第八話 怪獣君と都市伝説の正体
「ナスノさん。」
「……どいうしたの怪獣君?改まって?」
水町さんと怪獣君が話した翌日、夕日が赤々と輝く帰り道。
今日の怪獣君はやけに気合いが入っている様子。
「……僕は君のボディーガードだ。」
「それがどうかしたの?」
「……ボディーガードは今日限りにしたいんだ。」
「……え?」
怪獣君の言葉に思わず絶句するナスノさん。
「ど、どどどうして?……わたしといるの嫌になったの?」
「違うんだナスノさん。」
「僕は人避けとして、君のボディーガードになった。」
「でも本当は君と同じように前を向いて進みたいんだ。」
「……どういうこと?」
「君に危害を加えるやつを僕は許せない。」
怪獣君の視線は私のフードに移る。
「おい、そこのあんた!!」
怪獣君は今までにない程張り上げた声でこちらに向かって声を掛ける。
「いつもついて来ていることはわかってたんだ!!」
「でももうはっきり言ってやる!」
「ナスノは渡さない!!」
「これ以上彼女に付きまとうのは止めてくれ!!!!」
決意に満ちた彼の言葉が周囲に響く。
あの温厚な怪獣君がこんなにも勇ましく物言いしたのだ。
……ふふ、それじゃあ仕方ない。
勘違いしている彼のために私はフードを脱いだ。
「……鍋島先輩!?」
怪獣君も私の素顔に気付いて驚いてるようだ。
私はバスケ部マネージャーにして図書委員、鍋島詩乃、14歳!
これまで「怪獣君と幼女ちゃん」を見届けてきたストーカーの正体だ。
茶髪ガールズと彼がすれ違った時も、昼休みでの二人の出会いの時も、放課後の時間も、図書室での作戦会議も、彼と水町さんが話していたときも彼らの様子を観察し読者の皆さんに伝えてきたのが私だ。
怪獣君をどうにかしてバスケ部に勧誘するために今日までストーカーをしてきた。
それもこれもアヤト君との取引のためだ。
「私は君をどうしてもウチのバスケ部に誘いたいんだ!君ほどの高身長!手芸部なんて勿体ない!」
「……じゃあ鍋島先輩の目的って、僕の方!?」
「当然だ!!」
「あの手紙も鍋島先輩が書いたんですか?」
「手紙ね、あれは私じゃない。」
「手紙を作ったのは俺だぜ、怪獣!」
「……え、アヤト!?」
声の主、アヤト君が姿を怪獣君の視界に現れる。
「いやー今日は腹が痛いって言って早抜けしてきたぜ。実際可笑しくって腹が痛いからな!」
「……もう、アヤト君。もっと言い方があるんじゃないかしら?」
「水町さんまで!?」
アヤト君の後ろから現れるのは水町さん。
「みんな僕達を騙していたの?」
「悪いな、怪獣!今回のストーカー事件、全部俺が仕組んだぜ!!」
「……どういうことなんだ?」
「幼女ちゃんが怪獣君と仲良くなりたいって言ってたのを聞いたもんだからさ、鍋島先輩に協力してもらってボディーガードをするって言うのが面白いんじゃないかって思ったんだよ!」
「都市伝説の話も作り話だったのよ、殆ど鍋島先輩の実話だったけどね。」
二人が話した「浜音の笛吹き」の伝承は私が怪獣君に入部を断られてからの一週間の出来事であった。
実際ショックだった!彼ほどの逸材、そういないから!
「でもよ、鍋島先輩はバスケ部のマネージャーで、ホイッスルいつも持ってるから笛吹きって我ながら上手く考えたと思うんだけどな!」
呆れ顔の水町さんとにししと笑うアヤト君。
「そもそもなんで先輩が協力を?」
「君と仲のいいアヤト君が協力すれば君を説得し必ずバスケ部に入れてくれると言われたんだ。条件として君達が別れた場合、の話だったけどね。」
残念ながら目論み通りにはいかなかったみたいだけど……。
私的には彼らの恋路を見届けることが出来たのでそれはそれで満足だ。
ずっと見守っていたからか情が移ってしまったのかもしれない。
「え、つまり……?」
困惑した怪獣君はナスノをみる。
先程の動揺から打って変わり赤々と赤面し、うなだれている。
「……怪獣君って、意外と馬鹿なのね。」
「な、なんだよナスノさん!?」
怪獣君の言葉に痺れを切らしたナスノさん。
「……あ~、もう!!」
「わ、私は……、さ、最初から!」
「あ、あ、あなたと……。」
「あ、あなたといたかっただけなんだから!!!!」
顔を真っ赤にさせたナスノさんは怪獣君を睨み付けた。
「え?」
呆気にとられる怪獣君に先程の勇ましさはなく、彼も次第に赤く染まっていく。
夕日に照らされ赤く染まる彼らを私達「浜音の笛吹き」はニヤニヤしながらしばらく見守っていたのであった。
2018/3/22 一部修正しました。