映画
寂れたビルの一室で、潰れそうな映画プロダクションがラストチャンスなる映画のシナリオを捻り出そうとしている。
狭いコンクリートの一室に、パイプ椅子に座ったまま後ろに仰け反らせてギシギシと言わせている監督と、頭を抱えたままバリバリと音が聴こえそうなほど髪の毛を掻きむしっている助監督が頭を悩ませていた。
「で、なにか良い案は浮かんだかね?」 監督は椅子のアンバランスさを味わいながら言った。
「それは僕のセリフですよ。監督」 髪の毛を掻きむしる手を止め、ボサボサの髪の毛の間から助監督が監督を睨んで言った。
「じゃあもう、さっき俺が出した案で良いじゃないか」
「それがダメだから考えてるんじゃないですか」
「いや、良いと思うよ。『ゾンビとなったエイリアンをニンジャが倒す』 という痛快活劇。もうこれしか無いね」
「いや、ダメですね。前に大ゴケしたじゃないですか! 『ゾンビとなったエイリアンをサムライが倒す』 ってやつが!」
「今度は大丈夫だよ。今、世界的にニンジャブームだから」
「前も言ってたじゃないですか! 『今、空前のサムライブームだ』 って」
「あれには活劇要素が足りなかったんだよ」
「むしろ活劇要素しか無かったじゃないですか」
「じゃあ今度はヒューマンドラマな要素も入れようか」
「ふうん。どんなのですか?」
「結婚を反対されたエイリアンが心中するってのはどうかな?」
「まあ生物学的にヒューマンでは無いですがね。で、『心中してゾンビになってしまう』…と」
「え?初めからゾンビのエイリアン同士じゃないの?」
「ますますヒューマン度が減ってるじゃないですか!」
「非現実を味わえるってのが映画の魅力のひとつじゃないのかね?」
「それは確かにそうですが……」
「普通の角度からでは見えない視点で物を描く、これが腕だよ」
「でも、いつも捻りすぎて観客に伝わって無いじゃないですか。腕は良いのに…監督の悪いクセですよ」
「で、ラストは「地球爆破オチ」 か「夢オチ」。どっちが良いかな?」
「いつもラストはどっちかじゃないですか! それ監督のただの悪いクセですよ!」
「なんだ。全部ダメじゃないか」
「そういうことですね。もうちゃんと考えましょう。」
「良いと思うんだけどなぁ」
「そもそもそういう映画があったら監督は観たいんですか?」
「あ、俺は『タイタニック』が観たいな」
「もう沈んじまえよ! こんな会社!」
「監督!なに寝てるんですか?起きてくださいよ!」
「おお、すまんすまん。夢を見てたようだ」
「まったく、国際映画祭のレッドカーペットを歩く前に居眠り出来る監督なんてたいしたもんですよ」
「いやいや、ここまで来れたのは助監督である君のおかげだよ」
「ありがとうございます。でもこれはこの映画に係った皆のおかげ、そして何より監督のおちからです」
「いやいや、恐縮だよ。しかしここまで当たるとは思わなかったよ。『豪華客船内で増殖したゾンビから脱出』 って内容の映画がウケるなんてね」
「さすが監督ですよ。あのラストも皆、大絶賛ですよ!とくにクライマックスで氷山に当たるシーンが!」
「ほんとは地球を爆破させるオチだったんだけど、そうすると次回作が作れないからね。」
「さすが映画上手、商売上手ですね!」
「あっはっはっは」
「あっはっはっは」