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Decayed Ruler   作者: カルガモ
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埋まれたものは

序章

沼地に風が吹き渡る。生き物の気配のない死んだ水はぬるく、大地の熱を伝えていた。迷い込んだ小鹿が怯え、出てきたばかりの暗い森に駆け込む。

地面が不気味に鳴動した。




ここは南の大国シルストレ連合王国の辺境都市グレイヴン。祭日の空気に街は浮き足立ち、音楽と食べ物の匂いが溢れかえっていた。

街の一角に一際人の集まる所があった。髪色も様々な頭の垣根の向こうには小さな人形芝居の舞台があり、今しも幕が上がったばかりであった。

「ああ、それでは行ってしまうというのか。ともに生きると誓ったのではなかったか。ならば私がついて行こう。あなたの盾となり剣となり、死が我らを分かつまで」

題目は勇敢な王女と勇者が魔王の討伐に赴く御伽噺。美しい王女を演じているのは麻のドレスを纏った粗末な木の人形、動かし劇に声を与えているのは歳若い青年である。しかし勇者と王女、二体の人形は生き生きと動き回り、青年の声と乙女の声が入り交じる様子は魔法のようで、観衆は手に汗を握り舞台を見つめた。舞台の脇に座り込んだ娘の横笛に合わせ、拳を振り歓声を飛ばし、一心に人形達を応援する。

やがて魔王は倒され、真っ白い婚礼衣装に身を包んだ二体の人形が手を繋いで気取った礼をする。鳴り止まない拍手の中で、横笛の娘の飾り小箱に銅貨銀貨が投げ込まれた。束の間の夢を作り出した二人の旅芸人は、やり遂げた笑みを交わすでもなく荷をまとめ、ようやく人垣の引いた石畳を歩き出した。

「ナヴル、二週間お疲れ様でした」

娘が少し顔を傾け、微笑んで青年を労った。

「いやこれも暖かい月の間だけのお楽しみ、終わってしまって実に残念!またずっと雪の中で木を削り歯車とよろしく暮らさねばならんとは、まったく気が滅入ることだ」

言葉と裏腹に、青年のブーツは軽く楽しげに石畳を叩き、短く後ろに括った砂色の髪が、鳥がついばんでいるようなひょこひょことおどけた動きで揺れている。

「またそんなことをおっしゃる。お父様の跡を継ぐのでしょう?またお小言を貰ってしまいますよ。叱ったあとのお父様を慰めるのは骨なのです、仕事を増やさないでください。」

仕事道具を収めた大きな箱を背負った娘は、重さを感じさせぬ動きで足を運ぶ。青年の箱と大同じものだが、小柄な分だけ大きく見える。

「ゼノ、君は俺のおふくろか何かかい?そして師匠は俺の兄とか」

「心外ですね。ああ見えてお父様は繊細なのです。あなたを心配して叱って、その後で必ず言いすぎたと一人で落ち込むのですよ、可哀想です」

「···それは初めて聞いたけど、なんてめんどくさい人だ···」

二人の歩く両側に酒場の立ち並んだ通りには、いつしか暗くなりかけた夕方の空気が漂っていた。




「ただいま!」

宿屋の二階の部屋の戸を勢いよく開き、ナヴルが声を張り上げた。

「ただいま戻りました、お父様。遅くなってしまいすみません、ナヴルが酒場の客に捕まってしまって···」

宿屋の硬い寝台に座り、壁にもたれて分厚い本を開いていた男が顔を上げた。年の頃は中年に差し掛かったあたり、小さな眼鏡を掛け学者のような風貌だが、節くれだった手は職人のものだ。名前をアグノックという。

「おかえり、ふたりとも。遅いと思えば、ナヴルはまた随分と酔っ払っているな。ゼノに甘えるのも程々にしなければいかん。」

長い間読んでいたのか、眼鏡の奥の小さな眼をしぱしぱさせながらはアグノックは眉根をぎゅっと寄せた。

「うっふふふふふ、俺は全然全く酔ってなぞいませんよ」

「酔っ払いは皆そう言う。明日は早く出たいのだ。私は後でいいから、早く湯を使って寝てしまいなさい」

「ひっく、はは、ゼノは正しかったよ!やっぱり師匠は俺の親父なんだなあ」

目を白黒させるアグノックを置いて、あくびをひとつして心もとない足取りで階下に降りていくナヴルの足音を聞きながら、ゼノは部屋の隅の自分の背嚢に手を伸ばした。この宿には数日間留まっただけだが、明日の朝発つのなら荷物をまとめておかねばならない。もっとも、ゼノ自身の物はごく僅かだ。ゼノはアグノックの作った精巧な術式自動人形。人間そっくりなようでも、生活に人間ほど手間はかからないのだった。





まだ何も始まってませんが、ゆっくり続きを頑張ります〜

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