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ダンジョン村のパン屋さん2〜1年目の物語  作者: 丁 謡
第5章 夕時の料理講習会
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 アマーリエはリュックから必要なものを取り出し、調理台に並べていく。シルヴァンもちゃっかり調理台に頭を載せてみている。

「芋っ娘、村に着いてから、リュックの整理しなかったわねぇ?」

 南の魔女から女子力チェックを受け、エヘッと笑ってごまかすアマーリエ。

「引っ越しの荷物片付けるのと、パン焼くのに気を取られててそのままなんですよ!すみません、ダニーロさん、大きめのボール一つと小さめのボール三つ貸してください」

「わかりました。これぐらいでよろしいか?ところでその匙はなんでしょう?」

 ダニーロが計量スプーンを指差す。

「これはですね、調味料を量るためのスプーンになります。中くらいのが大きいのの三分の一、一番小さいのは中くらいのの半分の量が量れます」

「ほうほう」

「粉物は、こうやってスプーンの柄を使ってすり切れ一杯がさじ一杯分。液体は縁ギリギリまで。コレで調味料の分量の比率をわかりやすくするんです」

「素晴らしい!今まで目分量でしたがこれなら、味を一定に保てますな!後は味を見ながら微調整すれば済む」

「そうなんですよ!レシピを説明するのにも、規格があれば、皆同じように作れますからね」

「大発明ですな!私も取り寄せてもらうことにします」

「あ、料理長、俺の予備で良ければ譲りますよ」

「いいのですか!パトリック!」

「ええ、普及してこいと言われてますから、お屋敷の料理長に。これがあると、他所の料理も覚えやすいんですよ」

「ええ、ええ、たしかに。説明しやすくなります!」

「それほど便利なら、うちでも取り扱おうかの」

「「ぜひ普及させて下さい!」」

 料理人の切なる願いに、アーロンは領都の支店に連絡しておくと約束したのだった。

「お話はまとまりました?料理に移りますよ。まず、マヨネーズを作る前に、このマジッククェイルの肉に下味をつけるのとジャガイモから粉を取ります。ダニーロさん、この肉を一口大でカットしてもらって大きい方のボールに入れてもらっていいですか」

 そう言ってアマーリエは肉の包みから腿の塊肉を取り出し、その肉を料理長に手渡す。アマーリエはおろし生姜を作りはじめる。

「もちろん。これぐらいかな?」

 肉包丁に魔力を通して肉を切っていくダニーロの手元をアマーリエが見て頷く。

「はい。で、ここに、ちょっぴり魚醤、これ多すぎると魚臭くなるのでほんとちょっぴりです。そしてこのおろした生姜、塩少々に胡椒少々、白ワインを入れまして、フォークでちょっとお肉に穴を開けながら、揉み込んでいきます」

「ふむふむ」

「で、他の作業の間ほったらかしです」

 そう言ってアマーリエは手を浄化し、ボールを調理台の端に避ける。

「ジャガイモから粉を取るとは?」

「まず、拳ぐらいの大きさのじゃがいも二個を皮を剥いて布巾にすりおろします。そして、ボールに水を出し、水の中でしばらくこのジャガイモをすりおろした布巾をもみます」

「まぁ、白いのがでてきたわねぇ」

「これがジャガイモの粉になります。で、この粉が沈殿したところで水を消し、さらにこの粉から水分を完全になくします。触ってみて下さい」

 アマーリエは生活魔法を使って水分を蒸発させる。

「なんか小麦粉に似てるけどもっとサラッとしてて、つまむと固まりやすい?」

「はい、これがポテトスターチ(片栗粉)になります」

「ほうほう。でこれは何に使うのです?」

「あとで、塩揚げ鶏を作るときに使いますのでこれも置いておきます。色んな使い方があるので、機会があったらその時に教えますね。残ったジャガイモのすりおろしも捨てずに一品作ります」

 アマーリエは布巾に残ったジャガイモのすりおろしをボールに入れる。

「ではマヨネーズに移ります。まず、ボールに卵を一個黄身だけを割り入れます。こんな感じ」

卵の殻を使って、白身はジャガイモのボールに入れ、残った黄身を空のボールに入れる。

「そして、ここに塩ひとつまみ、そしてこの計量スプーンの一番大きなのでお酢を一匙分入れて、なるべく泡立たないように生活魔法を使って撹拌します」

 アマーリエは子供の頃、世の中に泡立て器がないと知った日、魔法があるじゃないか!で済ませたのだ。済ませられなかった問題だけ、魔道具屋で道具を作ってもらうことで解決した。その結果がアマーリエの現状ではあるのだが。

「「「「「生活魔法?」」」」」

「風で混ぜてもいいですし、これを液体とみなして渦を起こすイメージでもいいです。こんな感じです」

ボールの縁を掴んで、風を使って混ぜる方法と液体として魔力を流し込み混ぜる方法を見せる。

「器用なことするわねぇ」

 南の魔女が目をパチクリさせる。

「まあ、フォークで混ぜてもいいですけどね」

 そう言ってフォークを使って人力で混ぜてみせるアマーリエ。

「オン、オン」

「え、何?シルヴァンも混ぜるの?」

「オン!」

「んじゃぁちょっと待って、下に塗れ布巾敷くから。こうするとボールが安定します」

 そう言ってアマーリエは魔法を使って布巾を濡らし、ボールの下に敷く。

「そっとよ?」

「オン!」

 卵液をこぼすことなく風で混ぜ始めるシルヴァン。

「上手!シルヴァンそのまま混ぜてて。そしてオリーブオイルをこんな感じで細く垂らしながら、混ぜていきます。このぐらいの硬さになったら油を入れるのをやめます。一度にたくさん入れると油とお酢が混ざりあわず分離するので気をつけて下さい。シルヴァンもういいよ」

 見事に乳化したマヨネーズの入ったボールを調理台の中央において皆に見せる。

「シルヴァンもやるわねぇ」

「……どこからどう突っ込んでいいのやら?」

 アーロンは呆然と出来上がったものを見ている。

「ダニーロさん、わたしにもボールと材料を下さい」

 アルギスの言葉に我に返ったダニーロが、自分の分とアルギスの分のボールと材料を揃え、二人でマヨネーズを作り始めた。

「こんな感じでしょうか?」

「ええ、バッチリです、さすがダニーロさん」

「混ぜるのが難しいね、シルヴァン手伝ってくれるかい?」

 アルギスはシルヴァンに応援を頼む。

「オン!」

「お、なるほど。出来たぞ!リエ、どうだ?」

「いいと思いますよ。このソースでいろんなものを和えたり、さらに材料を足して風味の違うソースにしたり、色々使いみちがあります。もちろん油やお酢の種類を変えるだけでも風味が違ってきますので、使う料理によって変えるのもありです」

「なるほど。色々研究しないとですな。それでこのジャガイモのすりおろしと卵の白身はどうするんです?」

「まあ、見てて下さい」

 そう言うと、アマーリエは玉ねぎを四分の一にカットしてみじん切りし、ジャガイモのボールに入れる。さらにリュックからハムの塊を取り出し、それも刻んで入れて、塩胡椒してかき混ぜる。

「うーん、もう一個卵入れるか。これをフライパンで焼きます」

「フリッタータに似てますな」

「お国の料理に似てますか?」

「ええ、帝国の卵料理の一つですな。私が焼きましょう」

 そう言うとダニーロがボールを持って移動する。その後を皆でぞろぞろついていく。

「おお!料理長!これは最新の魔導焜炉ですな!手に入れられたんですか?」

 アーロンが目を輝かせて聞く。

「ええ、支配人とギルド長が必要だと入れてくださったんですよ。これは本当に便利なんです。火の調節がすごく楽になりました」

「うちも扱いたいんですが、なかなか作れる魔導具屋がなくてねぇ。他の国にも売り出したいんだが、難しい」

「そうなんですか?」

 魔導焜炉を頼んで作ってもらい、その後は改良しか首を突っ込んでいないアマーリエ。売れ行き具合は、職人からしか聞いておらず、流通を司っている商人の話は初めてだった。

「ああ、お嬢ちゃんそうなんだよ。戦闘専門の魔導具屋はそれこそいっぱいあるが、生活魔導具屋はなかなかいいところが少なくてねぇ。領都のベルク魔道具店から少しずつ仕入れているんだが、あちらも職人が足りないとぼやいてて」

 アマーリエはパン屋の厨房で料理教室をしなくてよかったと胸をなでおろす。ダニーロやアーロンがいろんな見たこともない魔道具を見て、間違いなく大騒ぎになっていただろう。

「アルバンの魔道具屋さんに作るの頼んだら叱られます?」

「はて、どうじゃろ?アルバンの魔導具職人は戦闘専門だが、村の生活魔道具も扱うからのぅ」

「一応レシピは有料で公開してたはずですから、レシピを買って作ってもらうのもありかもですね」

「一考の余地ありじゃの、ふむ」

 二人の会話をよそに料理長はフライパンを温め、ボールの中身を弱火で焼き始めていた。

「その魔導焜炉?すごく便利そうですよね?こんな弱火に出来るんですか?」

 アルギスが目を丸くしてダニーロに尋ねる。

「ええ、さらに火を強くしたりも出来ますし、一定の火力が続きますから焼きムラがないんですよ」

「私も欲しい……。いくらでしょうか?」

 神殿の食事担当になるであろうアルギスは、この料理を楽にしてくれる魔法のアイテムに魂が持って行かれそうになった。

「私は値段を知らんのですよ」

「その最新の型じゃと気持ち安くなっておってな、それでも三十万シリングするのぉ」

「三十万ですか。それなら問題なく買えますね。アーロンさん都合はつきませんかね?」

 フンスと鼻息荒く、アーロンと交渉を始めるアルギス。

 

 アマーリエの場合、発案者特典とモニターということで人には言えない値段で買っている。それでも最初期に作ってもらった魔石付きの魔導焜炉には三年貯めた小遣い(登録レシピで稼いでいるので小遣いとはいえない額)をはたいている。アマーリエが0から頼んだことなので開発費込みでだが。

 もちろんその際にアマーリエは、魔道具屋の主人に職人ともども、生活魔道具というのは手に入りやすい値段じゃなきゃ意味が無いだろうとこんこんと説教を食らった。


「この魔方陣だったらそれぐらいになるわねぇ」

 南の魔女が横から覗き込んで、魔導焜炉の魔法陣を確かめる。

「うむ。まず火口四つ分の魔法陣じゃが、これの凄いところはのう、魔石がいらんところなのじゃ」

「そう言えば、魔石が何処にもついてない?」

「裏側にもついてないのぉ?」

「ついてませんの」

 アルギスと南の魔女が驚きのあまり口をパカーンと開ける。

「空気中の魔力を自動的に取り込む様になっておっての、その上省魔力で動く。魔法陣を四つ刻む分、高くはなっておるが、魔石を使わないぶん最初に出来た魔導焜炉よりも格安なんじゃわ」

「ダニーロさん、ちょっとどいてぇ、その魔法陣もっとよく見せてぇ」

「ちょ、魔女様危ない!火がついてるんだから落ち着いて」

 慌てて、アルギスとパトリックが止めに入る。

「うん、南の魔女さまも間違いなく魔法馬鹿だわ」

「当たり前でしょぅ!」

 呆れた目で言うアマーリエに、鬼のような形相で吠える南の魔女。

「保温マグや保温水筒も、金属に彫り込んである方の動力源は空中の魔力ですよ。魔法陣が絵の具で書いてある方は絵の具に魔石混ぜ込んでるみたいだからその魔法陣ありませんでしたけど」

「「ええ!?」」

「あれ、お店で気がついてなかったんですか?」

「省魔力なのは見て取れたわよぉ!分からない陣が一つあるなって思ってたのよぉ!」

 アマーリエは自分の保温マグを取り出して、南の魔女に見せる。

「これでしょ?ここが空気中の魔力を取り込む陣です。絵の具で書いてある方のは、その魔法陣がなかったですよ。でも、この空気中の魔力を取り込む陣って、思ったより魔力を取り込めなくて、複雑で大きな力が要る魔法陣には使えないんですよね。何かが邪魔してるって魔道具屋のおっちゃんが言ってました。私は詳しくないんで、さっき行った魔道具屋のヨハンソンさんに詳細聞いて下さい」

「わかったわぁ、そうするぅ。領都の生活魔道具屋、侮りがたしねぇ」

「はい。ベルク魔道具店の生活魔道具は、魔石無しで稼働できる程度の魔力で動く魔法陣は皆、この空気中の魔力を取り込む方式になってますよ。アイテムバッグや木のアイテムボックスなんかは昔ながらの魔石を砕いて入れた絵の具使ってるからこの魔方陣使ってませんけど。って言うか拡張魔法って魔力喰うらしくって自動魔力吸入の魔法陣じゃ起動しないんですよね」

 恬淡と自分が分かる範囲で説明するアマーリエに南の魔女がジタバタし始める。

「なんてことぉ!それにさっき魔道具屋で何にも気にしないで流しちゃったけど、金属に書ける絵の具って何!?今までなかったわよねぇ?」

「なんですと!?金属に書ける絵の具!?ものすごい発明じゃあないか!」

「ついこの間出来たところみたいですよ。それも詳細はヨハンソンさんに聞いて下さい、私は詳しいこと知りませんから」

「かぁ!こんな商機見逃すわけにはいかん!息子に連絡取らねばぁ!」

 新しい情報にアーロンまでもが我をなくしはじめ、アマーリエが流石に不味いと思い、引き戻しにかかる。

「いや、流石に領都の支店から連絡いってるんじゃないですか?新しい商品の情報を集めるのも商売人の仕事ですよね?」

「はっ、そうか。そうじゃな。一応確認するようにだけ言うておくか」

「パトリック、お皿を取って下さい」

「はい料理長」

 料理人二人は、周りの騒ぎをよそに自分の仕事をこなすのであった。

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