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ダンジョン村のパン屋さん2〜1年目の物語  作者: 丁 謡
第37章 魔の山に行こう!
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「ひーはーひーはー、な、なにごと?」

「「「「「……」」」」」

 あまりのことに、口を挟む余裕もないゲオルグ達。

「はじめまして。私、パン屋のアマーリエ。お名前は?」

 転げ落ちた魔族のそばにしゃがみ込み、顔を覗き込んで、至近距離で聞くアマーリエ。近すぎると大概は、攻撃ではなく逃げる体勢になるからだ。

「うわっ!アタッ!?え?え?」

 アマーリエから、距離を取ろうとのけぞったために、長椅子の足に頭をぶつけた魔族。椅子の上にいたシルヴァンが、素早く回復魔法の初歩の初歩【痛いの飛んでいけ】を施す。

「あっ、痛くなくなった。ありがとう」

「どういたしましてー」

「名前教えて。駄目なら、なんて呼んだらいいか、わかんないから適当でもいいし」

 魔族はアマーリエに目を覗き込まれ、逆にアマーリエの瞳の奥底にある深淵を見ることになった。ブルリと震えて、魔族は自分の名を口にする。

「ミリヒライズ」

「ミリヒライズさんね、魔の山の麓で倒れてたから、古代竜(、、、)の漆黒さん達が、運んできてくれたんだわ」

 あえて、一番抑止力のありそうな古代竜を持ってくるアマーリエ。

「古代竜!?」

『妾の父上じゃ』

 黒紅もアマーリエのマネをして椅子の上から、ミリヒライズを至近距離で覗き込む。

「本物だ!?食べないでください!美味しくないです!」

 今度は黒紅に覗き込まれ、思わず両腕で口元までブロッキングするミリヒライズ。その額を尻尾でピチッとはたく黒紅。

『なんじゃ?食われたいのか?だが、まずそうじゃから、いらぬわ』

「不味そう……。そうですよね、魔力ないんですものね。美味しいはずないですよね」

 ミリヒライズはくるりとうつ伏せになり、そのまま祈りの間の床でいじけだした。

「ああ、やっぱり魔力なしだったんだ。なんで器はあるのに、魔力がないの?」

「わからないよ。生まれた時からなかったんだもの」

 腕で頭を抱えこむように覆って、ミリヒライズがやけっぱちで答える。

「でも、器はあるから、魔力は溜まるんだよ。私の手を握ってみて」

「?」

 差し出されたアマーリエの手を、寝転がったまま握るミリヒライズ。完全に、アマーリエのペースに飲み込まれている。周りの人々は色々言いたいことがあったが、ぐっとこらえてアマーリエに任せる。

 アマーリエは自分の魔力を少し、ミリヒライズに流し込んで見る。

「!」

「わかる?」

「ああ!」

「出せる?今と逆のことするんだけど」

「やってみる!」

「お、戻ってきたね。一応、魔力を使える可能性は、あるわけだ」

 アマーリエの言葉に、ミリヒライズが滂沱と涙をこぼし始める。

「取り敢えずさ、お腹へってない?食べられないものとかある?逆にこれしか食べられないとか」

「アマーリエさん、魔族は魔力に特化してるだけで、一応人族だから、食べるものは変わらないよ」

「なるほど」

 泣きすぎて言葉が出ないミリヒライズの代わりに、漆黒がアマーリエに情報を渡す。

「グスッ。しばらく、ヒック何も、ズズー、食べてないから、グスグス、お腹が空きすぎて感覚がない」

「体起こせそう?」

「なんとか。ヒック」

 そう言って、まだ泣きながら、アマーリエに助けられて、上体を起こすミリヒライズ。

「どう?」

「結構、グスッ、きつい」

「ちょっと消化の良いもの作ってくるから、そこに寝転がすよ。黒紅ちゃん」

『任せろ、主』

 黒紅は体を大きくして、ミリヒライズを横抱きし、長椅子に寝かせる。

「魔族についての質問は、すべて漆黒さんに。わからないことはまとめて、後で彼女に。彼女の体力が戻るまで、皆さん、しばし待ってね」

 アマーリエの言葉にコクコクと頷くゲオルグ達。アマーリエは、ネスキオの腕を掴んで、厨房に走って行く。

「あ〜れ〜」

「はいはい。ネスキオさん。まずは、砂糖入りのホットミルク」

 アマーリエは、ミルクジャーからミルクを木のカップに注ぎ、生活魔法で温めて、砂糖を入れて混ぜたものをネスキオに手渡す。

「はーい。様子見て、もっといけそうなら取りに来るね」

「よろしくー」

 アマーリエは、体力回復も必要だろうと、ヴァレーリオがカレー用に炊いていたダンジョン米とスープストックを少し分けてもらい、ミルク粥にする。

「うーん、鶏むね肉刻んで入れるぐらいはいいかな?」

 鶏むね肉を指先程度の角切りにして、塩で少し炒め、胡椒はほんの気持ち程度に控えて振る。それをミルク粥に混ぜ込む。味見をして、少し塩を足し、味を調える。

「パン屋さーん、もうちょっと固形物とかいけそう!」

「了解。んじゃ、このミルク粥お願いします」

「ほいよー」

「ゆっくり、ちゃんと噛んで食べるように言ってねー」

「わかったー」

「あ!ヴァレーリオ神殿長様に、皆の夕食用にするから、カレー分けてもらいますって言っといてー」

「ほーい」

 カレーの会用らしい、大量のカレーを遠慮なく横流しするアマーリエであった。アマーリエはカレーを温め直し、皿に米をよそって、ワゴンに載せ、祈りの間まで行く。

「夕食ですよー。ヴァレーリオ神殿長、渾身のカレー」

「おう。アマーリエ、お前、明日のカレーの会、カレー持ち込みで参加な!減った分増やしとけ!」

「わっかりましたー」

 ヴァレーリオに返事をして、皆にカレーの皿を配り、話がどうなったのか聞くアマーリエ。ミリヒライズは、カレーの香りが気になったが、ネスキオに言われたとおりに、ゆっくりとミルク粥を咀嚼している。

「まだ、何の話もしとらんぞ。強いて言えば、我らが知ってる魔族の伝説を漆黒様に伝えたぐらいだ。二度手間になるからな」

「えー。私抜きでもいいじゃないですか。しかも伝説ったって、千年前に忽然と魔族の国がなくなって、魔族がいなくなったっていうだけの話じゃないですか」

 ヴァレーリオにブーブー言うアマーリエを視線で座らせて、ゲオルグが漆黒に話しかける。

「漆黒様、揃いましたし、食べながら、魔族のことをお話しいただけませんかの?」

「いいよ。人族の間じゃ、千年ほど前にこつ然と消えたことになってるみたいだけど、単純に火の山の噴火で住む国がなくなったから、空いてる土地を探したら、魔の山の向こう側だっただけの話だよ」

「千年前にも噴火があったんじゃな」

「その後にまた国ができて……」

「五百年後にまた噴火かー」

 ネスキオがさらりと言い、皆がこそっと黒紅の方に視線を向け、何事もなかったかのようにカレーを一口食べる。

「魔の山の向こうに土地があったんですねー」

 アマーリエは、初めて聞いた部分を漆黒に聞く。

「まあ、魔の山は、人族では越えられないからね」

「ん?じゃあ、魔族はどうやって越えたんですか?」

「魔族は飛行魔法があるからね、飛び越えてたよ」

「「「「「へー」」」」」

「あれ?飛び越えられるのなら、向こうからの行き来があってもいいのでは?」

「ああ、種族の性質っていうのかな。エルフ以上に人見知りの引きこもりでね。こちら側に国があったときも、魔族だけでかたまって、他と交流しないで住んでたようなものだから」

「なるほど。引きこもるのに、最適な土地を見つけてしまったと」

「そうだね」

「魔族の寿命って?」

「二百年ほどだね。只人や獣人族よりは長生きだけど、エルフやドワーフ、竜人族よりは短いね」

「「「「「ふむふむ」」」」」

「エルフ以上に魔力が多く、魔法に長けている種族かな」

「古代竜とは、交流があるんですか?」

「気が向いた者が、たまに見に行くぐらいだからね。かれこれ……二百年ぶりくらいかな?その前は、海松(みる)が行ってたはず」

「はあ。なんで、食われるって話になってるんです?」

「海松が、別の意味で食い散らかしたんじゃないかな」

 ちょっと渋い顔でアマーリエに答え、カレーを口に入れる漆黒。

「「「「「あーぁ」」」」」

 色々勝手に納得する人々。

『なんと!海松小父さんは、魔族を喰ろうたのか!?』

「違うよ、黒紅。恋人をいっぱい作ったっていう話だよ」

『ム。海松小父さんは、節操なしだからの!主には、絶対、海松小父さんを会わせぬ!』

 フンスッと鼻息荒く言い切る黒紅。

「そうなんだ。一応、気をつけるよ」

『ウム』

「ミリヒライズちゃん、おかわり要る?食べられそう?」

 ネスキオが、カレーを食べながらも、ミリヒライズの様子を見ていた。

「あっ……。多分、大丈夫」

 ミリヒライズは自分のお腹の具合をみて、これ以上食べるのはまずいと判断する。

「そうだね、少しずつ、回数を分けて食べたほうがいいね」

 ネスキオも、ミリヒライズの状態をうかがいながら、同意する。

「はい。それであの、アマーリエさん?」

「ミリヒライズさんに、事情を聞きたいけど、今日はもう寝たほうがいいと思うよ」

 まぶたがしょぼしょぼし始めているミリヒライズを見て、アマーリエが休むことを勧める。

「無理しなくていいんだよ」

 ネスキオもフォローする。ミリヒライズは、二人の顔を交互に見て、頼りなげに眉を下げる。

「それにね。お国に連れていけるのは、漆黒さんだけだと思うし。でも、その漆黒さんが、そろそろ辰砂さん切れだろうから、今日、これからすぐ戻すとか、無理だと思うんだわ」

「そうだね。辰砂に会いたい」

 古代竜の無言の圧を感じ、コクコクと頷くミリヒライズ。

「神殿預かりでいいですかね?」

「構わんぞ」

「そうじゃの」

 アマーリエの確認に、ヴァレーリオとゲオルグが同意する。

「じゃあ、空いてる部屋に……」

『妾が運んでやろう』

 ネスキオがミリヒライズを運ぼうとするも、黒紅が大きくなって横からかっさらう。ネスキオは肩をすくめて、黒紅の先導をする。運ばれているミリヒライズは、硬直していたが。

「「おやすみー」」

 アマーリエとシルヴァンがミリヒライズに手をふる。

「リエ、あんたぁ、明日休みでしょぉ。どうせだから、今日は久しぶりに、神殿に泊まって行きなさいよぉ」

 南の魔女がまた呼び出すのが面倒で、アマーリエに泊まることを勧める。アマーリエはシルヴァンと顔を見合わせる。

「リエちゃん、お泊りしよー」

「まあ、いいか。心配だしね」

 そんなこんなで、ミリヒライズへの事情聴取は、明日へと持ち越されたのであった。





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[一言] はじめて書き込みさせていただきます。 月子と申します。 9月になりやっと人心地つける気温に なってまいりましたね 連載が再開され、しばらく会えなかった友人達に会えたような嬉しさです! すごく…
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