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NAMELESS  作者: 聖 聖冬
3/5

Harmony③

ふわっと落ちる感覚に抗おうと手を伸ばし、勢いよく上体を起こして手を掻く。

何かに掴まろうと必死に探すが、「ぷっ……あはははっ」と言う気の抜けるような笑い声が聞こえ、怖くて開けられなかった瞼を開いてみる。


目の前には鮮やかな臙脂色えんじいろの長髪を揺らした少女が、椅子の背もたれに体重を預けて笑っていた。

自分の姿に恥ずかしくなって、突き出していた手を誤魔化すように引っ込めると、自動ドアの向こうから鋭い目付きの男が姿を現す。


「あの状態から生き残るのか、大したものだな乃音のおと


何故か俺の名前を知っている男は、自分の言葉に対して無反応なのを見ると、気に食わないと言う顔で頭を搔く。


「駄目だよシン、知らない人に名を知られてたらそりゃ驚くよ」


「これはお前の荷物だ、この中に情報の入っているものがいくつかあった」


男が普段学校に行く時などに使っている俺の鞄を投げた為、足に当たるのに備えて歯を食いしばるが、走る筈の痛みが全く無い。

手探りで足を探そうとするが、付いている筈の腕も動かない。


仕方無くここの誰かに聞こうとするが声も出ない、自分の体なのにこの見知らぬ人の方が知っていて、この体は本当に俺のものなのか疑わしくなる。

その様子を見てか、何かを思い出したようにこちらからは見えないASCを操作し、「忘れているなあいつ」と言って、操作を終えて私に向けてナイフを振り下ろす。


「うわぁ」


人間に予め組み込まれたプログラムによる防衛本能が働き、咄嗟に腕を顔の前に出して盾にし、驚きで声が裏返る。

だが痛みも熱も体を走ることは無く、恐る恐る目を開けた先に映ったのは、ナイフを下ろして去って行く後ろ姿だった。


「あの、誘拐と人のぷ……プライバシーを覗き見るのは、制府憲法の……」


「制府は国民を見捨てた、天皇を守る為に東京だけを急速に復旧して閉じ籠った。誰も入れない、誰も出ることが出来ない区域になった」


「それじゃあ、もうここは日本であって日本じゃないって事で、治外法権が成立してるって事に……」


「それくらいは分かるならもう良い、こいつに足を付けて追い出せ」


絶望した声で言葉をつむぐ私にイライラしたのか、話をさえぎって物騒な冗談を言い捨て、誰の返事も聞かずに出ていった。


「追い出さないで、こんな所に放り出されたら……もう日本には昔の優しさなんてないんですよ、世代が変わるにつれ人がゴミになっていって……」


「ごめんねー、もう任務の時間だからさ。どうでも良い分かり切った正論を聞いてられないんだ」


笑顔のままの臙脂色の髪の少女に何かをされ、ふわふわと再び意識が遠退いていって、ベッドに背中から落ちた感覚が最後になった。

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