表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョン村のパン屋さん2〜1年目の物語  作者: 丁 謡
第5章 夕時の料理講習会
23/175

 ダニーロが焼いたフリッタータを人数分に分け、それぞれ口にする。

「ふむ、フリッタータとちょっと違った焼きあがりですな」

 ダニーロは焼きあがったすりじゃが入りのフリッタータの表面をじっくり見て言う。

「すりおろしたじゃがいものせいですね。それに、卵の割合が少ないですから。もっとすりおろしたじゃがいもの量を増やすともっちり感が増しますし、卵が多ければフリッタータになると思います」

「ふむ、確かに。では一口……もっちりですな」

 ひとくち食べて食感を確認するダニーロ。それを見て、アルギス達も食べ始める。シルヴァンは、アマーリエに小さく切ってもらって口に入れてもらっている。

「いろいろ具が入ってて、美味しいね」

「オン!」

「腹持ちも良さそうよねぇ」

「きのこやチーズを入れてもいいですし、この手の料理はあるもので美味しく出来ますよ」

「確かに。兄上はチーズ入りで作ったら喜んでくれそうだな」

 アルギスが色々味を想像しながら、やんごとなき方に何を作るか考える。

「後はそうですね、トマトソースとこのマヨネーズを一対一で混ぜたものを付けて食べたり、うちの実家のこのソースなんかを付けても美味しいと思います」

 アマーリエは作ったマヨネーズにトマトソースを混ぜ、ダニーロに渡す。リュックから中濃ソースの瓶を出し、パトリックから小皿を受取、そこにソースを入れて渡す。

「どうぞ、少しずつ付けて食べてみて下さい」

 ダニーロ達はフリッタータにそれぞれソースを付けて食べ比べる。

「これはトマトの酸味と卵のコクが合って美味しいですね」

「サンドイッチに使っても美味しいですよ。パンに塗って、このフリッタータを挟むんです。ボリュームがあるので、満足感が得られますよ」

「それはうまそうじゃのう」

「こちらの茶色いソースは香辛料がきいていて複雑ですなぁ。これは?」

「実家で作ってる中濃ソースです。作るのに少し時間がかかります。野菜や果物、香辛料を煮詰めて作るんです。その材料やスパイスの比率と煮詰め方でソースの味や粘度が変わってくるんです。レシピは基本になるものを公開してます」

「なるほど。色々使えそうですな」

「ええ、あると便利なんですよね」

「ふむふむ」

「このソースは嬢ちゃんの実家で売ってるのかね?うちでも取り扱いたいんだが」

 気に入ったらしいアーロンがアマーリエに確認する。

「うちでの取扱は商品に使う分だけなのでソース単体は売ってないんですよね、売ってるのはこのマヨネーズと後この粒マスタードソースです。実家の隣の食料品店で、この茶色いソースを三種類の濃さで作って売ってもらってます。まだあんまり広まってないんですよね。自炊率低いから」

「ほうほう、ならうちで取り寄せて、開発してみようかのう」

「それもいいですね。いろいろな店の味がある方が買う方も好みの味が見つかると思いますし」

「リエ、このソース全種類ほしいんだけど。なるべく早く」

 アルギスが真剣な顔でアマーリエに言う。

「売り物に関しては問題ないですよ。店で使う分はなぁ。隣の食料品店から送ってもらいましょうか?」

「頼む」

「わかりました。他に何方か入用ですか?取りまとめて注文しますけど」

 その後、アマーリエがソースの種類と数を取り揃えて、注文することになった。


「それじゃ、シルヴァンお待ちかねの塩揚げ鶏をつくりますね。まず、このポテトスターチ(片栗粉)に同量の小麦粉を混ぜます」

「小麦粉だけではないんだね」

「油であげるんですが、あげたあとの食感が使う粉によって変わるのと、時間が経つと衣の硬さが変わってくるんですよ」

「なるほど」

「好みなんで、これも要研究ですね」

「ふむふむ」

「この時点で、油を温めときます。今回は数が結構ありますので、多めの油であげます。このお鍋借りますね」

「どうぞ」

「大体、三分の一ぐらいまで油を入れます。で、加熱します。その間にこの粉をまぶします。溶き卵を先にまぶした後に作る場合もあります。それもまた食感が変わります。今回は塩味のものなので、溶き卵なしにしました」

「ふむふむ」

「この、衣の残りを落として、こんな感じで泡が立つぐらいまで温度が上がったら衣をつけたお肉を入れてあげていきます。入れすぎると油の温度が下がり過ぎちゃうので、これぐらいの量をあげます。一旦、火を弱火に下げて、じっくりあげます。途中、ひっくり返して下さい」

 アマーリエはフォーク二本で肉を挟んでひっくり返しながら、揚げていく。

「なるほど、火力が強いと外は焦げるが中に火が通らないんだね」

「そうなんです。それで、これぐらいの色目がついたら、一旦引き上げて、フォークを刺して、でてきた肉汁が透明なら、火が通ってるってことですので」

「なるほどなるほど」

「中火にして油の温度を上げ、もどします。これぐらい派手に泡が上がってぱちぱち音がするぐらいですね」

「すごい音だねぇ」

 揚げ物油の音に皆が目を丸くして、視線を鍋に向ける。

「これで、衣の水分が抜けて、カラッと揚がるんですよ」

「ほうほう」

「こんなもんかな」

「はい、リエちゃん」

 パトリックが金網を載せた皿を手渡す。

「あ、ありがとうございます。こうやって金網に乗せて、油切りします」

「よし、じゃあ私が続きを揚げるよ」

「お願いします。あ、まだ熱いからいきなり食べるとやけどしますよ」

 皿に伸びてきた手に気がついて、アマーリエが注意するが一足遅かったようだ。

「あぐっ」

「アルギスさんたらぁ、お行儀悪いわよぉ」

「ありゃりゃ。パトリックさん、お水」

「はいよ~」

 パトリックからカップを渡され、アルギスは慌てて水を飲む。シルヴァンがその様子を目を丸くしてみている。

「ふぐっ、ふぐっ……はぁ、ありがとう。助かったよ」

 アルギスは自分の舌に無詠唱で回復魔法をかける。

「大丈夫かの?」

「はい、なんとか。美味しそうでつい」

「揚げたては危険なので、気をつけてくださいね」

「うん。でも美味しい。あれ!?隠形の効果がついたんだけど!」

「あらぁ!確かに気配が薄くなってるわよぉ」

「「「「え!?」」」」

「ちょっとぉ、皆、あっち向いてぇ、アルギスさんはあの戸の影に隠れてみて」

「わ、わたしもですか!?」

「料理長はぁ、危ないから鍋見ててぇ」

「はいはい」

 皆、南の魔女に言われたとおりに動く。

「いいわよぉ。皆、こっち向いてぇ。ほら、わかるぅ?」

「「「「あれ?」」」」

「見にくくなってるでしょぉ」

「確かに。居るってわかってるからなんとなく、居るのかなってわかりますけど」

「意識してなかったら、分からんのじゃないかの」

「えー、これまずいんじゃないの?」

 パトリックが頬をかきながら突っ込む。

「ダンジョンの攻略にはいいけどねぇ」

「暗殺者向けの食べ物になってしまいましたのう」

「却下?」

「ちょっと物議醸しそうですなぁ」

 ダニーロも困ったように揚げ上がった塩揚げ鶏を見つめる。

「これ、お肉から魔力抜いて作ったら問題ないのかな?」

「多分、魔力抜けば問題ないと思うわよぉ」

 アマーリエの言葉に南の魔女が肯定する。

「空の魔石を買わないとダメなのか。何故こうなったし?」

「うぅん~?マジッククェイルに隠形スキルがあるからかしらぁ?」

 南の魔女が思い当たる点を上げてみる。

「じゃあ、今度作る時は普通の鶏にしますよ。コカトリスとかだったら石化耐性とか付いちゃうんだろうか?」

「それはいいわねぇ!是非欲しいわぁ」

「これ、効果の持続どれ位でしょうか?一日、付くんでしょうか?」

「そればっかりわねぇ。皆でこれひとつづつ食べて、確かめてみるぅ?」

「いいんですか?」

「完全隠形じゃないから、大丈夫よぉ。一応見えてるもの。どれぐらい続くかぁ、体型によっても変わるだろうから確かめとかなきゃぁ」

「魔女様、明らかに面白がってますよね」

「ふっふん、魔女ですものぉ」

「……私が以前から作ってるマジッククェイルの料理にはそんな効果付きませんでしたよ?」

「あれ?確かに。昨日食べたの何もなかったですよね。料理法のせい?それともこれ大きな個体だったから、なんか魔力強かったのかな?」

「ああぁ、そうねぇ。個体の可能性は否定出来ないわぁ」

「どんな大きさでした?」

「普通のマジッククェイルが家畜の鶏ぐらいでしたっけ?」

 アマーリエが手で大きさを表現すると南の魔女が頷く。

「そうそう。それの三倍はあったわねぇ、これ」

「なるほど。特殊個体だったんでしょうか?」

「取り敢えず、ダニーロさんが揚げてくれたやつも試してみましょうよ。私が作ったからそうなったとか嫌だし」

「そうねぇ」

 皆でダニーロが揚げた方を食べる。

「あ、付いた付いた。隠形だ!」

「今日は影の薄い人になるのかー」

「あはは、パトリックさん面白いこと言うねぇ」

「それじゃぁ、皆いつ、隠行の効果が切れたか報告お願いねぇ」

 南の魔女の言葉に一斉に頷く。

「残りのお肉どうしよ」

 まるまる一羽買ってしまっただけに、どうしたものかと首をひねるアマーリエ。

「料理法のせいじゃないかぁ、確認した方がいいわねぇ」

「ですよね」

「それはまた時間のあるときにしましょぉ。わたしとぉ料理長監督のもとでねぇ?あんたはぁ、アイテムボックスあるんだし、置いときなさ~い」

「はい。そうします。一人で作ってシルヴァンになんかあったら、流石に怖いし。何か、料理の講習会が違う方向に行ったような気がしますが、とりあえず、今日はこのへんで」

「フフフフ。確かにとんでもないことになってしまいましたね。でもなかなか意義のある時間でした。ありがとうございます、アマーリエさん」

「いえいえ」

「ありがとう、リエ。また、今度、違う料理を教えてほしいな」

「はい、いいですよ。んじゃ、ダニーロさん、夕飯におすすめのパスタお願いします」

「任せてください。皆様は何になさいますか?」

 いつものごとく、ちょっとした騒動を起こしながらも、料理講習会は幕を閉じた。

 そして、皆それぞれ、ダニーロに夕飯を注文をすると食堂に戻って夕食を済ませ、明日はアーロンの店の開店時間に合わせ、店の前で待ち合わせすることにしたアマーリエ達だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ