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剣と悪魔  作者: 鳥皿鳥助
第四章 ~長期休暇編~
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第25話 長期休暇の始まり






 クリフ領とロベルト領の間に存在する森。

 学園都市ヘスターからデルカへの街道も存在するその場所に、緑色の結晶で作られた剣であるクリスタルホーン。そして魔力で作られたマジックソードを持つ少年が居た。


 そんな少年が向ける視線の先には、数匹の狼の群れが存在する。

 こうしてお互いがお互いを認識した時点で戦闘を避けることは出来ない。少年が武器を構えると、すぐに戦闘が始まった。


 狼が左右や前方に分かれて攻めてくるのに対し、少年はクリスタルホーンを振り回すだけの単調な動きを繰り返している。こっちの扱いにはやや不慣れなようだ。

 だがそれとは対象的に、マジックソードの扱いには慣れているらしい。器用に捻ったり回したりしながら縦横無尽にその軌道を(えが)き、クリスタルホーンで捌ききれなかった狼を対処する。

 時にはマジックソードを投げつけ、新たなマジックソードを作り出すこともあった。


 そうして鮮やかな戦いを繰り広げ、優位に立っている少年。

 捨て身のように飛びかかる狼に対して、少年はマジックソードを逆手に構えると狼の前脚を受け止めた。

 狼の後ろ足が地に付いたと同時に、受け止めた狼へ回し蹴りをお見舞いした。そしてその隙きを逃すまいと飛びかかって来た次の狼へ、クリスタルホーンから結晶を飛ばして牽制をする。

 その牽制によって出来た隙きを逃す少年では無く、蹴った狼を手早く始末するとこちらもすぐに始末した。


 こうして気が付けば、狼の群れはその全てが地に伏していた――






 ――――――――――――――――――――






「ギルはすっげぇな、やっぱ……」

「私達、完全に足手まといだったんですね……」

「そんな事ないよ? あの順位まで行けたのは、二人の力があったからこそなんだしさ」


 僕達のチームはトーナメントで戦い抜いた結果、同学年中十三位の成績を残していた。

 十三位も充分な高成績らしいのだが、もう少し上位を狙えるかもしれないと思っていた僕達は少しだけ落ち込んでいた。


 トーナメント最後の試合で負けた原因、それは恐らく連携の確認不足と人数不足だ。人数はどうする事も出来なかったとして、僕達は個々の力を伸ばす事に集中し過ぎた。

 そしてチーム戦の練習が疎かとなった結果がこれだ。


 それに加えて相手の作戦勝ちと言う事もあっただろう。

 他のチームは僕を警戒していたのに対し、あのチームはエミリーとロイを真っ先に倒した。

 人数差の有利を取られ、そのまま押し切られてしまったのだ。


 そんな押し切られた僕は、試合後にマジックウェポンサックが久しぶりの成長を見せた。

 これによりクイックセットとギミッククリエイトという能力が使えるようになったらしい。だが『もう少し特訓をしていればトーナメントが始まる前に入手出来たのでは』と少し悔やんでいた。


 でもそれらは既に過ぎてしまった事だし、これらの経験が今後に活かせない訳じゃない。

 そう思った僕は、この経験を今後に活かす事にした。


 そして現在……


「所でよぉギル、デルカまでって後どの位だ? 」

「んー、多分もう少しで付くと思うよ」

「デルカとヘスターって結構近かったんですね~」


 トーナメント……それの行われていた学園祭が終わると、生徒達は長期休暇が始まる。

 各生徒全員が各々の実家に帰るのだが、それは僕とて例外では無い。今は学園のあるヘスターから、僕の実家のあるデルカへ帰っている途中だ。


 だがそんな僕には、トーナメントを共に戦ったチームメンバーにして友人が付いてきている。

 何でもロイは早くに自立したかったらしく、親と実質的な決別をしている。

 双方が基本的には干渉しないが、成人までは責任を持つという約束をしている。だから家に帰るのも双方のどちらかが願わない限り好きにして良いらしい。

 成人すればブランの名を捨てる事になる……と言うのは本人の言葉だ。


 一方のエミリーは男爵家の親を持っている。

 そんな親に、『子爵家であるギルバード君()と仲良くするべし』と言われているらしい。

 その言葉には打算もあるのかもしれないが、その実は単純にエミリーと僕達が仲良くして欲しいのかもしれない。


「……ねぇ、ここから先は走って行かない?」

「ギルの全力疾走には付いて行けん、俺は遠慮させて貰うぜ」

「私もその、追いつける自信が無いので……」

「ハハッ、分かってるって。担いで行ってあげるよ!!」

「おっ、おま……止めろ!! 分かってねぇし、結構怖いんだよそれ!!!」

「え? とっても楽しいじゃないですか。私は好きですよ?」

「じゃあ行くよ……クリエイト・アーマー!!」

「嘘だろ、おい止めろ!! やっぱり速すぎて怖いじゃねぇかぁぁぁあああ!!!!!!!」






 ――――――――――――――――――――





「ただいまー」

「お邪魔しまーす!」

「ぜぇぜぇ……おっ、お邪魔します……」


 特に何事も無く、僕達は無事にデルカ……そしてクリフ家の屋敷へと着く事が出来た。


 ちなみに父さんたちは迎えに来たがっていたのだが、自分の足で行ける距離。そして友達と共に来るのであれば自分の足で帰りたいという思いがあり、それを断っている。

 そしてその返事を見た父さんは複雑な気持ちになり、荒ぶっていたとかいないとか……


 ヘスターへ向かった時と変わらない屋敷へ入ると、我が家のメイドであるステラと執事のウェインが出迎えてくれた。


「ん? おぉ、ギル坊じゃねぇか。結構早かったな」

「ただいま、ステラ。走って帰ってきたからね」

「お帰りなさいませ、ギルバード様。そちらのお二人はご学友の方でしょうか? 」

「うん。しばらく一緒に居るつもりなんだけど、部屋は大丈夫? 」


 予定より早く来てしまったという事は、もしかしたら準備が出来てないかもしれない。

 そう思って聞いたが、その心配はしなくて大丈夫だったらしい。


「問題ございません。ギルバード様にご学友が出来たと聞いた時から、ステラが毎日笑顔で準備しておりましたので」

「なっ……! てめぇ、それをここでバラすんじゃねぇよ!!」

「へぇ~、その話また後で聞かせてね。ありがとう、ステラ!」

「勿論ですギルバード様。ではお二人は私がご案内致しますので、ギルバード様は執務室へお向かい下さい」

「分かった、じゃあ後でね~」

「おまっ、お前らぁ……!!」


 ステラの視線から逃げるように、ウェインはロイとエミリーを客室に案内した。

 一方の僕もさっさと執務室へ向かうのだが、遠くでステラの悶える声が聞こえた気がした。


 だがそれは特に気にせず、僕は執務室の扉を勢いよく開いた。

 開ききった扉が大きな音を立てて壁にぶつかるが、父さんの全力でも壊れないこの扉は僕程度の力では傷一つ付かない。

 他の扉は普通にゆっくりと開けるのだが、ここだけはいつもこうして開けている。よく分からないが、父さん曰くそれがこの部屋のルールらしい。


「ただいま!!」

「あら? 何やら騒がしいと思ったらギルだったのね。お帰りなさい」

「ただいま、母さん」

「元気にしていたかしら?」

「うん」


 ここは本来父さんが居るべき部屋なのだが、中に居たのはやっぱり母さんだった。大方書類仕事が嫌で逃げたのだろう。

 ここでは大抵母さんかウェインが仕事をしている。


「学園での生活を聞くのはあの人が帰ってきてからにしましょう、先にギルドへ行くと良いわ」

「分かった、行ってきます!」

「いってらっしゃーい」


 母さんに挨拶を済ませると、僕は屋敷を飛び出した。

 道中で屋台の店主に声を掛けられたりもしたが、そこでの挨拶も程々に僕はデルカのギルドへと向かう。


「こんにちは~」

「あら? ギルバード君、久しぶりね」


 ギルドへ入ると、昔から受付をしてくれているティファニーさんが真っ先に声を掛けてきた。


「予定より早いお帰りみたいだけど、ヘスターはどうだった? 」

「いい街でしたよ、向こうのギルドの人達も良くしてくれてましたし」

「そう、なら良かったわ」

「よっ、久しぶりだな」

「お帰り、ギル坊!! 」

「こんにちは!」


 それに続いて直後に幾人かの同業者(ハンター)に囲まれてしばらく雑談をしたのだが、僕はその人数が少ない事に気が付いた。


「――所で、何で人が少なくないですか?」

「各地で魔物の数が増えているらしく、大半が遠出してるのだよ」

「あ、カイエル支部長! お久しぶりです、森は大丈夫ですか? 」

「あぁ、君のご両親が何とかしているから問題無い」


 ギルドは魔の森から溢れ出る魔物を適度に間引き、可能な限りスタンピードの頻度をコントロールしている。

 だからハンターの数が減ればまたスタンピードが起きるかと思ったのだが、その心配は無いようだ。


「フェリエリさんとプリンさんも、ギルバード君が帰ってくるこの時に限って指名依頼が来ちゃったのよ。かなり悔しがってたわよ?」


 カイエル支部長とティファニーさんは、最近のデルカを色々教えてくれた。

 どうやらハンターが少ないおかげで業務に余裕が出来ているらしく、こうしてしばらくハンター達と共に雑談する事が出来た。

 そんな雑談が一段落した所で僕が顔を上げると、ギルドの隅に見慣れない人を見つけた。


「あそこでご飯を食べ続けてる金髪さんは誰なんですか?」

「あー、最近ここへ来た新入りだ。腕っぷしが強い上に、俺たち全員が立ち向かっても勝てない程の大食いだ」

「ルドさんですね。どこかの誰か達と違って良識があるので、ギルドとしては非常に助かっています」


 ルド……という金髪の女性は名前を呼ばれたからか、少しの間こちらに目を向けた。

 だがすぐに興味が失せたのか、食事を再開した。






 ――――――――――――――――――――






 時間と場所は変わってロベルト領、酒場が盛り上がり時となる深夜。

 狭い酒場で安い酒を飲んだくれる二人の男が居た。


「なぁ、面白い話があるんだが……聞いてかないか? 」

「あぁー? やることねぇし、しょうがねぇから聞いてやるよぉ……」


 語り手の男は身なりが整っており、それなりの清潔感が感じられる。

 だが聞き手の青年は土等で汚れた服を着ており、清潔感はあまり感じられない。


「デルカは裕福、って噂は聞いたことあるだろ?」

「あぁー、有名なやつだな」

「だが実はあの領主、その裕福な民衆以上に豪遊してるって噂だ」

「何だと……?」

「奴等の資金もここと同じ量なはずだ。じゃあ、その豪遊に使う資金はどこから出ていると思う?」

「……それはデルカが裏で何か怪しいことをしているって事か!?」

「あぁ、裏でロベルト領から盗んだモノを高額で売りさばいているらしい。あくまでも噂だがな」

「奴等、俺達が必死に作った物を……! 絶対に許さねぇ!!」


 青年はその目にデルカへの怒りを宿した。

 そして勢い良く立ち上がると


「俺はこの話を仲間にも教えて来る。ありがとよ、衛兵のおっさん!!」

「おう、良いって事よ」


 ――まっ、あくまでも“噂”だがな……


 怒りに飲み込まれてしまった青年にその言葉が届く事は無かった。






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