6.後悔と覚醒
やっぱり。感じた気配は、2人のものじゃなくこの人たちの気配だったんだ。
そう思いつつ私は、突然私たちを取り囲んだ数人のことを観察するのであった。
「兄貴ィ、こんな所でついてますねぇ。」
「そうだなぁ。女1人にガキ三匹か。身なりも結構裕福そうだしこれはいけそうだなぁ。」
「やっぱりこの辺りを活動のメインにしてよかったですねぇ。」
「今日のやつは今までより上物だぜ。気を抜くなよお前ら!!」
「「ういっす!!」」
「なんか厄介なことになってきたなぁ。」
エル兄様が思わずそう口にしていた。確かに厄介だ。まさかゴロツキというか人攫いに出くわすだなんて。
しかもこの世界では奴隷制度がある国があるらしい。人を売り捌くって相当でしょ。
「どうしますか、パウロス兄さん?」
「まあ、ここは逃げるのが定石なんだろうけど、簡単に逃がしてくれそうにないしなぁ。」
「ここは日頃の成果を見せる時じゃ無いですか?」
「エル......お前がそんなに好戦的だったとは思わなかったぞ。」
「好戦的って.....そういう訳じゃなくて逃げる為に戦うって話ですよ。」
「まあそうかもしれんが...アウラはどうする?一応俺たちは王宮で修行のような事はしているから、戦えないこともないが...」
「私も神殿で同じようなことをしているから大丈夫ですよ、パウロス兄さん。」
「いいですかね、クロエさん?」
「まあ緊急事態ですし仕方ないと言えば仕方ないですけど......」
「兄貴ィ。あっちはやる気満々ですよ?」
「ならばこっちも丁重に扱ってやらないとなぁ。気抜くなよ、お前らぁ!!」
「「ういっす!!」」
なんでこんなことになるかなぁ。あ、私のせいだ。こんな所に行きたいとか言ったからだった。
そんなことを考えている間に全員が武器を構えるのであった。
.......ん、武器?
私武器なんか持ってないんですけど?
エル兄様はなんかロッドみたいなもの握ってるし、パウロス兄様は剣を抜いちゃってるし、クロエさんは暗器のようなものを持ってるし、私だけ戦力外?
まあいいか、素手で。魔法撃つのに関係無さそうだし。
向こうは全員片手剣のようなものを持ってるし。ざっと6人ってとことかな?伏兵がいるのかもしれないけど、まあ当面は6人倒せればいいかな。
「行けぇ!!」
「「「おおーーー!!」」」
一斉に盗賊、いや人攫いたちが向かってきた。
「俺とエルが2人引き付けるから、クロエさんとアウラはそっちの2人を頼む!!」
「いえ!私が2人引き付けますので、エマノエル様は1人引き付けてくだされば十分です!!」
「いや、やっぱりアウラはまだ小さいんだぢ、任せられないよ!!僕も2人受け持つよ!!」
あははは......私本当に戦力外になってやらぁ....
いやいや、私エル兄様と3つしか変わらないはずだよ?
どうしてそんなに大人びているのか......
「ウラァ!!」」
ガキィン!!
「くっ......」
本当に始まっちゃったよ。
「激流の射出!!」
「「ぐわぁ!!」」
「ちっ、まさか魔法使いが居やがるとは...」
「どうしますか、兄貴ィ!!」
おお。エル兄様が魔法を使って倒してるじゃん。ていうか詠唱があるなんて教えてもらってないんだけど?
神の癖に...いや神だからそんなのいらないのかな?
「落ち着けぇ。所詮水属性だ。大した威力はないはずだ。」
「そうっすよね、兄貴!!」
「ふん!僕が水属性しか使えないとでも?」
「なん.....だと....?」
「大地の斬撃!!」
「「ぐわぁ!!」」
「こいつ地属性の斬撃を飛ばして来やがった!!」
「兄貴ィ!!これはマズイですよ!!」
「お前たち!!魔法を撃たせる前に止めろ!!」
「「ういっす!!」」
すごい無茶なことを言いおるなぁ。魔法を撃つ前に止めるって。前衛にパウロス兄様とクロエさんが居るんだからその2人を躱していくのはきついでしょ。まああの人達が手練れに見えないから言えることだけどね。
「ごめんパウロス兄さん!!魔力が尽きて来た!!」
「ああ!!十分だぜエル、あとは俺たちに任せろ!!」
お、エル兄様は早くもリタイアかな。ていうかこの程度で魔力切れだなんて、私だったらもっとできる気がするなぁ。これもあの人たちのせいか。
「アウラ!!お前も魔法を習っているんだったら、手伝ってくれ!!」
「わ、分かりましたわ。お兄様。」
「いや、もういいぞ!!」
「パウロス兄さん?何を...........」
気がついたらリーダー格の男以外全てが地に伏していた。すごいな兄様たちとクロエさんは。本当の本当に私の出る幕がなかったよ。まあ私に何ができたのかと聞かれると微妙なところだけどね。
「ハアッ、ハアッ、もう観念するんだな。」
「くっ、くそったれがぁ!!」
おお、負けた雑魚キャラっぽいな。
「お前たち!!女1人とガキ三匹に負けて悔しくないのかぁ!!」
「「あ、兄貴ィ。す、すいません...」」
「ふん!!まあいいさこっちの方が優勢なのは変わらないのだからな。」
なんだって?数を減らしたのに優勢?ということは...
「あとはお前だけだ。」
「さあ、諦めて投降するんだな。」
「お前たちは監獄行きだがな。」
「クックックッ......」
「何がおかしい?」
「あとは誰だけだって?疲弊しきっておるのはお前たちじゃないか。やっぱりまだガキだな。」
「なんだと?」
「お前たちはガキだって言ってるんだよ!!」
パチン!!
リーダー格の男が指を鳴らした瞬間、
ゾロゾロゾロ!!
「「グヒャヒャヒャ!!」」
近くの木の陰からもう5人が出て来たのだった。やっぱり伏兵が居たんだ。予想はしてたけどまさか本当に居るとは.......
「伏兵がいるとは思わなかったのかぁ!!」
「なん.....だと?」
「まさか....そんな...」
「まあ伏兵と言わないけどな。俺たちは兵隊じゃなく犯罪者だからなぁ!!」
「「ウヒャヒャヒャア!!」」
「どうするパウロス兄さん?僕はもう魔力が切れて碌に動けそうないよ?」
「そうか.....俺も疲弊しきっていてあまり動けそうにないな。」
え?これ大ピンチじゃね?
「私が囮になりますから皆さんはお逃げください!!」
「クロエさん!?」
「そうするしかありません。私は貴方方の命を預かっているのですから。」
「いやっ、しかし!!」
「お願いします!!逃げてください!!」
「...........私がやる。」
「アウラ?どうしたんだ?」
「私があいつらをなんとかしますわ。」
「本当か、アウラ?」
あーあ。言っちゃった。まあ何とかなるかな?問題があるとすれば私に実戦経験が無いことと、武器が無いことぐらいかな。魔法撃てば何とかなるかな?
..........そういや詠唱知らないんだった。まあイメージが大切って習ったし何とかしますか。
「えーと敵は6人だから......」
「兄貴ィ、彼奴ら逃げるの諦めたっぽいっすよ?」
「そうだなぁ。突っ立ってたら張り合いが無いが......まあいいか。お前たち仕上げだぁ!!」
「「ういっす!!」」
この悪党たちはこの掛け声しか無いのかな?まあどうでもいいや。6人の敵を無効化するとしたら.......やっぱり感電あたりが一番いいのかな。手っ取り早いから。
私は手を銃のような形にして一番手前に居た敵に向かって電撃を撃ち込んだ。
「うっ.......」
「おいデニス?大丈夫かぁ!!」
「何とも無いですぜ、あに.......うっ!!」
バタン!!
「おいデニス!!くそっ何しやがったガキィ!!」
デニスと呼ばれていた奴は感電して倒れた。まあ死ぬような火力は無いはずだから生きてるとは思うけどね。
私は立て続けにもう4発を放った。
「「うっ......」」
バタバタバタっ!!
「おいアルゴス!!デメトリ!!スタティス!!ヤニス!!クソがあぁっっぁぁ!!」
最後の1人となったリーダー格の男は私に向かって突っ込んできた。
「死ねぇぇぇぇぇ!!!!!」
そう言って私に向かって剣を振りかざそうとした。
「アウラァァァ!!」
「避けろ、アウラ!!」
兄様2人が必死に叫ぶ中私は防御魔法を放った。
ガキィィン!!
リーダー格の男の放った斬撃は私の殻の様な防御魔法に弾かれたのだった。
「エルあれは何だ?」
「防御魔法だよパウロス兄さん。魔法使いは誰でも使える初歩的な魔法で、物理的な攻撃から己を守るために使うんだよ。」
「へぇ、それは初耳だな。」
まあパウロス兄様が知らなくても無理はないだろう。魔法使い以外には関係ない話なんだから。
「このっ....ガキがぁぁぁぁぁ!!」
どうやら相手はまだ諦めていない様だ。
「これでも喰らえ!!」
直後に相手の魔力が高まるのが見えたのだった。
「!!」
「アウラッ!!危ない!!」
「疾風の斬撃!!」
バッ!!!
「....................」
「ははっ...どうだ。俺様にだってこのくらいはできるんだよ。」
「エル兄様!!」
「おいエル!!しっかりしろ!!」
「アウラは...防御魔法が...魔法の...攻撃に...弱いことを...知らなかった...のかな...」
「........エル兄様、ご、ごめんなさい!!」
「いいん...だよ...アウラ。可愛い...妹を...守れた...んだから...」
......何で................どうしてこんな事になったのか。
なんと敵が最後の悪あがきのつもりか、なんと魔法を撃ってきたのだ。
完全に私の不注意だった....
「防御魔法は万能じゃないのか!?」
「そ...そうだよ...兄さん。防御魔法は...魔法の攻撃に...あまり強くないん...だよ...」
そう。その知識は正しい。そしてそれは私も知っていた事だった。また魔法の攻撃に少し弱いと言っても、しっかりと球状の形を保てていたらこんなことは起きないはずだった。
「..............ユルサナイ.........」
気づけば私はこんなことを口走っていた。
そして、私の理性が完全に崩壊した。
「ああ?なんだぁ、手を前に出しやがって?また魔法でも撃つ気かぁ?」
私は手を前に出して魔法を放った。
「..................」
「グワアアアーーー!!!!」
バタッ
その場には人攫いのリーダー格の男が倒れた音が響き渡った。と同時に私の記憶も途絶えた。
この時、アウラの澄み渡るような碧眼が、人の鮮血のような灼眼へ変わっていたことは本人でさえ知ることはなかった。