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スミマセン、エピソード増やして長くなってます。
※このお話の前半グロ注意になります。
参考になるかならないかわかりませんが、ちなみにグロ基準→CSIシリーズをご飯を食べながら見られる人(作者)になります
想像力が豊かすぎる方は、スクロールの真ん中辺りまでかっ飛ばしてください。よろしくお願いします。
予定外の旅連れと共にアマーリエと銀の鷹がアルバン村についたのは、お昼過ぎ。
馬車を降りたアマーリエとシルヴァンはベルンに伴われて、門番の詰め所へと行く。落ち込んだままのアルギスは南の魔女に襟首を掴まれ、その後ろを歩いてくる。
「アルバン村にようこそ!南の魔女様、お久しぶりですね!ベルンさん、今年もよろしくです!」
「おひさ~。今日はモリスが当番なのねぇ」
「久しぶりだな。今年もよろしく。ほい、新しいパン屋を連れてきたぞ」
「私は新しい神官さんよぉ」
にこやかな門番に身分確認をされ、アマーリエとアルギスは門の詰め所にある水晶に手をかざす。
「あ、その魔狼ちゃんも水晶に前脚かざしてねー」
「オン!」
背伸びしたシルヴァンはペチッと水晶に肉球をあてる。
「はい、これで仮登録が済みましたので結界の中に入れますよー。えーっと、アマーリエ・モルシェンさんは役場で本登録お願い致します。ベルンさんは魔狼ちゃんを冒険者ギルドにお願いしますねー」
「いや、その魔狼はリエのだから」
「あれ、パン屋さんの従魔でしたか。でしたら、パン屋さん、役場で一緒に登録してくださいね」
「はーい」
「アルギス神官殿は冒険者ギルドで本登録をお願い致します」
「はい」
「では私からの諸注意を。村の出入り口はここだけになります。他から出ようとしたり入ろうとしても弾かれますのでご注意くださいねー。結界をいじろうとすると結界そのものに取り込まれちゃいますからやっちゃダメですよー」
「わかりました~」
「ちょっとぉ、モリス!そんなぬるい言い方じゃ効果ないんじゃないのぉ?」
「いえいえ〜。今年は十数年ぶりに引っかかったの居ますから〜。それ見せてあげてください」
「「「?」」」
アルバン初めて組が首をかしげる中、常連さんはグハッと手で顔を覆っていた。
再び馬車に乗り込んで結界の中へと入っていく。シルヴァンは馬車に乗った途端、アルギスに抱え込まれている。
「認証型の鍵があるんですね。初めて知った」
前世の静脈認証式の鍵を思い出しながら、のんきにアマーリエがゲオルグに話を振る。ゲオルグはそれを受けて答える。
「うちの初代と初代国王陛下が手に入れたもんじゃ。アルバンにしか無い。詳細は辺境伯と王、その継嗣にしか伝えられんのじゃ」
「へぇ~。一度登録したら出入り自由なんですか?」
「基本的にはの。結界の出入り口はこの一箇所だけじゃから必然門番の前を通ることになる」
「一応人の目の確認も入るということですね。後は問題起こしたら取り消し?」
「そうじゃ」
「結界を破ることってできるんですか?」
「結界の力を上回れば可能ですよ。でもこの結界を破るのは相当な力が要るか、あるいは結界の弱い場所を一点突破する目と力が必要になりますよ」
「なるほど~」
東の魔女の説明に頷くアマーリエ。
「リエ。絶対、結界の隙間通ろうなんて考えちゃ駄目よ?あんたの器用さってそういうことできそうだから怖いのよね」
「まあ、できそうなの?」
「しませんよ!出るならちゃんと出入り口通ります!」
(……何かあったらこっそり隙間から出入りする気だな、リエのやつ)
突っ込んできたマリエッタと興味津々の東の魔女に可能性は否定せず、やらないとだけ宣言するアマーリエ。リエの本質が垣間見えてきたベルンが腹の中で溜息を吐く。
「アマーリエ、失敗したら結界に閉じ込められるからの。やるでないぞ?あんな風に最後には骨になり、最後には骨すら消えるんじゃ」
ゲオルグの指差す方を見ると村の境界の隅の方にもがきあがいたような状態の人骨が不自然に浮いている。結界に囚われ、魔力を吸われ、やがてすべてを結界に吸収されしまうのだ。
アルバン村が鉄壁と言われる所以だった。
「人が忘れかけた頃にぃ、結界を潜ろうとするバカがぁ現れるのよねぇ。私、これ見たの何度目かしらぁ」
困ったわと首を振る南の魔女の服の裾を、人骨に驚いたアマーリエが思わず掴んで叫んだ。
「ぎゃー!(リアル九相図か!)骨の前段階でなくてよかった!匂いがしなくてよかった!子供の教育に良いんだか悪いんだか!絶対やりませんから!」
思わず出そうになった前世の知識を飲み込み、ツッコミを漏らしつつ、やらないと誓ったアマーリエだった。
「あぁら、骨までは早いのよぉ。だいたい人が眠りについた頃に侵入しようとするでしょぉ?明け方までには骨になってるわよぉ。教育に良いのよぉ。ここの村じゃぁ、悪いことしたらああなるって教わるのよぉ。あれは、ほんと何よりも効くからぁ。ああ、なりたくなきゃやらないでしょぉ?あんた、絶対やる気なくなったでしょぉ?」
南の魔女の色々見たことがあるらしい言葉に真面目な顔で頷いたアマーリエだった。そして、悪いことをしたらああなると実地で教えられ、トラウマを植え付けられる村の子供達に同情したのであった。
ただ、きれいな骨格標本となるため、冒険者ギルドや神殿の教材に使われることがあるというのは一般人には知る由もなかった。
「侵入に関しては、ほぼ完璧なんじゃが、出る方は割と気にしとらんのがのぅ。あとは、どこのバカがなんの為に入ろうとしたかが、わからんようになるのがのぅ、ちと問題なんじゃ」
「結界にペッしなさいって言わないんですか?お腹壊しそう」
(あれ、もしかしてお花畑野郎の手の者だったとか?南無三)
アマーリエはとぼけたことを言いつつ、腹の中で骨の正体を推測する。
「お腹壊すって、あんた……」
「そうできれば良いんじゃがのぅ」
結局締まらない話で終わるアマーリエ達だった。
村の中に入るとゲオルグ達は村にある商業ギルドが運営する高級宿屋に、銀の鷹とアマーリエは馬預かり所に向かった。
ちなみに、シルヴァンはアルギスに抱え込まれて離してもらえなかったのでアマーリエはくれぐれもかじらないようにとシルヴァンに言い含め、あとで迎えに行くと南の魔女に伝えた。アルギスはシルヴァンを抱き込んで内にこもったまま、南の魔女に引きずられて宿屋に連行されていった。
「はぁ~。ああ、やっと開放された」
南の魔女からアタックされて精神的にゴリゴリ削られまくったベルンはちょっと青息吐息だ。
「……愛って重いんですね」
「言うな!」
真面目くさっていうアマーリエにベルンがキレる。
「まあまあ、落ち着いて。ギルドに依頼終了報告しにいこうよ」
「グレゴールはいいよな?範疇外で」
「ハハハ」
ジットリしたベルンの視線を受け、以前に南の魔女から優男は論外よ宣言を受けたグレゴールは、乾いた笑みを浮かべる。ちなみにダリウスは、あんたは縦も横もでかすぎんのよと言われてしまっている。あんたが言うなである。
「ベルンさん、早くお嫁さん貰えばなんとかなりますよ」
防御壁ができればなんとかなるだろうとファルが何にも考えず慰めの言葉を口にする。
「……ファルお前が嫁に来るか?」
ベルンのおどろおどろしい発言に、自分が嫁に行ったら起こるであろう未来に想像がたどり着いたファルは慌てて頭を下げる。
「……すいません。嫁に行ったら南の魔女さまが毎日いびりに来るところしか想像できません」
「未だ見ることのない嫁の苦労を考えたら無責任な発言は慎めよ」
「はい」
「……南の魔女さまに対抗できるような図太い女の人?または天然無双系?」
グレゴールが腕を組んでベルンの回りにいる女性陣を次々思い浮かべながら首をひねる。
「あー図太いのはここに一人いるな」
ダリウスに指さされたアマーリエが首を傾げる。
「とぼけてんじゃないわよ。あんたの必殺開き直りで南の魔女さまの意気を最初に挫きまくったのあんたでしょうが」
「そうでしたっけ?」
「先手必勝とばかりにバルシュ産の芋ですっていい切ったの、リエさんでしたよね」
「……だったな。なるほど、なんか言われて傷ついちゃったり言葉をなくすようなのはだめなわけだ」
「毒気を抜くような切り返しが求められるんですね」
「だから、図太い女か天然無双系でないとだめなのか。納得」
「お腹すいた。早くギルドに報告行って、昼にしよう!」
「「「「「……天然無双系か?」」」」」
皆から視線の集中砲火を受けるも、まるっきり気にせず、ギルドに向かい始めるダフネ。
「あ、コラ。まだアイテムボックスおろしてないってのに。リエのは俺とグレゴールで、俺達の分はダリウスが運べ」
「了解」
「おう」
アマーリエとベルン達は不毛なやり取りを一旦棚に上げて、慌ててダフネの後を追う。
冒険者ギルドでアマーリエは依頼完了の報告を済ませ、ついでに新しく来たパン屋ですと挨拶を済ませる。銀の鷹も依頼完了手続きを済ませたあと、ギルド内の宿屋に投宿手続きを取った。早速、ダリウスは自分たちのアイテムボックスを部屋に運び入れる。
「リエはこれからどうするんだ?」
「村役場の方に行って転入手続きして、商業ギルドに開業届けを出して、後は転送してもらった荷物の受取です。ってどこに転送陣あるんだ?嫌だ、肝心なこと聞いてないし」
ベルンに聞かれたアマーリエはやることを指折り数えながら説明し、うっかりしていたことに思い至る。
「一応転送陣は各ギルドと村役場にありますが、個人的な荷物の取扱ってどこでしたでしょうか?」
ファルが首を傾げる。
「おいおい。今、確認してやるよ」
呆れた様にいうと、ベルンが相互通信機器を使って領主に連絡を取る。
ちなみにこの通信機器も依頼料に含まれている。今となっては領主にのしつけて返したいもの筆頭アイテムだ。持ってるだけで、厄介事に巻き込まれる危険性があるからだ。色んな意味で。
「……は?パン屋の中?地下の倉庫ですか?はい、分かりました」
「ベルンさん?」
「ダールさん、転送陣を新たにパン屋の地下倉庫に設置したってよ」
遠い目をしたベルンが受けた説明をそのままアマーリエに伝える。
「は?」
「色々面倒なやり取りもあるだろうから三年間は設置したままだと。その後、取り外すかどうか決めるそうだ」
「「「「「「……無茶振り?」」」」」」
「リエに対応するには速さが命だそうだ」
「……そのために物理的距離をなくすのか。さすがと言えばいいのか」
戻ってきたダリウスが顎を撫でながらつぶやく。
「……新しいお菓子送れってことですね」
「ま、まあ運ぶ手間が省けてよかったじゃないか」
グレゴールが物事のいい面を見ようとするもアマーリエが懐疑的な意見を言う。
「……結構重いものとかかさばるものとか頼んだんですけど、地下から上に持ってけるのかな?」
「……アイテム袋の口にあう大きさなら運べるでしょうけど」
アイテムバッグに入れて運べるものならとマリエッタは考えるが、アマーリエの顔を見て無いなと内心で思う。
「一旦、皆でパン屋に行くか?どうせだ。手伝うぞ?」
ベルンの言葉にメンバーが頷く。アフターケアもバッチリな銀の鷹のメンバーでした。
「あ!先に、ギルドで荷物運びの指名依頼出してきます。タダ働きは申し訳ないですもん」
個人依頼も一応ギルドを通すことで透明化され、事後に問題が起こりにくくなる。親しい仲であっても、口約束は火種になる可能性がある。むしろ親しいからこそ、間に人をはさみ、書面化してお互いが後顧の憂いなく付き合えるようにするのが一番なのだ。それに銀の鷹の世間貢献度にポイントも付くからだ。
「あーなら報酬は、携帯食にしてもらっていいか?」
「分かりました。あ、そうだ!」
アマーリエの何か思いついた顔に一同が身構える。もはや条件反射と言えよう。
「な、なんだ?」
「常時依頼でダンジョンの中の物を取ってきてもらうってのはありですかね?」
思ったよりは普通の答えに一同胸をなでおろす。
「なんか欲しいのか?」
「いえ、植物系とか液体系でなんか使えるものがあったら嬉しいので特に指定無しでお願いしたいなと。米以外にもなんかあったらいいなーなんて」
「なるほど。常時依頼なら誰でも受けられるし、簡単な依頼ならダンジョン初心者でもついでに受けられるからな」
「はい。報酬はこういう場合どしたらいいんだろ?」
「そのあたりはギルドの係のやつと相談すればいい」
「そうします。えっと取り敢えず引っ越し手伝いの指名依頼の報酬は、何食分?」
「そうだな。おい、もしリエがその常時依頼を出すならやるか?」
「やりたいです!最初は一階層目を一日かけて潜りますか?私も色々集めてみたいですし」
ファルがアマーリエに期待して植物採集に意気込みをかける。ファルの言葉に文句が無いようで、他のメンバーも同意するように頷く。
「なら、六人分で二食分ずつあればいいか」
「分かりましたー、お願いしてきます」
依頼発注窓口にアマーリエが向かう。
「すみません、依頼をお願いしたいんですが」
「あら、パン屋さん。初めまして。依頼発注窓口のミルフィリアです。ご依頼内容は?」
「えっと指名依頼で銀の鷹に。内容は引越の手伝いでいいのかな。報酬は携帯食料の提供、六人分各二食で合計十二食です。手数料はおいくらですか?」
「一食おいくらぐらいです?」
「千シリングぐらいですね」
せっかくなので保温マグ付きの奮発したお昼を用意するつもりのアマーリエ。色々おまけでダンジョンのものを持ち帰ってもらうつもりなので頑張れるように食事は美味しい方がいいという腹積りなのだ。ついでに空のマグも渡して採集に使って貰う予定だ。
「でしたら、一万二千シリングの手数料三%で、三百六十シリングになります。ご依頼の完了は、期日にしますか?それとも引っ越し作業完了後ということにされますか?」
指名依頼の場合、指名を受けたものとの連絡や中継ぎをギルドが請け負うことが多いため、その分手数料が高くなっている。
「あーどっちがいいかな。ベルンさーん」
「どうした?」
「依頼完了って作業完了時が良い?多分、夕方には終わると思うんだ。運ぶものがあったら運んでもらうだけだし」
「ああ。もし手が要るなら、三日ほど村でダンジョンに潜る準備をするからまた依頼すればいい」
「ありがとうございます。ミルフィリアさん、作業完了で依頼完了ということで。じゃこれでお願いします」
お釣りが出ないようにきっちり揃えてミルフィリアに手渡す。
「はい確かに。では、こちらをご確認いただきましてサインを」
ミルフィリアに三枚組になった依頼書を手渡され、確認してサインするアマーリエ。
「はい、大丈夫です。ではお願いします」
「こちらが控えになります。ベルンさん、依頼受付窓口にお願いします。ピア、これお願い」
ミルフィリアは控えの一枚をアマーリエにわたし、残りの二枚を依頼受付の担当者に渡す。
「おう」
ベルンが依頼受付の窓口に回って依頼を受ける。
「ベルンさん、普通の携帯食じゃないんですか?」
ピアがわざわざ報酬になっている携帯食に興味津々で問いかける。
「ああ、リエのところのパンを頼むつもりだ」
「新しいパン屋さんの?」
「おう、美味いぞ~」
「領都で有名なんですよね!はぁ~、開店てまだですよね?」
「はい、準備や窯の様子見もあってもうしばらくパンの購入は村役場預かりになります。今日、猶予はいつまでか、村役場で確認しますね」
ちなみに、前のパン屋は既に隠居している。子供もおらず、弟子もこなかったことがアマーリエが来ることになった原因だ。
パンの方は村役場の方にアイテムボックスごと預けられており、村役場の方で代わりに販売しているのだ。
「楽しみにしてますね」
「なるべく早く開店できるように頑張ります。よろしくお願いします。それじゃぁ」
アマーリエは受付に会釈して、場所を移動する。
「ベルンさん達、私が村役場に行ってる間に先にここでお昼食べてます?……もしよかったらパン屋で一緒に食べます?」
「一緒に行く!リエのご飯がいいぞ!」
「おい、ダフネ、そう食いつくな。悪いな。ギルドの宿屋の飯も悪くはないが、食えるならリエの飯のほうがいいからなぁ」
「大丈夫です。で、村役場ってどっちです?」
「ブハッ。そっちが本音か。こっちだ」
「えへへ~」
アマーリエは銀の鷹に連れられて、村役場に向かう。