Harmony⑤
千切れた制府所属機が大量に転がる道を走り続けて辿り着いた先は、表示されているマップにある筈の無い壁で、あの通信以来通信士と連絡が取れない。
今までは自分でルートの再送信を求めようとしていたが、エキウムに連絡が出来ないか聞いてみる。
「こんな壁マップにはない、あの通信士と連絡は取れないのか?」
「んっとね〜、出来るよ……あっ、ダリア〜、マップに無い壁があるんだって。そうそう黒くて高くて大きいの……Glory? そうなんだ〜、なら逃げなきゃね〜」
「Gloryって何、逃げないといけないの? ねぇ、エキウム」
凄まじい振動と共に目の前の壁がゆっくりと動き、それが大きな異形だと言う事を、今更ながら悟る。
特に焦る様子も無くそれを眺めているエキウムを引っ張って駆け出し、出来るだけ見付からない遠くに逃げようと足を前に出すが、大きな影が辺り一帯を覆う。
空には太陽を遮る程の巨体がゆっくりと落ちて来ていて、あともう少しの所でエキウムが転んで、繋いでいた手が離れてしまう。
このまま行けばギリギリ間に合うが、ここで逃げてばかりの人生と決別出来るなら、エキウムを助けて死ぬ事も構わない。
「もう……あの日助けてくれた手を離す訳にはいかない、今度は俺が助けて死んだとしても、あの人は怒らない筈だ。やれ乃音!」
自分に喝を入れる気で思い切り叫んで反転し、足を怪我して動けなくなったエキウムの前に両手を広げて立つ。
〈Uranos Code展開……Connect/arakurietisiaowisatawahatanaaranezanusamietisiaowatanaahisatawagusedattiourietsiaowisatawahatana〉
「Alice In elbadaernU」
背後から声が聞こえてエキウムの方を見ると、ふわふわと纏っていた柔らかい雰囲気が消え、いつも映像で見ていた、LouenhideのMVと同じ、凛とした強さを纏っていた。
全身に鳥肌が立って、ゾクゾクとした感覚が全身に走り、目の前に膨大なデータが表示されていく。
流れている曲のリズムに合わせて文字が跳ねたり、張り巡らされた1本の線が揺れたりして、いつの間にか異形の落下が止まっていた。
「あーあーあーあー、それ使っちゃったんだ。シン大激怒してるよ、殺されちゃうかもね」
「通信士の人、やっと繋がった。どうすれば良い、壁だと思ってたのが化け物で……」
「しーっ……これはGloryって言って、人々の敗れた夢が具現化したもの。それをあの門に通すと、サイバーテロ感覚で世界が書き換えられてしまうんだよねー。その力を持ったんだし、ちゃちゃっと倒しちゃってねー」
「あっ、おい! まだ分からないことがいっぱいあって……あぁもう」
一方的に通信を切られて放置され、歌い続けるエキウムと、動き始めたGloryに挟まれて、一体何をどうすれば良いのか分からない。
だが、ウラノスレコードがASCを侵食するまで分からなかったが、Gloryの中に核のような人間が存在していた。
「さぁ歌おうSing Along Now……初めまして私はウラノスだよ〜、ASCの創造者がこんなに緩いと思わなかった? それは置いといて、まだ覚醒していない君には力が無い。だから今すぐ首を掻っ切ってくれても良いよ?」
「はっ……? 何言って……」
「おいお前! ウラノスレコードを使ったのか、今の空に落ちたた光は確かにウラノスの物だ。今すぐ辞退しろ、そして俺のところに持って……」
「グァァァァァ!」
大きく体を反らして咆哮を上げたGloryに気圧されている間に、エキウムに小さなGloryが襲い掛かる。
『小心者でも卑怯な人間になっても構わない、けど、上手く笑える人になって。私はあなたが……』
走馬灯のように突如映った記憶で目が覚め、瓦礫の下に埋まっていた何処の誰かも分からない死体から、その人が生前思い描いていた夢を取り出す。