僕達は一層から二層へ、そして三層まで順調に攻略を進めた。
そして四層攻略を始めたのだが……その場所は三層までと雰囲気が全く違い、スムーズな攻略が出来ずに居た。
それでも何とかして攻略しようと挑戦の続くある日、基本的に昼までは勉強の時間だ。
いつもであればキャロル先生が授業を行うのだが、その日は違った。
何でもキャロル先生がとある人物を呼び寄せたらしく、その人による特別授業が行われるそうだ。
そしてその人物とは――
「――エド先生は迷宮攻略者であり、この学園の卒業生……平たく言えば先輩に当たります」
「今日一日よろしくね、後輩諸君」
そう紹介されたエド先輩だが、彼はランクⅥのハンターでもあるらしい
つまりそういう意味でも、彼は僕の先輩に当たる人だ。
Dクラスのメンバーは各々が様々な顔色をしている中。
それまで眠そうにしていたロイは、顔色を僅かに変えた。だがそれもすぐに眠そうな顔で覆われる。
何でも最近は迷宮への挑戦は元より……あちらこちらで忙しそうに動いている為、疲れているのだろう。
そうしたエド先輩の挨拶もそこそこに、僕達は場所を教室から迷宮に移して生徒達の戦いを見る事になった。
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三層に到着したギルバード達は、エドから三層の地図を手渡された。
「三層の一角を貸し切っておいたから、今日はそこを使うよ」
その地図の一角には印が付けられており、エドの言う貸し切った範囲が示してあった。
全員が地図に目を通し、授業で使える範囲を把握した事を確認したエドは『いつも通りここを攻略してくれ』と指示を出した。
すると彼らは自然と二つのチームに分かれるのだが、その様子を見たエドは不可思議な物を見たような顔をしていた。
「んー、このクラスは一つになった方が戦いやすいと思うんだけど……分かれるのかい?」
「……エドさん、あなたは“いつも通り”と言った。私達のいつもはコレなのだから、文句を付けるのは止めて頂きたい」
「はっ、はは……手厳しいなぁ……」
エドに辛辣な言葉を投げつけるファルティスだが、それが真実だ。
僅かに落ち込んだように見せていたが、すぐに立ち直ると手を鳴らした。
「じゃあ折角だし、ファルティス君達からって事で。ギルバード君達はここで待っていてくれ」
エドの指示によりギルバード達はキャロル先生と共に、今回特別に作られた安全地帯で待機する事になった。
すぐに戦闘を始められる状態でしばらく待っていると、ファルティス達は傷だらけの状態で戻ってきた。
「なっ……おい、何が――」
「――じゃ、次はギルバード君達だ。行くよ」
ギルバード達はその理由を聞こうとしたが、それはエドによって阻まれる。
彼らをやや強引気味に引き連れたエドは、広い部屋へと入っていった。
そこは階層最後の部屋ほどに広く、多くの魔物がひしめき合っている。
ギルバード達はある程度スムーズな攻略が可能にではあるが、それは魔物を避ける前提での話だ。
ここまで魔物が固まっていると流石に無理がある。
幸いにも部屋へ踏み入るまでは攻撃してこない様子であり、彼らには話をする時間が幾分か残されていた。
「エド先輩、これは一体……?」
「ん? だから君達の戦いを見るって言ったでしょ。本当に危なくなったら助けてあげますから、出来る所まで頑張って」
「「「まっ、マジですかー!!」」」
「えぇマジですよ、頑張って」
そういうエドの口元は笑って居たが、目は本気の目をしている。
下がれない事を悟ったギルバードは部屋へと踏み入り、ロイとキャロルの二人がそこへ続く。
するとすぐに数匹の魔物が彼らを取り囲むが、ギルバード達は急いで背中合わせに固まりお互いでお互いを守りに入った。
彼らを取り囲む魔物の大半はスライムと呼ばれる粘性生物だ。
この種は迷宮の外にも存在するが、兎に数が多い事が特徴となっている。
攻撃も体力大した程持っておらず、ただ数が居るだけ。
高火力の攻撃で一掃すれば良いだけなのだが、戦闘中でも分裂をする事によって数が中々減らない事も武器の一つとしている。
そしてスライムにだけ対処していると、今度は足の早いウルフが彼らの隙きを襲う。
群れでの戦いを得意とするこの種は、小柄な人形でここにしか存在しない珍しい魔物……ゴブリンによって使役されている。
スライムを盾にして相手を疲弊させ、ウルフで食い破るという作戦……実に単純だが、数で勝っている彼らが行うととても効果的であった。
ちなみにウルフは時々、ゴブリンと中の悪い個体が存在する。
その場合は勝手に仲違いし、力の弱いゴブリンが喰われるという結果に落ち着く様子が度々目撃されている。
そしてゴブリンは罠を仕掛けるという特技も持っているのだが、こうして戦闘が始まった今となっては意味の無い特技だ。
そんな相手にギルバード達は善戦し、かれこれ十数分が経過した。
「もー、ウザったいなー。クリエイトソード……に魔石を入れて……ロイ、これ使って!」
「ん? おー、ありがてぇ……って、これ爆発前じゃねぇかおい! そりゃっ!!」
「合わせます! ――ファイヤーブラスト!!」
ギルバードの魔石を用いた爆発、そしてエミリーの魔法によって魔物の十数匹がまとめて消し飛ばされた。
以前のままであれば何も出来なかったかもしれないが、デルカでの一件は何か得る物があったのだろう。
彼女は新たな挑戦をするようになったエミリーの魔法は絶好調だった。
「おー、中々やるねぇ。……でも、まぁそろそろ頃合いかな。切り上げるよ」
エドは関心したようにそう呟くと、指を鳴らした。
すると魔物が全て消滅し、広い部屋の中にはギルバード達だけが残される。
エドが彼らを連れてキャロル達の元へ戻り合流すると、ファルティスは傷の少ないギルバード達を一度見た。だがすぐにその視線を外し、悔しそうな顔で舌打ちをするだけだった。
そんな彼の様子を無視し、エドは彼らへ向けて言葉を投げかけた。
「じゃ、君達の戦いを見て僕が思った事を言わせて貰うね。……多分だけど、今のままなら君たちは迷宮を攻略出来ないよ」
「……っ」
「まぁ、そうだろうな……」
全員が悔しそうな表情を浮かべる中、ロイだけは結果が分かっていたかのように達観した表情をしている。
「純粋に強大な力を持つ相手には、どうあっても他人と協力し合わないと勝てない。それが今回のように群れであっても、ボスのような個体であってもね。だから君達は一つのチームとして戦った方が良い、このクラスは生徒が少なすぎるからね」
「……でもその他人が信用出来ない時、エドさんはどうするんですか? ……信用出来ない相手とでも協力出来るって言うのか?」
「必要とあらば誰とでも協力する、それがこの世界生き抜く方法の一つだ。信頼の証は様々な形になるけどね」
いつもなら噛み付いていたであろうロイ、そしてファルティスの両者は、エドの言葉を静かに聞いていた。
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今日は迷宮攻略を休むように言い、生徒を寮に帰したキャロルとエド。
彼らは教室に残り、軽い雑談を交わしていた。
「本日はありがとうございました、エド様」
「そう畏まらないで下さいキャロル先生、私は依頼を受けてギルドから来た身。ただのエドですよ」
だからこんな事も出来る――と言い、教壇に座って見せた。
だがその姿からは十分に丁寧さが垣間見え、対峙するキャロルからしてみればこんな事とは些か言いにくい結果になっていた。
その後もいくつか会話は続いたのだが、まだ用事のある彼女は軽く挨拶をして退出した。
そして教室に一人残されたエドは、何やら教壇に座ったまま考え事を始める。
「――今までは迷宮の任意操作等不可能だったはず。……なのに短時間かつ“向こう”から指定された範囲とは言え、操作出来たのは一体何故……」
――これがもし兵器転用出来るのであれば、とんでもない事になるな……
その呟きは幸いな事に、誰に届く事も無く消え去った。
だが彼の持つ手段の一つとして記憶されるのだった……




