Harmony④
〈System:Administrator Chip再起動/Welcome Nooto〉
〈言語設定/日本語:心身共に異常なし〉
意識が戻った俺に反応して、いつの間にか復旧していたASCが体内をスキャン、診断、制府にデータ転送を行う。
瞼を開けると、青空が広がる道端に転がっていて、視界に溢れる筈のデータが鳴りをひそめる程、がらんとした瓦礫の山だった。
「信じられない、本当に外に捨ててった」
周りを見回して状況を把握しようとしたが、1度目を瞑ってからASCで街の景色を映し出し、それに照らし合わせようともう1度目を開ける。
だがそこには目を瞑る前と変わらない景色が広がり、ASCが薄く映す建物の虚像だけが並び、現実に広がるのはその残骸の海。
力が抜けそうになった足を踏ん張らせて持ち堪えるが、昨日までそこに広がっていた景色は、まるで103年前の原子爆弾で、焼け野原になった国土のように荒れている。
どこかに人が居ないかもう一度見回していると、背後の瓦礫が動く音がした。
「良かった……そこに誰か……」
安堵して振り返った俺の期待を覆した主は、見た事も無い形状をした異形で、赤く不気味に光った瞳が、穴を開けんとするように見つめていた。
それに背中を向けずにゆっくりと距離を離そうとしたが、瓦礫に躓いて、大きな音を出して転倒してしまう。
その音を聞いた瞬間に異形がこちらを向き、大きな口を開けて、大きな歯で俺の足を食い千切ろうとする。
だが、異形が目前に迫った時、隣からそれを阻止する様に割り込んだ人影が、異形ごとどこかに飛んでいってしまう。
「な……なに、人型の異形?」
「またお前か、スマートダストがあって良かったな。ウラノスに感謝しとけ乃音」
複数の人を連れたシンが瓦礫の陰から姿を現し、瓦礫の山に異形を叩きつけた格闘機が交戦している隙に隣を走り抜け、停めてあった単車の荷台に跨る。
その場を離れて数分後に大きな道に出ると、大きな振動が下を駆け抜けたかと思うと、進路の道路が隆起して、先程より一回り大きな異形が現れる。
百足のような異形が先頭を走る俺の乗るバイクを待ち構え、再び大きな口を開いて食べようとする。
だが、シンはそのまま突っ切ろうと速度を上げ、遂に口の入口に差し掛かる。
頭上に出来た大きな影が百足の口を力技で上から押さえ付け、反対の手を道路に付けてジャンプ台の代わりになる。
先程よりも一回り大きな格闘機の腕を駆け上ってジャンプし、大きく飛距離を稼いでから、道路に着くスレスレでエアーを発して、衝撃を殺して着地する。
バイクが風を切る音であまり聞こえないが、1番最初に襲われた時から聞こえる歌は、世界中がよく知るトップアーティストの曲で、前方に見える国道の真ん中で歌っている影は、ひらひらとした服を靡かせながら、隣を駆け抜けると同時に歌い終える。
ブレーキを掛けて止まったシンはバイクから下りると、胸ポケットに入っていた何かの化学物質を取り出し、太陽に翳して色が変わるのを眺めている、
そんな訳の分からない化学物質よりも、広い国道で歌っていた、世界的に有名なバンドである〈Louenhide〉の、ボーカルであるエキウムの方が気になっていた。
「シン、私は上手く歌えてた?」
「あぁ、まだ聖冬のに比べると物足りないな」
「えっとあの……エキウム・ローズクォーツですよね、初投稿からずっとファンで、て言うかなんでこんな……」
「シン! そこの下にGloryの反応が、今すぐ避けて!」
悲鳴にも似た警告が飛んで来た時には既に遅く、地面が隆起した景色から突然晴れ空が映り、地面に叩き付けられるように落ちる。
「格闘機はいつ到着する! それじゃあ遅い、ウラノスレコードが瓦礫の向こうに……おい乃音、そのシリンダーは何があっても手放すな、必ず俺のところに持ってこい」
「えぇっ……俺なんかに……」
「分かったか!」
「……分かったよ」
「ほらほら上から追撃が来るよ! ASCにルート送るから見てよ」
シンとの会話に割り込んだ通信士の声が、頭上注意の警告を出すASCを見るように言い、咄嗟にシリンダーを拾って、こっちに居たエキウムの手を取って走り出す。