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ダンジョン村のパン屋さん2〜1年目の物語  作者: 丁 謡
第1章 アルバン村事始め
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 3

「「「「「「「おお~」」」」」」」

 地下に行くために厨房に入ったアマーリエと銀の鷹はその室内の様子に驚きの声を上げた。

「なんかわからんがすごいぞ」

「うん、すごいね」

「ピカピカだ」

 ベルン達は銀色に輝く見たことのない魔道具に目を丸くしている。

「なんでうちの実家とおんなじになってんの厨房?」

 アマーリエは実家の厨房と全く同じレイアウトの方に驚いていた。

「一緒なんですか?」

「はい、おっちゃんたちに開発してもらった最新式の魔導コンベクションオーブンが二台に最新式の魔導コンロ、魔導ミキサーもあります。調理台も大きいのだし、フライヤーもあるよ。おお、フードプロセッサーもある~」

 そう言いながらあちこち確認し始めるアマーリエ。

 実のところアマーリエは、旧式の石窯や竈でどれだけのことが出来るか少々不安だったのだ。パンの種類を減らして数を熟さないといけないだろうとだけ漠然と彼女は考えていたのだ。

「これなら、うちの実家ほどじゃなくてもパンの種類増やせる、よかったぁ」

「美味しいパンが食べられるのか?」

「はい、色んなパンが焼けますよ」

 ダフネと一緒にニコニコ笑うアマーリエ。

「全然見たこと無い魔道具ばっかりね」

「あれは石窯の代わり、あっちは竈の代わりです。これは大量に粉類を混ぜてこねるのに使うんです」

「へー」

「あっちは、大量の揚げ物も可能です」

「ほおほお」

 アマーリエは、あれこれどんな道具なのか説明していく。

 ちなみに実家の厨房に設置された最新の魔導焜炉は領主館の厨房にもすぐに設置され、使い方を領主館の料理長がアマーリエの父親に習いに来た。流石にまだ成人前だったアマーリエが領主館の料理長に教えるのはどうなんだという話で着地点がそうなったのだ。

 アマーリエが成人してからはアマーリエが領主館の厨房に行ったり、料理長が休日にアマーリエの実家を訪れることもあった。

 アマーリエのアルバン行きが決まったときには、料理長が留守で、他の料理人から新しい料理を作ったら、登録は後回しでもいいから兎に角、その料理とレシピを一緒に送ってくれるように頼まれていた。

だが、旅の目新しさに浮かれてほぼ、忘れているアマーリエだった。

「こまごましたものもなんか実家とおんなじ位置にしまってあるよー。すごいなぁ。妖精さんでも居るのか?」

 アマーリエは作業台の下の収納扉を開けて喜んでいる。というよりは深く考えて、藪蛇になることを避けたのだ。

「妖精ってあんたね……」

 脳天気過ぎるアマーリエの発言にマリエッタがため息を吐いてこぼす。ベルンはそこまで把握しているご領主の恐ろしさに背筋が凍る思いをした。

「……やりすぎなんじゃないのか、ご領主様?」

「いや、多分ダールさんじゃないかな?これは無言で尻叩かれてる感じです、場は整えてやったんだからきっちり仕事しろよって」

 かなり引いた様子のベルンにアマーリエは軽い感じで返事をしながら、厨房にある地下に向かう階段側にある扉二つを開ける。

「こっちはお勝手口で、こっちがトイレね。あー、お風呂欲しいな。建て増ししたらだめかな?」

 スキル使って勝手に建て増すのは、流石に村の経済を考えたらだめだろうという理性的な判断を内心で行ったアマーリエだった。

「風呂?あの河原の岩屋みたいな温泉か?」

「あれほどでかくはないですよ。一人が余裕をもって入れるぐらいの大きさで、湯に浸れる様なおっきな桶と洗い場があるって思って頂ければいいです」

「まあ、清潔にするなら生活魔法で十分だが、あの湯に浸かる心地よさはたまらんからなぁ。宿屋にでもできたら良いんだが」

「だなぁ、あれは体の芯から疲れが取れる感じだ。毎日とは言わんが、疲労が溜まってるときには入りたいな」

 おじさん二人がウンウンと頷いている。

「勝手口の鍵はちゃんと閉めときなよ。ここの魔道具、新しくて高いんだろ?建て増しは良いんじゃないのかな?敷地あるんだし」

 グレゴールがアマーリエに注意を促す。言われて、アマーリエは慌てて鍵を締める。

「まあ、あれこれ考えるのは、パン屋のほうが落ち着いてからでいいんじゃないの?」

「はーい。そうします」

「でも、リエさん、あんまり色々やっちゃうと次にここに来る人が大変になっちゃいませんか?」

 一応止めたほうが良いかと声をかけるファルに、アマーリエは笑って答える。

「そっちは多分弟子候補がここに来るはずなので、そのまま引き継げるはずです」

「……弟子入りするやつも大変だな」

 巻き込まれる未来の弟子を思い浮かべて首を振るベルンを尻目に気合を入れるアマーリエ。

「うっし!がんばるぞ~。明日から早速オーブンの調子とか見なきゃ!」

「んじゃ引っ越しは?」

「あっ!多分私の物だけですね。お布団とか運ぶの手伝って下さい」

 厨房が揃っていたためにパンを焼く方に意識が向いて、引っ越しの荷物を忘れかけていたアマーリエだった。

「おう」

「灯り出すわね」

 マリエッタが無詠唱で魔法光を出して、皆で厨房から地下に向かう。

「地下の階段も結構広いわね」

「粉の袋を運ぶからその分広いんだと思います」

「あんたの私物って?」

「寝具と衣類、後はこまごましたものですね。転送陣は反発があるから普通の木箱とかで送ってもらいました。大した数じゃないですし」

「じゃあ、すぐ終わるかしらね」

「はい運んでもらえたら十分です。片付けるのは自分でやりますし」

「わかったわ」

「ここですね」

 アマーリエは階段降りてすぐの地下室の扉を開けて入ると魔法光を出す。

「おお、かなり広いですね、地下も」

 壁際には大きめのアイテムボックスがいくつか並べておいてあり、アマーリエの私物はその前に木箱に入れて置いてある。アマーリエはすぐその私物の木箱の傍に行く。

「あれー?もう荷物出てるし」

 本来、転送陣で発送された荷物は受け取る側が陣を起動しない限り、異空間で留まっている。出てるということは、陣を設置した人物が代わりに受け取ってくれたのだろう。

「頼んどいた粉類ももしかしてもうアイテムボックスに収納されてるのかな?何ぞこの手紙?」

 アイテムボックスの蓋に乗せられていた手紙をアマーリエが読む。

「え~っと、蓋に手を置けば持ち主の再登録が終わりますとな?何個あるんだアイテムボックス?ダールさん奮発してくれたんだ。ちゃっちゃ終わらせとくか」

 アマーリエは壁際に並べられたアイテムボックスの蓋にどんどん手を置いて登録を済ませた。そして蓋を開けて、中身の確認をする。頼んでいた材料全てが収まっている。

「いたせりつくせりだなぁ。なんか、もう帰ってくんなって言われてるような気がするのは気のせいか?で、転送陣はどこ?」

「……こっちだ、リエ」

「あ、はい」

 トコトコとベルン達が固まってる場所に行く。

「デカッ!なんですか?このでかい魔法陣!」

「大量に大きな物を転送できるようになってますね。こんな綺麗に描かれた魔法陣久しぶりに見ました。ご領主様は腕のいい方を雇っていらっしゃるのですね」

「そうなんだ」

 ファルの感心した様子によくわからないまま応えるアマーリエ。

 贔屓にしている魔道具屋の魔法陣とマリエッタの護符ぐらいしか見たことがないアマーリエは、まだその魔法陣の出来の良し悪しまではよくわからない。

「描かれてる線が均一、それにそれぞれの機能を納めた文様に無駄がない。そしてきちんとこの床に定着してる。これ何があっても壊れないわよ。……ここまで大きな物質転送の魔法陣、しかも省魔力になってるの初めて見たわ。ちょっと書き写して良い?」

 いつも以上に目がキラキラして魔法陣を見ているマリエッタの様子にかなりの上級者が魔法陣を設置したのかとアマーリエは推測する。

「良いのかな?一応荷物は全部届いてますし、転送陣を起動する必要もないけど」

 アマーリエの管轄にないものなのでベルンの方に視線を向ける。

「こら、マリエッタ待て。ご領主に確認するから。すみません、ウィルヘルム様?今、お時間よろしいですか?」

 通信機を起動して話し始めたベルンをじっと見守りながらマリエッタがボソリと言う。

「……だめだったら内緒で」

「マリエッタさん、だめですよ」

 ファルが苦笑してやんわり止める。

「……はい、はぁ、ありがとうございます。おい、許可出たぞ。写していいってよ、あっさりしてんなぁ、あのご領主」

「ほんと!紙、ペン……」

 アイテムポーチから魔法陣を書き写すための道具を出して、床に広げるマリエッタ。

「なぁ、写しちまうってことはなんかあったら俺たち使われる可能性ないか?」

 魔法陣を持っているということは、それを展開させられるということだ。当然許可をしたご領主は銀の鷹が陣を持っていることを知っているから、何かあればそれを使うよう要請してくる可能性がある。

 ダリウスが良いのかとベルンに確認する。

「……そこを見越してだろ。ただほど高いものはないからな」

「でも、マリエッタさん止められませんよね?」

「あれも一応魔法馬鹿だからな」

「あーあ、すごい嬉しそうな顔しちゃって」

「大丈夫ですよ、そんなあくどい事には巻き込んだりはしませんから、ご領主様」

 ニコニコ言うアマーリエに肩をすくめるベルン。

「まあ、そのあたりの信頼は、一応俺たちもあるがな」

「ダールさんがこき使うかもしれませんが、そこはそれ」

 ニヤリと笑ってお仲間ーと笑うアマーリエにダリウスがげっそりとする。

「……なかったことにはできんよな……」

「ま、まあ大丈夫でしょ。さ、リエの荷物運ぼうか?」

「そうだな。しばらくマリエッタは使い物にならんからほっとけ。ほれ、リエ。どれを運ぶんだ?」

「あのアイテムボックスの手前の木箱と椅子です」

「椅子なんか持ってきたのか?」

「あれは座り心地が格段に違うんです!」

「何だ、特注したのか?」

「うふふ、そうなんです」

「椅子に布貼るだけで代わるもんか?」

「座ってみればわかります!」

「おい、ベルン。喋ってたら終わらんぞ」

「そうだな。んじゃ手分けして運ぶぞ。俺はこの椅子運ぶ」

「おう」

 魔法陣に没頭し始めたマリエッタを置いて、それぞれ運べる物を二階に持っていく。

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