第26話 トーナメントで得たもの
屋敷に到着した日の夕方。
執務から逃げていた父さんは無事に帰還し、僕の顔を見ると同時にうめき声を上げた。何でも逃げた事を後悔した事からの行動だったらしいのだが、それもすぐに収まり……ヘスターでの生活等を話しながら、夕食は無事に取る事が出来た。
そして翌日、僕達の姿は森にあった。
「エミリー、そっち行ったよ」
「了解です!」
「おいギル、もうちょっと下がってくれ! 俺たちが付いて行けん!!」
「あー、ごめーん!」
今は久々のデルカという事で、魔物の討伐依頼を受けている。
一人で行っても良かったのだが、何だかんだでロイやエミリーも付いてくる事となった。
「それにしても、私達って迷宮使えないのによくあそこまで戦えましたよね」
「あぁ、これもギルのお陰だな」
魔物の討伐と処理が終わると余裕が生まれ、雑談が始まる。
ロイの言う『ギルのお陰』と言うのは、最初の一回だけ行った草原の事だ。あの様な魔物が出てくる場所へ行くには、それなりの腕を持ったハンターが同行しなければならない。
あれによって後の方針が決まったのだが、それよりも……
「迷宮って何……?」
「あー、そっか。ギルは外に行くのがメインだったから知らないよな」
「魔物を人工的に作り出して、生徒を育成する施設のことです。ヘスターの地下にはあるんですよ? 許可が出れば使えるんですけど、私達Dクラスには出なくて……」
ロイの言う通り、僕は基本的にギルドかヘスターの外で特訓をしていた為に学園の施設をあまり知らない。
そんな僕にエミリーもロイも、森を歩きながら色々と教えてくれた。
何でも迷宮へ行くには先輩の付き添い、または担任の先生から許可が必要になる。だがロイはキャロル先生の許可は下りないと予想していた。
何でも迷宮への挑戦権を出すには、キャロル先生の一段上に位置する先生からも許可を取らなければならないらしい。
生徒から見れば簡単そうな制度だが……安全面を考慮しているであろう仕組みにより、その実は面倒な物になっているようだ。
そしてここまでの要素だけであれば良かったのだが、何とその上位に位置する先生はDクラスを酷く嫌っているらしい。
故に先生からの許可は実質下りないのだとか。
「え~……じゃあDクラスの先輩は?」
「それがよぉ? Dクラスに先輩は実質的に存在しないんだわ。……色々手は打ったんだがねぇ、どうにもならねぇよありゃあ」
「次の学年になると、皆さん頑張ってDクラスを抜け出しちゃいますからね~……」
「それに過去に自分が所属していたとしても、Dクラスとは絶対に関わりたくないみたいだからな」
そうして話をしているとまた次の魔物と遭遇し、戦闘を繰り広げた。
その後始末をしている中、僕はある事が頭に過ぎった。
「あ、所でエミリーの能力って何だったの?」
順調に勝ち進んで行き、突然敗退した僕達。
ロイが隠し玉として残しておいたそれは、結局拝むことが出来なかった。
「あーギルがピンチな場合の隠し玉にしてたんだが、結局使うことは無かったな……」
「もう見せて大丈夫……ですよね?」
「まぁもう披露して良いだろ、ギルに見られて困るようなモンでもねぇし」
「ですね、では……」
僅かに緊張した様子のエミリーがいつも通り、魔法を放つ為に詠唱を始めた。少しすると魔法が放たれた……のだが、その弾速がいつもより早い。
何でも精神状態とイメージにより、魔法に特殊な効果を追加出来るらしい。
「へぇ……凄いね!」
「えへへ、ありがとうございます」
これは母さんを初めとした、僕の知り合いには見られない特別な力だ。素直な言葉を述べると、エミリーは照れて下を向いた。
その横顔はクラス分けの時に見た悲しそうな物では無く、僅かに笑みが浮かんでいる。
「まぁまだ未知数な部分も多いし、追々調べなきゃだな」
「その時はお手伝いお願いしますね? お二人共」
「おうよ」
「うん」
クラスメートであるエミリーが僕達を頼ってくれると言うのに、それを断る僕とロイでは無い。
その問いかけに笑顔で答えると、話題は次第に僕のことへ移っていった。
「で、未知数と言えばよ? ギルも新しい能力を手に入れたんだったろ、どんなのだ?」
「一つはこれだよ。フルセット・ノーマル!!」
その言葉を口にすると魔力が体中に纏わり付き、鎧と剣と盾の形へ変化した。
今までと何も変わっていないように思えるが、一言で全ての装備を作り出せる事がまず一つ目の能力……クイックセットだ。
装備はスキルが成長したお陰か、全体的に色味がしっかりしている。作りも僅かに複雑化しており、それと同時に体格に合わせて大型化していた。
だが一番の違いはマジックソードにあった。
両刃のシンプルだった物が片刃になり、刃の無くなった面にはいくつかの装飾が施されていた。
「ほぉ~……これでちったぁ使いやすくなったか? で、次は?」
「もう仕込んであるよ、魔石頂戴」
「あいよ。……また爆発させるのか?」
さっき倒した魔物から剥ぎ取った魔石をロイから受け取る。
そしてマジックソードに押し付けながら、僕はこう返した。
「いいや? 今回は強化さ」
マジックソードは以前と同じように光り輝き始め、あの時目の前で爆発を見たエミリーは顔を強張らせている。
だが二人の予想に反してマジックソードは爆発せず、未だ僕の手の中に存在する。二人は顔を見る限り、大いに驚いて貰えたようだ。
「ふふーん。じゃあ、そろそろ良いかな……っし、すっ飛べーっ!!」
「「おぉ~……」」
気が済んだ所でマジックソードを投げると、刃では無くなった装飾部が発光を始める。そこから僅かに遅れ、マジックソード内部の魔力が外部へ漏れだした。
投げられたマジックソードは魔力を垂れ流しながら勢い良く空中を飛び回り、やがて近くの木へ突き刺さってその動作を止めた。
「どうよ?」
「どうって……お前、何なんだありゃあ!?」
「凄いですね……」
これが僕の手に入れたもう一つの能力である、ギミッククリエイトの効果だ。
今回取り付けた物は“オーバーフロータンク”と“ブースター”という物だ。それぞれが余剰魔力の一時保管、放出を担っている。
ちなみにこの二つ以外にもいくつか種類があり、ある程度は形状も変化させる事が出来る。だが一から新たにパーツを作るのは出来ないらしい。
それらの操作は物理的ギミックが無くても意識すれば可能となっている。投擲からブースター起動までが遅れた種もこれだ。
「なるほどな……で、コスト面はどんな感じなんだ?」
「まだ誤差の範囲内ではあるけど、少し悪くなってるかなぁ~」
「ほぉー、じゃあ気軽には使えない感じか……」
一度マジックソードにギミックを沢山付け、その状態で出現させた事がある。一応実体化させる事は出来たのだが、あれ一本で五本程度の魔力を消費した。
使い捨てを基本とするマジックソードであれの消耗度合いは適さないだろうと言う事で、今の形状に落ち着いていたりする。
三人でそうこう話したり考えている内に、気が付けば日が少し落ち始めていた。視界が限りなく少なくなる為、夜の森は非常に危険だ。
父さんのように木々を吹き飛ばせれば大丈夫なのかもしれないが――
「――今日はこの辺にしとこうか、帰るよ」
「分かりました~」
「りょーかい。ちょっと気が早いが……明日は行きたい場所があるんだ。付き合って貰っても良いか?」
「良いよー」
「大丈夫ですよ」
ちなみにこの日の父さんは珍しく執務をしてた。
何でも昨日の失敗から、家で僕を待てるようにしていたのだとか。
それでも父さんは幾度か抜け出そうしたのだが、今日は逆に僕が遅くなるという予定を知っていた母さん。
これを機に一気に仕事を片付けさせようと父さんを閉じ込めていたのだとか何とか……




