第五話 怪獣君と揺れる感情
「なんでこいつらが一緒なのよ怪獣君!」
「まぁまぁいいじゃないか幼女ちゃん!」
「私はあんたみたいなチャラ男苦手なの!あと幼女って呼ぶな!!」
「こいつは手厳しいぜ、怪獣。」
幼女ちゃんからの厳しい言葉に怯むアヤト君。
「もう、アヤト君ったら。」
「……ははは。」
作戦会議を終えた三人は数日後ナスノを含む四人で下校し、ストーカーの出方を見ることにした。
それは何にしても犯人の情報が少ない事を懸念した水町さんの案でした。
四人は二人がいつも通っている通学路を辿っていく。
彼らは住宅街を仲良く歩いていました。
「そもそもなんでサッカー部のあんたが私達と一緒に帰ってるのよ!」
「はは、今日はいいんだよ幼女ちゃん。毎日練習してるからさ!」
「そんなの説明になってないわよ!」
「まぁそんな事よりも折角四人で帰るんだからさ、どっか寄っていこうぜ!コンビニとか!」
アヤト君はにこやかに語る。
彼は今回のために部活動を休んだ。
アヤト君といがみあうナスノを余所に水町さんは怪獣君に問いかける。
「……どう、ゴボウ君?ついてきてる?」
水町さんの問いに彼は首を縦に振る。
「……いつもより距離を取っているけど確かについてきてる。」
怪獣君の言ったとおり、フードの人物は姿を隠しながら確実に彼らの後を追っていました。
しかし、いつも以上に離れているために正確な動向の観察は出来ませんでした。
「……そう、なのね。」
水町も不安げに答えた。
「浜音の笛吹き」、この噂を聞いてから怪獣君の中の不安は大きくなっていました。
しかし、それ以上に今彼の心に強く残るモヤモヤがありました。
「コンビニに寄るって言うなら何か驕りなさいよチャラ男!」
「いやいや、それは勘弁だぜ幼女ちゃん!」
「だーかーら!幼女って呼ぶな!!」
ナスノと話すアヤト君の姿……、これが彼の頭を埋めていました。
話の内容自体、仲睦まじい様子ではありませんがおしゃべりなナスノと対等に話を続けるアヤト君、怪獣君には彼がどうにも羨ましく感じたようです。
いつもナスノの側にいるのは自分なのに、結局ストーカーの正体もわからずただただ友人に頼るだけ……、怪獣君はそんな自分に対して少し悲しくなりました。
仲良しの友達に囲まれて楽しいはずの下校時間。
怪獣君はその気持ちを誰かに吐き出したりせず自分の中に収めようとしました。
「……なぁ怪獣!お前もそう思うだろ?」
そんな彼の元に聞こえてきたのはアヤトの声でした。
「……あ、ごめん。考え事してたんだ。なんだいアヤト?」
驚いて答える怪獣君にアヤト君は更に語りかけました。
「こんなじゃじゃ馬な幼女の相手はお前ぐらいデカいやつじゃないと駄目だって話さ!」
四人全員に聞こえるような大声で断言するアヤト君、突然の発言に怪獣君は驚き萎縮してしまいました。
「……僕なんて、ただ大きいだけで。」
口ごもり俯く怪獣君に別の人物から声がかかります。
「しっかりしなさい怪獣君!!あなたは私のボディーガードなんだから!!」
それは幼女ちゃん、ナスノからの言葉でした。
その声に顔を上げた怪獣君はまっすぐに彼を見つめるナスノと目が合いました。
その澄んだ瞳を見た瞬間、怪獣君の中のモヤモヤはふき飛んでいきました。
「……そうよ、ゴボウ君が優しいのは私達が知ってるから!」
見つめ合う二人の隣から水町さんが声を掛ける。
「……水町さん。」
「まぁとにかくよ!そういう訳だからコンビニ寄ろうぜ!怪獣の驕りで!」
横やりをいれるアヤト君の言葉に他の三人は同時に答える。
「「「どういうわけ?」」」
見事に言葉が重なり、一瞬の間を置いて、アヤトは笑い出す。
「ハハ、何だよお前ら、息ピッタリかよ!」
アヤトにつられ怪獣君達も笑った。
結局その日も誰かに尾行されていることを忘れて四人は楽しく帰路につくのでした。
2018/3/19 一部修正しました。