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ダンジョン村のパン屋さん2〜1年目の物語  作者: 丁 謡
第36章 幸せのモコモコ
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 子どもたちが雪に飽きはじめたため、シルヴァンが子ども達を連れてパン屋に戻ってきた。店に入った子ども達は、浄化魔法で雪で濡れた上着とブーツを手早く乾燥させる。

「リエちゃんただいまー!みんな来たー」

「お帰り。みんなも来たのか。こんにちは」

「「「「「パン屋さん!こんにちは!」」」」」

「揃ってどうした?」

「何か遊び教えて!」

「家の中で静かにできるやつー」

「あはは、お母さんに家の中で暴れるなって怒られたか」

「「「「「そうー」」」」」

 外で遊びにくくなって、体力が有り余っている子ども達を、母親たちは持て余し気味のようだった。

「あんた達、パン屋の営業妨害よ」

 笑うアマーリエに、ブリギッテが弟たちに注意する。

「だってー。何かない?静かに遊ぶから!」

「神殿は?かくれんぼしていいんでしょ?」

 ソニアが首を傾げながら聞く。

 神殿長が子どもに理解があり、物を壊したらごめんなさいをする約束で、神殿の中で遊んでいいと許可をだしているのだ。

「寒いー」

「ああ、広いし石造りだもんね。隠れてたら、うっかり、そのまま凍え死ねるもんね」

 アマーリエが、子どもたちの言い分に真顔で頷く。

 回収業者(グレゴール)は、現在、銀の鷹の皆と一緒に王都で拠点作りに励んでいるのだ。

「そうなの!」

「あやとりは飽きた!」

「うーん、そうだなぁ。シルヴァン、手を貸して」

「はーい!」

「んじゃ、手遊び教えるから二階で遊びな。静かに遊んでたら、おやつ持っていってあげるから」

「「「「やった!」」」」

 アマーリエはシルヴァンを相手に、「アルプス一万尺」と「みかんの花」をところどころこちらのモチーフに変えて、手遊びを子ども達に披露する。

「子ヤギの上?」

「いや。小槍の上。とんがった山ってことのたとえだよ。槍の穂先のように尖ってるって意味」

「なるほど」

「後はシルヴァンに教えてもらいな」

「「「「はーい!」」」」

 ドタバタと二階に駆け上がり、子ども達はパン屋の二階で遊びはじめる。

「なんかごめんね」

「いいよ。子どもが静かにしてるときって、寝てるか、ろくでもないイタズラやらかしてるときだから、二階で騒いでるうちは、まだ許容範囲だよ」

「「「「そうなんだよねー」」」」

 アマーリエの言葉にしみじみうなずく、保護者達であった。

 子ども達は、シルヴァンからスピードアップと人数追加の高高度な手遊びを伝授され、途中でおやつも差し入れられて、飽きることなく遊び続け、パン屋の店が閉まる頃、迎えに来た親に連れられて渋々家に帰っていった。

「リエちゃん、おなかすいたー」

「さすがシルヴァン、鼻がきくね。今、丁度、おからのドーナツが揚がったとこだよ」

「おから?おとうふできたの!?」

 アマーリエの足に抱きついて、見上げながら会話を続けるシルヴァン。

「うん。ダンジョンの主さんから海水分けてもらって、にがり作ったんだよ。シルヴァンが修行に行ってる時に」

「おおう!晩ごはん、湯どうふがいい!」

「いいよ。ダンジョンの主さんにも送っておくか」

「わーい!」

「土鍋も欲しいねぇ。銅の打ち出し鍋もいいんだけど、やっぱ鍋物といえば土鍋だわ」

「あんちゃんの国から、とうこうさんが来るんでしょ?」

「この年明けに、王都にね。ここまで陶工さんが来るかどうかは、わかんないよ。まあ、大奥様や奥様があの手この手で領都までは、引っ張ってくるかもしれないけどさ」

「ふーん?」

「さて、おからドーナツ何個食べる?」

「一個!リエちゃん、ダンジョンにコーヒー豆あるかな?ソイラテ飲みたい」

「あるんじゃないかな?ダンジョンの主さんに聞いてみるよ」

「カカオ豆もあるかなぁ」

「あるかもしれないけど、カカオ豆もらっても、チョコレートに加工する手間がなぁ」

 チョコレートが食べたいシルヴァンが、目をキラキラさせるが、カカオ豆からチョコレートにするまでの手間を思い出して、難しい顔をするアマーリエ。

「主さんなら、チョコレート工場作ってそう」

「麹蔵に味噌蔵、醤油蔵、酒蔵があるんだもんねぇ。チョコレート工場も案外作ってそうだね」

 アマーリエは、チョコレートの香りが充満するダンジョンかと想像して、微妙な顔をする。前世、チョコレート工場のあったところは、周辺に絶えず、チョコレートの香りが漂っていたからだ。

「うん!」

「聞いてみるか」

「チョコレート!」

 ご飯と湯豆腐を鍋ごと、コーヒー豆とチョコレートがあるかという質問状を一緒につけて送ることにしたアマーリエであった。

 アマーリエが鍋の用意するのを見ながら、シルヴァンはホットミルクとおからドーナッツを厨房でゆっくり楽しむ。子どもたちと一緒におやつを食べたが、それはもはや優雅なおやつ時ではなく、落ち着いて食べた気分になれず、食べたおやつがどこに入ったか、よくわからない状態だったのだ。

「ふぅ。一人でゆっくりおやつ、すばらしい」

「どうした?」

 しみじみ言うシルヴァンに、思わず吹き出しそうになりながら、確認するアマーリエ。

「余ったおやつを誰が食べるか、手遊びで決めたから、ハードモードだったの」

 みんなで仲良く分けるのか、それとも優勝者が独占するかを子どもたち自身で決め、今回は競争することになったのだ。

 おやつが懸かった手遊びは、シルヴァンの前世今生史上、究極の戦いであったという。

「みんな、身体強化スキルとか、しゅんびん値や器用値、律動感があがるとか。手遊びやってなんでなるのー!おかしいんだよ。ぶー」

 作業台に突っ伏し、理不尽を嘆くシルヴァン。子どもたちはかなり真剣に遊んだようだ。

「そ、そりゃ、ハードだったね。お疲れ様」

 子どもの頃、手遊びでウィルヘルムを身体強化して泣かせた(もっと言うと、おやつを賭けてまきあげた)前科のあるアマーリエは、笑ってごまかすしかなかった。

「アマーリエ!()るか!」

 表から、ヴァレーリオの訪いの声が聞こえ、慌てて迎えに出るアマーリエ。

「はーい!居ます!なんかありましたか?」

「……あった」

「あれ?魔女様方も?ネスキオさんも来たんだ」

「僕、今回、留守番拒否したの!夕食、食べて帰るからね!」

「はあ」

「芋っ娘、あんた子どもたちにぃ、何、教えたのぉ?」

「スキルの確認に親子で数組、来たんだよ。普通、スキル確認しに、そんなにしょっちゅう来るもんじゃないんだよ」

 座った目で聞いてくる南の魔女と西の魔女に、アマーリエは、首を傾げつつ答える。

「何って、手遊びですよ?暇つぶしみたいなもんです。あ!なんかスキル獲得したとかレベル上がったとかですか?シルヴァンがブーブー文句言ってましたよ」

「「「やっぱりか……」」」

 村の子供達、シルヴァンと黒紅と遊ぶようになって、隠形スキルを生えさせたり、器用値や筋力値、応用力などを伸ばしまくっているのだ。

 おかげで、ヴァレーリオはスキル鑑定の機会が増えすぎ状態になっている。

「そりゃ、シルヴァンや黒紅ちゃんと遊ぼうと思ったら、自分のレベル上げないと無理だと思うんですよねー」

「「「……そっちか」」」

「高位者との行動って、下位者の能力引きずりあげることは普通にありますよね?」

「それはな」

「あるな」

「子どもたちも本気で遊んでますから、伸びやすいと思いますし」

「うむ」

「そうよねぇ。かくれんぼも本気で遊ばれたわぁ」

 夏に、子どもたちとかくれんぼして、翻弄された南の魔女は、すごく実感がこもっていた。

「騎士や冒険者達も、漆黒様達とこの一夏の訓練で、レベルを上げたからな。否定はできん」

「生きていく上で必要な底上げですし、問題ないと思うんですよねー」

「「「……」」」

「お腹すいた!」

「ぐぅうううううう」

 ここでアマーリエに言いくるめられていいのかどうかで悩む三人をよそに、ネスキオとその腹が自己主張する。

「……鍋ですけど、食べていくんですよね?」

「温まるな」

「ここまで来たんだしねぇ」

「お邪魔しますー。あ!シルヴァンちゃん、何食べてるの!」

 遠慮なく厨房に突入するネスキオ。

「ぐふっ。ネスにーちゃん、いらっしゃい。おからドーナツだよ」

「ドーナツ?僕も食べる!」

 シルヴァンに視線で問われ、片手を振って許可するアマーリエ。

「神殿長様、魔女様達も食べるー?」

 シルヴァンが確認する。

「夕食前じゃからな」

 首をひねるヴァレーリオに西の魔女が、三等分して食べようという。

「ホットミルクでいい?」

 シルヴァンが、ユグの村から送ってもらった牛乳を木のカップに注ぎ、温泉村のはちみつを入れて、生活魔法で温める。

「いと小さき炎!」

「「「小器用さがまた上がって……」」」

 そんなシルヴァンを見て、ちょっとため息をつく高齢者達。

「生活魔法って、使ってなんぼですもん」

「そりゃ、どんな魔法も使って洗練させるんだがね……魔狼が生活魔法を小器用に使うとか……」

「テイマーが見たらぁ、泣いちゃいそぅ」

 アマーリエの言い分に、西の魔女が、自分の今までの常識を破壊され、カックリとうなだれ、南の魔女は肩をすくめお手上げポーズだ。

「できたー!はい!どうぞ!おいしいよー」

 なんだかんだいいつつも、いい笑顔のシルヴァンから、カップとおからドーナツを渡され、美味しいものでごまかされた、ヴァレーリオと魔女たちであった。

「ドーナツおかわり!」

「ネスにーちゃん、夕食、はいらなくなるよ」

「うっ」

「夕食の後のデザートね!」

「わかったー」

 シルヴァンに諭されるネスキオを見て、苦笑するアマーリエ達。

 一服した南の魔女とアマーリエは、湯豆腐の準備をし、西の魔女、ヴァレーリオとネスキオはシルヴァンと二階に上がる。

「むふー。あそぼー」

 そう言って、シルヴァンは、いそいそと紙と鉛筆を出してくる。

「お絵かきするの?」

 紙と鉛筆を見て、ネスキオが首を傾げる。

「ちがーう。五目並べするのー」

「ゴモクナラベ?」

 シルヴァンは、紙に方眼を描いて、五目並べを三人に教える。アマーリエに、遊んでもらってハマったのだ。アマーリエが忙しいと、相手が居ないため、遊び相手を確保するために、目の前の三人を選んだシルヴァンだった。

 ただ、ルールなしの五目並べは先手必勝になる。そのため禁じ手があるのだが、初心者のため、あえてシルヴァンにはそのことをアマーリエは教えていない。後手で勝ってるうちはいいかという判断だ。

 先手必勝になるとわかるレベルになったら、連珠にするか三人でするか、六目並べにするか、ルールを変えるつもりで居る、アマーリエだった。




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