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ダンジョン村のパン屋さん2〜1年目の物語  作者: 丁 謡
第1章 アルバン村事始め
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 2

 銀の鷹に連れられて、アマーリエは村の中心に向かう。領都と違ってそれぞれの建物の周りには庭があり、かなり建物同士の間に余裕がもたれている。

「あそこの広場が中心になる。広場を中心に円形に村が出来上がってる。正面のあの二階建ての建物が村役場だ。向こう正面が門に繋がる道になってて、その道の両脇に各ギルドの支店が並んでるんだ」

 ベルンが観光案内よろしく、アマーリエに説明する。

「あの角の村役場よりも立派で豪華な建物は?」

 赤いレンガの壁に蔦の絡まった二階建ての村役場とは対象的に、装飾の施された白い大理石の壁の重厚かつ瀟洒な建物を指差して、アマーリエがベルンに尋ねる。

「あそこが商業ギルドで商業ギルドの運営する宿屋でもある」

「なるほど、じゃあ、シルヴァンを迎えに行くときに開業届も出せばいいか」

「そうだな。しかし、あそこまで落ち込むとはなぁ、あの神官さん」

「リエが上げて落とすからでしょ」

 マリエッタが肩をすくめる。

「そろそろあんちゃん離れしてもいいと思うんだー」

「二人っきりのご兄弟なんですし」

「もうちょっと優しくしてあげなよ」

「甘いものは売っても優しさは売ってないんだけどなぁ。しょうがないなんとかします」

 ファルとグレゴールからの優しさ成分多め発言にブーッと口をとがらせて善処する旨を伝えるアマーリエ。

「……なんだこの何とも言えない不安な感じは?」

 アマーリエの言い様にそこはかとない不安を覚えたダリウスがブルリと震えてこぼす。

「なんか言いました?ダリウスさん」

「いや……」

 思わず胡乱な目でアマーリエを見たダリウスだった。

「着いたぞ、村役場だ。村役場を正面に見て左側に鍛冶屋や魔道具屋なんかの道具屋が揃ってる」

 役場の前で、ベルンが指差しながらアマーリエに村の構造を教え始める。

「薬屋もですか?」

「薬屋なんかの日常生活に必要な商品を扱う店は右側だな。ちなみに、お前さんが住むパン屋は村役場のすぐ裏手だぞ」

「役場の裏手ですかー」

「おう。その奥が住宅地だ。ちなみに青の日と緑の日の朝早くから広場で市が立つからな。近くの農村から売りに来る」

「覚えることいっぱいだなぁ」

「まあ慣れるまでだな」

「はい。じゃあ、届け出だしてきます」

「おう、俺らはお前さんのアイテムボックスをパン屋に運んでるぞ」

「はい、お願いします~」

 アマーリエは村役場に入って一階のカウンターに向かう。

「すみません、この度こちらの村に転村してきました者なんですがー」

「ああ!いらっしゃい。新しいパン屋さんですね、はじめまして、窓口のヨセフです」

「はい、はじめまして、よろしくお願いします。アマーリエ・モルシェンです。えっとこっちがご領主様からの紹介状と領都の商業ギルド支店からの紹介状になります。ご確認ください」

 領主の印璽が押された封蝋の立派な封筒と商業ギルドバルシュ支店の印璽が押された封蝋の封筒をヨセフに手渡す。ヨセフはペーパーナイフで封を開けて、素早く中身を確認する。

「……はい、たしかに。ではこちらの入村届けに記入とサインをお願いします」

「はい。……これで大丈夫ですか?あ、テイムした魔狼が一緒に住むんですが問題ありませんか?」

「はい、こちらで登録頂ければ、問題ないです。でその魔狼は?」

「一緒に来た人に今貸してまして、後からでも大丈夫ですか?」

「は?他の人になつくんですか?」

「うちの子、愛想が良いのかオオカミの性質が出すぎてるのか、どうも群れの仲間認識らしく銀の鷹のメンバーと一緒にここまで来た人にはなついてるんですよね」

 シルヴァンが弱いのか周りが強すぎるせいか(こっちが正解)皆に腹を見せてテイムスキルを生やさせたのだ。人懐こく(これは個体によるもののようだ)嫌がることもなく皆によく撫で回されていた。

 特にダリウスは身体のデカさから小動物には逃げられるので怯えることなく甘えてくるシルヴァンに目尻が下がりまくりだ。現在、アルギスのお守り中でもある。

「はあ、でしたら後でいらしてください。窓口は鐘七つ(午後六時)まで開いてますから」

「はい、わかりました。」

「あと、こちら側に来ていただいても?この水晶に触っていただくと本登録終了です」

 アマーリエは、村の入口の詰め所にあった水晶と同じようなものに触れる。

「では、パン屋の鍵をお渡ししますね。こちらがパン屋の表の鍵、これは厨房の勝手口の分です。一応予備の鍵一組は村役場で厳重管理されていますのでご留意の程お願い申し上げます」

「はい、覚えておきます。村の人口っていくらぐらいなんでしょうか?」

「赤子も含めて今は約千人強ですね」

「わ、結構な人数ですね。それでパン屋一軒て」

「自分の家で焼いたり、村の共同竈で焼く人も居ますからね。大丈夫なんですよ」

「あ、そうなんですね。ちょっと安心しました。後、開店までなんですが?」

「猶予としては、後一週間ほどあります。まあ、それよりも早く開店してくださる分には問題ありませんが、遅くなるようでしたらご連絡ください」

「わかりました。開店日は一応こちらにも連絡入れますね」

「そうして頂けますと助かります。あ、場所は?」

「ありがとうございます。役場の裏手ですよね?大丈夫です」

「はい、ではお気をつけて」

 ヨセフに会釈して村役場をでたアマーリエは、一人待っていたダフネに手を取られパン屋に向かった。

 村役場の横の通りを入ると、住宅街が広がる。村役場の裏の道一本隔てて三戸の家が並ぶ、扇型の区画があり、村役場の横の通りと面した家がアマーリエが住むことになるパン屋だった。

「わ~、ほんとに村役場の真裏だ。庭っていうかスペース広いね。草が伸び始めてるよ」

 生け垣に囲まれただだっ広い草地の、村役場の影が届かない端の方に建った、レンガ造りの二階建ての建物が住居付きのパン屋だった。

「無事に手続き済んだみたいだな。庭はなぁ。前の爺さんはあんまりいじる気はなかったみたいだな」

「うーんせめて、芝生にしたいなぁ。どっかで手にはいるかな?」

「一応、植木屋はあったはずだぞ?」

 アマーリエの言葉にダリウスが答える。

「余裕ができたら行ってみます」

「芝生にしてどうするの?」

 マリエッタが不思議そうにアマーリエに聞く。

「ンー、晴れた日とか外に椅子とテーブル出せば、喫茶営業できるかなと。食事処が二軒しか無いですし」

「あら!いいじゃない。のんびり過ごすのに良さそう。ここは娯楽が少ないから」

「人が集まりそうだな」

「確かに」

 冒険者ギルドの食堂か商業ギルドの宿の食堂しか外食産業がないため、選択肢が増えることを喜ぶ、銀の鷹だった。

「ごーはーんー」

「ああ、すみません。今開けます」

 ダフネに泣かれて、アマーリエは慌ててパン屋のドアを開け中に入る。

「あれ?ガラスの冷蔵ショーケースがある!」

「前はなかったぞ?」

「あー転送陣設置のときに置いてくれたのかな?欲しいなーとは言ってたんですけど、ダールさんに」

 ショーケースに駆け寄って確認するアマーリエ。

「な!?あのダールさんにおねだりしたのか?」

「え、いえ。確認したときに無いって言われて、欲しいから頑張って稼ぐぞとは言ったんですよ。急な話だったからかなぁ、お詫び?いや、あのダールさんに限ってそれはないな。むしろ前払いでしっかり頑張れよのほうだな」

「……あんたたちの関係って……」

 首を振って呆れたようにこぼすマリエッタにアマーリエが肩をすくめる。

「上も見てきます」

「厨房の方は良いのか?」

「ご飯食べてからにします~」

 ショーケース脇のスウィングドアを抜けて上の階に行くアマーリエ。階段をあがると三部屋あり、一番広い部屋の窓を開けて浄化魔法をかけるアマーリエ。他の部屋からも椅子を集め、全員が座れるように準備すると下に戻って銀の鷹に声をかける。

「上でお昼にしましょう」

「おう、アイテムボックスも運ぶぞ」

「お願いします」

 ダリウスに頼むとアマーリエは二階へと案内する。

「結構広い階段だな」

「ダリウスがアイテムボックス抱えてそのままで通れるからかなりだな」

 ベルンがダリウスの言葉を受けて、両腕を広げながら階段の幅の広さを確かめる。

「こっちの部屋です」

「お、結構広い部屋だな」

「店の方は狭いですが、多分奥の厨房が広いんだと思います」

「それで二階も結構広いわけだな」

「アイテムボックスはどこに置く?」

「あ、そこに置いてください。お鍋と食器出します」

 壁際に置いてもらい、アマーリエはボックスから野菜スープの鍋を取り出しグレゴールに渡し、食器類をファルに渡す。パンとおかずになりそうなものをアイテムリュックから取り出す。

「ダリウスさん、パンお願いします。最後の塩揚げ鶏ととんかつにコロッケ。瓶詰めのピクルスと保温水筒のお茶っと」

 グレゴールがファルから手渡されるスープ皿にスープをよそい、アマーリエはダリウスから手渡されるパンと一緒に揚げ物とピクルスを乗せていく。最後にお茶の入った水筒を人数分渡して準備完了。

「ちょっと狭いですけど、なんとかなりそうですね。じゃ、いただきますか」

 アマーリエの声にダフネが無心で食べ始める。

「なんか良いな、こう家って感じで」

「一家団欒ですか?」

 ベルンのしみじみした言葉にファルが小首をかしげて答える。

「ダリウスさんがお父さんでベルンさんがお母さん、グレゴールさんがお兄ちゃんで、私達四人娘ー」

 ニヤッと笑って混ぜっ返しにかかるアマーリエ。

「なんでだよ!マリエッタだろ!」

「あぁん?」

 速攻突っ込むベルンに睨むマリエッタと大笑いする他のメンバー。

「ぴったりだぞ、ベルン?」

 そしてキョトンと首を傾げるダフネ。

「ダフネぇ」

「母親のように口うるさいぞ、ベルンは?ぴったりじゃないか」

「ぐっ」

「で、しっかり者の長女に、おっとりの次女、天然の三女にちゃっかりの末っ子か」

 マリエッタ、ファル、ダフネ、アマーリエを順に見てグレゴールがにやりと笑う。

「ふん、あんたは上下から弄られ真ん中長男てとこよね」

「ぐふっ」

 マリエッタに返り討ちにあうグレゴールだった。

「はぁ、満足」

「おそまつさまでした」

 お腹が落ち着くまでお茶を飲んでくつろぐアマーリエと銀の鷹。

「なんか久しぶりにまったりな感じですね」

「ああ、ほんとうに心が落ち着く」

 しみじみというベルンに皆顔をそらして忍び笑いを漏らす。

「……お前らなぁ、覚えとけよ」

「はいはい。さぁ、引っ越し始めましょ。リエは先に厨房確認かしら?」

「ですね。それから地下に行ってどこに何を運ぶか指示します」

「よし!じゃあ始めるか」

 食器と鍋に浄化魔法をかけてアイテムボックスにしまうと揃って階下に降りていった。

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