表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョン村のパン屋さん2〜1年目の物語  作者: 丁 謡
第1章 アルバン村事始め
5/175

 4

 アマーリエを先頭に二階まで荷物を持って上がったところで、それぞれ持っている物をどの部屋に入れるのか確認する。

「リエ、この寝具って蓋に貼ってある木箱は?」

「階段上がってすぐの部屋にお願いします。グレゴールさんが持ってる衣類の箱も一緒です」

「了解」

「ベッドのそばに置くぞ」

「は~い、お願いします」

「リエ、この小物って箱は?」

「ダフネさん、それは隣の部屋の机の上に。あーそうだ、こっちに置いてあるベッドどうしよ?」

「……お泊りになるようなお客様いらっしゃいますか?」

 アマーリエと一緒にラグを抱えたファルがたずねる。

「うーん?確実に来る人が思い浮かびません。弟子が来たらですかね?それまでは分解してアイテムボックスにしまっちゃいますか。そしたら誰か来てもまた組み立てれば良いんですし、掃除もしやすいしですしね」

 そう言ってアマーリエとファル、ベルンは食堂兼居間に入っていく。

「それがいいですね。リエさんこの敷物は?」

「暖炉の前に広げましょうか」

 ファルがラグを広げていく。

「わ、この敷物、広くてフカフカですねぇ」

 そう言ってその場に座り込むファルを置いて隣の部屋に行き、アマーリエはダフネが運んだ私物を出して仕舞い始める。

 顔を覗かせたダリウスがアマーリエに声をかける。

「じゃあ、俺たちでベッドを分解するぞ。グレゴール、ダフネ手伝え」

「あ、お願いします」

 ダリウスに呼ばれてベッドをばらしにかかるグレゴールとダフネ。

「リエ~!この椅子は?」

「あ、ベルンさん、それ敷物の上にお願いします~」

 お互いに声を上げてやり取りをする。

「おう、ファルちょっと端に寄れ。リエ~!座っていいか!」

「どうぞ~!」

 背もたれの高いウィングバックアームソファを暖炉のに向けておいて、早速ベルンが腰掛ける。

「お~これ本当に良いな。すごく座り心地が良いぞ。どうなってるんだ?」

 パンのレシピのノートを持って居間に戻ってきたアマーリエが、自慢顔で話し始める。

「むふふ、家具屋のおじさんに頼んだ特注品なんですよ~。生地屋のおばさんや鍛冶屋のおじさん、革屋のおじさんも巻き込んで結構大変でした。ご領主様のとこにも納品されてますよ」

 両親用にラブソファもしっかり作ってもらったアマーリエだった。二人の仲は今でも仲睦まじいのだ。

「……何やってんだ?」

「いや、座り心地のいい椅子が欲しくて、お金が貯まった時にお願いしたんです。したら、すぐにダールさんにバレて領主館にもってなって、私の家の分は後回しですよ。ええ、平民なんてそんなもんです」

 領主館の領主用、ゲスト用などの一部の家具が刷新された。昔ながらの木のテーブルと木の椅子の部屋も残したままで、ダールは客によって使い分けるようにしている。

 もちろんその後、王都にも売り出されて色んな所がウハウハになったのは言うまでもない。まだまだ、魔物からの危機感が残り、生活を豊かにすると言う経済の発展がこれからの世界なのだ。

「……何かする前にダールさんに確認とったほうが良いんじゃないのか?」

「一応、そうした方がいいかってだいぶ前に伺いましたよ?一度は報連相しながらやってみましたし。そうすると私のほうが報告を面倒臭がって、何もしなくなる可能性があるから、それは領地の発展が滞るから好きにやんなさいって」

 ダールは、アマーリエの食に対する熱意とそれ以外に対する熱のなさをよく知っているのだ。

 一度、食以外に関する発明を前もって報告させようと試みたのだ。そうするとアマーリエは報告内容をまとめるために思案を始め、様々な利点と問題点を考え、精査しはじめる。

 なかなか上がってこない報告にダールが確認を取った。すると、アマーリエは、解決は個々人の判断に頼らざるを得なくなり、ろくでもない結果になりそうだと結論だけ報告したのだ。面倒になってなくてもいいですで、報告を済ませようとしたのがアマーリエなのだ。

 世の中の便利なものというものは長い目で見た時に、便利なものに振り回され、人に忙しさをもたらし結果、心を亡くさせ、潰しかねないものもあるからだ。

 アマーリエは、前世において便利な世の中で生きていたが故に便利さがもたらす本当の厄介さを身をもって知っている。だからこそなくてもいい、むしろ無い方が人としては少しの苦労で済むことを知っているのだ。       

 最もそれでは領内の発展をみすみす逃すことになりかねないとダールは判断したのだ。

「……放牧か?放牧なのか?ここの領地は?」

「羊じゃあるまいし。まあ、好きにしろと言われたほうが動きやすい人間も居れば、一個ずつ指示がないと動けない人間も居ますし、そのあたりは上に立つ人のさじ加減?」

「ダールさんも大変だなぁ」

 この旅でアマーリエのちょっとした思いつきが大事に至り、巻き込まれ続けたベルンとしては、領主のお守りをしつつ、騒動を起こすアマーリエの後始末に奔走してきたダールを思うとため息しか出てこない。

「おい、ベルン、何まったりしてるんだ?」

 ベッドの解体が終わり、ベッドのヘッドボードを抱えたダリウスがくつろぐベルンを見て顔をしかめる。

「あ、ダリウスさん終わりました?」

「おう、ここにパーツ置いてくぞ。ベルン代われ。俺も座る」

「ありがとうございます」

 ダリウス達が持ってきたベッドのパーツをグレゴールと一緒にアイテムボックスに放り込み始めるアマーリエをよそにダリウスとベルンは椅子の取り合いをはじめた。ダフネはファルの横に寝転がってラグを堪能している。

「あ、こら、おい」

「おおーこれ良いな?俺が座っても問題ない。俺も欲しいな」

 ダリウスの巨体を引き受けてもびくともしない椅子にダリウスはごきげんだ。

「いや、ダリウス。ウチ拠点無いし、どこに置いとくんだよ?アイテムボックスに入れて移動すんのか?」

「いっそ、この村に拠点作るか?そろそろ。ダンジョンの攻略にももっと力を入れたいしな」

 まだまだ広がり深まるアルバンのダンジョンは、ベルン達をしてまだ二十階層を過ぎたあたりである。現在の最深記録は十年前に到達した二十七階層で、まだその記録は破られていない。

「そこは皆と相談だろ」

「ダリウスさん、私も座ってみたいです。交代交代」

「おう、こっちの敷物もいいなぁ」

 ファルに快く椅子を譲り、足元のラグにあぐらをかくダリウス。その膝をダフネの尻尾がパタパタと叩く。ダフネもご機嫌のようだ。

「わ!これ良いですね!なんか暖炉が入って暖かくなったらすぐ居眠りしちゃいそうですよ」

「ファル、ファル、交代!」

 ダフネがファルの脇に手を差し込んで抱き上げて椅子からラグにおろして自分が座る。

「おお!座り心地が良いぞ!」

「ダフネさんはカウチソファとかのが座りやすそうだね。尻尾もそのほうが落ち着き良さそうだし」

 尻尾が肘掛けからはみ出てるダフネを見てアマーリエがダフネ向きの椅子を教える。

「カウチソファ?」

「寝っ転がれる椅子です」

「なに、それ?欲しいぞ!」

 ピント尻尾を立ててベルンを見るダフネにベルンが眉間にしわを寄せ、への字口で応える。

「いや、だからうちは、拠点無いからあっても置けないだろ?」

「ベルン!拠点!」

「へぇへぇ、皆で相談してからな」

「はい、ダフネ交代」

 ベッドのパーツをしまい終わったグレゴールも参戦する。アマーリエは、寝具を出しに居間を出た。

「ぬ、グレゴールもうちょっと」

「いやいや、順番だし!」

「あんた達、何やってんの?」

 魔法陣を移し終えて上機嫌のマリエッタが暖炉の前で戯れている面子に声をかける。

「あ、マリエッタ。終わったか?」

「ええ、書き写したわよ。何その椅子?」

「マリエッタ、座り心地が良いぞ!この椅子」

「ふーん。ダフネ交代」

「うう、しょうがない」

 マリエッタには逆らえないと本能が知っているダフネはおとなしくマリエッタに椅子を譲る。

「あら!いいわね」

「あぁ、マリエッタ、俺が先に……」

「あぁん?真ん中長男は最後でしょ」

「ひどすぎる~」

「ブクク。皆さん椅子が気に入ったみたいですね」

 銀の鷹の様子を見に居間に戻ったアマーリエが会話に混ざる。

「おう、くつろぐっていう感じが良いぞ」

「確か、家具屋さんに注文できる家具類が載った小冊子があるから注文できると思いますよ。カタログっていうんですけどね。拠点決まったら注文してみたらいかがです?」

「そんなもんまであるのか?」

「はい、基本の形や生地見本を付けて選べるようにすれば売る方も買う方も便利だよと言ったら、作ってましたよ、カタログ」

 アイテムボックスがあるから、物を運んで相手に見せる事もできるが、それは広い場所であれば見比べたりも出来ることなので、カタログがであれば、狭い場所での商談もできるし、対面でなくてもある程度欲しいものが絞れるようになり、時間の短縮につながるのだ。

「ベルン、真面目に拠点を考えるか」

「まあ、あちこちからうちに来てほしいという誘いはあるからな」

 拠点の話し合いをはじめた銀の鷹を置いて、アマーリエはベッドの部屋に移って衣類や小物を出して片付けていく。

「腰落ち着けてダンジョンに潜るのもいいね」

 やっと、マリエッタから椅子を奪い取って満足気に座るグレゴール。ラグの上で車座になって話を続ける銀の鷹のメンバーたち。

「お前たちはどこに腰据えたい?」

「何も一箇所に決めなくても良いんじゃない?それなりに稼ぎあるんだし」

「ふむ」

「ここに一つ。皇都かここの王都に一箇所とかどう?転移陣を扉に彫れば繋げられるわよ?許可は要るでしょうけどね」

「お!それがあったっか!」

「ええ、今の私達なら問題なく出来るはずよ」

「なら、まずここに拠点を作って、その間に王都か皇都のどっちに作るか考えるか」

「賛成です」

「いいね」

「アハハ、定住生活決まりました?はい、お茶とおやつどうぞ」

 粗方、片付けの済んだアマーリエは厨房でお茶を入れて、アイテムリュックに残っていたおやつを運んでテーブルに並べる。

「お、すまんな」

 メンバーたちがテーブルに集まり、銘々お茶とお菓子を堪能する。

「定住するとして、リルとハルはどうするんです?」

 アマーリエが気になったことを聞く。

「どっちに置くかだな」

「アルバン村に置くほうが安上がりじゃない?」

「確かにな」

 コストを考えたマリエッタの発言にダリウスが頷くが、うーんと唸ってベルンが悩みはじめる。

「ただ機動性を考えると街にあったほうがあちこち行きやすい気はするんだよな」

「馬車ごと転移も視野に入れる?」

「出来るのか?」

「転送陣の大きなのも手に入ったし、馬車はそれで転送させて、リルとハルは馬小屋に転移陣を彫れば私が一緒に転移すればいけると思うけど」

「リルとハルが通り抜けられるような扉が要るってことか?」

「そうなるわね。でもダリウスが通るんだし必然、大きな扉のある家になるわよね?」

「じゃあ、街の方はリルとハルが出せる場所の近くって感じかな?」

「どこでもドアか~。私も実家とここを繋ぐ扉がほしいなぁ」

 マリエッタの話を羨ましそうに聞き、アマーリエも転移陣付きのドアが欲しくなる。

「それは、安全上だめじゃないですか?」

「それ以前にあんたの魔力じゃ、無理だって」

「ま、魔石があれば!」

 ファルとマリエッタから速攻でダメ出しが入るが、なんとか粘ろうとするアマーリエ。

「結構な大きさの石が必要になるわよ?お金足りるの?」

「ぐふっ。流石にそこまで稼げないし、勝手に魔力溜まりを使ったらお縄がかかるからなぁ」

「おいおい。何自分で勝手に魔力を使い込むやつが居ると危ないとか言っておきながら、私用する気満々なんだよ」

「えへへ~」

 呆れたようにいうグレゴールに、アマーリエは笑ってごまかしてみた。

「……こいつが一番危ないんじゃないか?」

 結果、ベルンに猜疑に満ちた目で見られることと相成った。

「悪用はしなさそうだけど、思いつきでとんでもないことやらかしそうだから、今後は絶対魔力溜まりには近づかせないからね」

「近づきたくても近づけませんよ。もう、そういう機会はなさそうですもん」

「まあな。この近くに魔力溜まりはないからな」

「村から出ちゃだめですよ」

「出ないですよ、流石に。でも一回ぐらいダンジョンに入ってみたいなぁ」

「「「「「「絶対、連れてかないし、入れないから」」」」」」

 さすがのダフネもメッとアマーリエを叱る。

「だめかぁ。じゃあやっぱり常時依頼出すしか無いか」

「そうしてくれ。ほら、そろそろシルヴァンを迎えに行くんじゃないのか?」

 窓から入る夕方の日差しにベルンが次の行動を促す。

「あ、そうです。ベルンさん達は?」

 一緒に来るかと誘うアマーリエに速攻で首を横に振るベルンだった。

「南の魔女さまに会いたくないから俺は絶対行かないぞ」

「何言ってんのよ。商業ギルドで物件探すのにあんたも行くのよ」

「い~や~だ~」

 結局、会わないようにすればいいからとごまかされ無理やり商業ギルドまで一緒にいくことになったベルンだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ