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ダンジョン村のパン屋さん2〜1年目の物語  作者: 丁 謡
第3章 パン屋さんの朝は早いのです
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 アルギスとアマーリエの会話が途切れたところでベルンが声をかける。

「リエ、この後はどうするんだ?」

「商品のパンを焼き貯めておこうかなって。シルヴァン、明日、村の中を探索兼ねて一緒に散歩しようね。お前ちょっとお腹出てきた気がするんだよね」

 最初に出会った頃より毛並みも良くなり、全体的にふっくらしてきた感じのあるシルヴァン。そろそろ夏毛に向けてアンダーコートが抜けてスッキリしそうなものだが、キュッと締まっていたはずのお腹がちょっとゆるくなってる気がするアマーリエ。

「ゥウ?」

 自分のお腹を見つめて首を傾げるシルヴァン。気になったダリウスがシルヴァンを呼んで腹を撫でる。

「シルヴァン、おいで。うーん、確かに会った頃はもっと細かったな。ちょっとお腹タプタプしてるか?」

 ダリウスの発言にシルヴァンがガーンと口を開けてダリウスを見つめる。その様子に一緒に運動するかとダリウスがつぶやき、シルヴァンは同意するように一生懸命頷く。

「パンの焼き貯め?」

 ベルンが首を傾げてアマーリエに聞く。

「一人でパン焼くにしても限界がありますから、アイテムボックスに余分に焼いて保存しとこうかと。おそらく新しいパン屋ということで、初めは人の入も今までより多い可能性もありますし、軌道に乗って、客足が落ち着くまではパンを切らさないようにしようかと」

「なるほどな」

「村の探索って?」

 アルギスは狭い村のどこを探し回る事があるのかわからずアマーリエに聞く。

「何がどこで手に入るのかの確認ですね。後魔道具とか作って欲しいものあるんでその注文を受けてくれる店を探すとか」

「ああ、それは大事なことね」

「そんな感じで、今日はパン焼きですね。ちなみに明日の朝は広場の朝市を見に行きます。そこで依頼料の携帯食に使うもの見繕う予定です。後は、野菜や肉類、卵や乳製品の仕入先の確保ですね。ユグの村からも村役場の転送陣を利用して送ってもらうことになってますけどね。流石に量が足りないだろうし、アルバン村近郊の農村の活性化のお役に立てるほうがいいですしね」

「いろいろ考えてるんだね」

 感心したように言うアルギスに違う違うと手を振るアマーリエ。

「収入が増えれば、買えるものも増えますし、質のいいものも買えるようになります。要は私がちょっと頑張ることで、うちのパンを買ってくれる人が増えればいいなという下心ですねー」

「確かに……利があるからこそ動くんですね。さすがアマーリエ」

 ものすごく腹落ちして頷くアルギスとため息を吐いてぼやくベルン。

「……お前さんは黙ってればわからん下心をぽろりと」

「黙って待ってたって売れませんからね。いかに売りに行くかです、商人(あきんど)は」

 えっへんと胸を張るアマーリエに納得して頷くアルギス。悪影響じゃないのかと首をひねるベルンが話題を変える。

「これから俺達はどうする?」

「一旦冒険者ギルドに戻ってギルドの物件を見ましょう。それから、家具のカタログだったかしら?商業ギルドに取り寄せてもらいましょう」

「そうだな」

「あらん、拠点作るのぉ?」

「ええ、この村にまず一軒作ろうかと」

「なら私も、ここに作っちゃおうかしら隠居……」

「!素敵な南の魔女様は都のほうが似合ってますよ!」

「そうかしらぁ?」

「ええ!ここは商業ギルドの宿を利用されたほうが良いです!」

 ベルンの必死の訴えは、今のところ南の魔女に通ったようだった。

「アルギスさんはどうするの?」

「神殿に移ります。本登録もしないといけませんし。こちらの神官業務を熟しながら、ダンジョンに潜る準備をします。出来れば私も村をみておきたいですね」

「なるほど」

「その前に、アマーリエ。今日のパンを包んでほしいです。兄上に送るために名前とどんなパンか説明書きをつけたいんですが」

 さも重要そうに言うアルギスに投げやりに答えるアマーリエ。

「あーはいはい。それは家に入ってしましょうか。ここじゃ書くのが不便ですから」

「ああ、そうしよう」

「リエ、私もおやつに甘いパン欲しい」

「こら、ダフネ。店が開いてから買うんだよ。リエに集りまくるんじゃない」

 ダリウス(おとん)がメッとダフネを叱る。

「ぶー。神官様ずるいー」

「うっ」

「今日はいいですよ。試しに焼いただけですから。次からお代はしっかり頂きます。そのかわりに今日の分に関してはダンジョンでなんか面白いもの見つけてきてください」

「やった!もちろんだぞ」

「私も何か見つけてきます」

「……高く付いてんじゃないのか?」

 ベルンが呆れた顔でアマーリエの方を向く。

「ぼったくるつもりはありませんから、価値があれば上乗せしますよ」

「わーい!いいもの探してくるからな!」

「期待して待ってます」

 やる気満々のダフネに、真面目な顔をして頷くアマーリエ。

「……なら俺もおやつにあんドーナツとクリームパン」

「私も欲しいです」

「……ダリウス、ファル」

「まっ、いいじゃないの。食べた分、何か見つけてくればいいのよ。どうせリエのことだから、美味しいものになる素材なら喜んで甘いパンぐらい山ほど出すでしょ」

「もちろんです」

「「「おー!」」」

「ウォン!」

「んまぁ、シルヴァンも参戦するのぉ?」

「オン!」

「……採集に気を取られてポカするなよ」

「「「はーい」」」

「オン!オン!」

 一旦宿屋の食器類を浄化してバスケットに片付けたあと、皆で店に戻る。アマーリエから好きに持ってけと紙袋を渡されて、銘々おやつのパンを選んで満足顔でそれぞれのアイテムポーチにしまっていく。

「さ、ギルドに戻りましょうか」

「おう。南の魔女様、神官様、リエ、朝早くからごちそうになりました」

 ベルンの声に、銀の鷹のメンバーが声を揃える。

「どういたしましてぇ。皆で食べる食事はおいしいからぁ」

「ですね。ちょっとさっきまで一人で流石に寂しかったですから」

「私もこんなに賑やかに食べられるのはなかなかなかったからうれしいです。またご一緒しましょう」

「え、ええ。もちろん。それじゃぁ、俺達はこれで。バスケットは宿に返しておきますから」

 ちょっぴり顔をひきつらせながらも大人の対応を取るベルンだった。

「あ、お願いします」

「寂しいわぁ」

「仕事を頑張ってる貴女は素敵です!」

 なけなしの気力を振り絞っていい切ったベルンだった。アマーリエはこりゃダメだと首を振る。

「!頑張るわ!ベルン!」

「いいお家が見つかるといいですねー」

「おう」

 銀の鷹の影が見えなくなるまで手を振ってる極楽鳥を置いて、アマーリエとアルギスはシルヴァンとともに厨房に入った。

「あんちゃんにどのパンを何個送るんです?」

「うーん?」

「あんちゃんの部屋にはアイテムボックスあるんですか?」

「あるよ」

「なら、思うだけ送っとけば良いんじゃないですか?」

「そうする」

 どこかの山奥の少女がタンスに白パンを貯めてた絵面と、やんごとなきお方が重なり、笑いそうになるのをぐっと堪えるアマーリエ。

「お腹痛いの?食べすぎた??」

「い、いえなんでもないです。紙袋とメモとペンを取ってきますね。その間にパンを選んでてください」

速攻で二階に駆け上がり、ベッドに突っ伏すアマーリエ。

「やばい、アイテムチェストにパンを貯めてる皇帝陛下!変な想像が止まんない!」

 なんとか笑いをおさめて、メモとペンを手に店側に戻り、追加の紙袋を掴んで厨房に戻る。

「お待たせしました」

 メモとペンをアルギスに渡して、アルギスが選んだパンの説明を始めるアマーリエ。

「はぁん、いっちゃったぁ。アルギスさん、これ紙袋に入れていけばいいのかしらぁ」

「あ、このそれぞれのメモ書きと一緒にお願いします」

 ようやく店先から戻ってきた南の魔女が、アルギスの書いたメモとパンを袋詰していく。

「そうだ!リエ。あのマグもほしいんだけど」

「千八百シリングになります」

「中身も入れてほしいんだけど」

「聞いていいですか?それいつ送るんです?」

「夜だけど」

「あんちゃんの夜食ですか?」

「いつ食べるかわからないけど、そうなるのかな?」

「あんちゃんが太ってお腹ポッコリの中年オヤジになっても知りませんよ」

「え!?」

「そうねぇ、夜寝る前に食べるのはよくないわねぇ」

 この世界、魔物の危機が去っておらず、身動きが取れなくなるほど太るのはいかがなものかとされているのだ。機敏なデブはもちろんOKである。まず身を守れるというのが生き残るための大前提になるのだ。なので貴族や大商人であってもでっぷり肥え太っているものは居ない。むしろ信用を損ねることになるので皆それなりに体を鍛えているのが実情だ。まあ、毎日腹いっぱい食べるほど食べるものもないというのもあるのだが。

「じゃあ、朝食べてくださいって書いておくよ」

「いいですけどね。クラムチャウダーでいいですか?中身入りは二千シリングです」

「ん、二千シリング」

「まいど!じゃ、用意します」

「あぁ、そうだわぁ。わたしも保温ボトルの方欲しいんだけど」

「お茶も入れときますか?」

「お願い~。二千百五十シリングよねぇ?」

「はーい」

 アマーリエは魔導焜炉に薬缶をかけてお湯を沸かし始め、リュックを漁ってお茶の葉を選ぶ。

「これ、まだ量産できてないのよねぇ?」

 作業台に置かれた保温瓶を手にとって、考え込む南の魔女。

「ええ、魔力溜まりの魔道具作る方に手を取られて、遅くなってるって大隠居様が」

「私のアルバンの知り合いの魔道具や紹介するからぁ、作ってもらわない?」

「え、いいんですか?」

「いいわよぉ。これ色々便利ですものぉ。ポーション入れとけば劣化しないし、お得でしょ」

「あ、そうですね」

「色分けして、入れるものを固定してもいいわよねぇ。何入れたかわかんなくならないし」

「おお、そうですね。大きさももっと色々あった方がいいですかね?」

「そのあたりは冒険者ごとに注文すればいいんじゃないかしらぁ」

「あ、そっか」

 アマーリエは花茶の束をお湯の沸いた薬缶に入れて、火を消してお茶が出るのをしばし待ち、飲み頃に生活魔法で冷まして保温瓶に入れる。クラムチャウダーの方も飲みごろに冷まして入れる。

「はい、アルギスさん、マグ。南の魔女様、花茶にしました」

「ありがとう。見本にいくつかあれば、わかりやすいかもしれませんね」

「あらぁ、花茶!いいわねぇ」

「……保温瓶もお茶入りで追加よろしく」

 アルギスが巾着から二千百五十シリング取り出してアマーリエに手渡す。

「まいど!あんちゃんはどのお茶が好みなんですか?」

「ユーレシアの花茶なら好きだが」

「んじゃ、同じのでいいですね。一番いい茶葉ですよ」

「あらぁ、贅沢ねぇ」

「先代の奥方様から新しいお菓子を渡す時に、おまけでお茶の葉分けてもらってるんです。どのお菓子にどのお茶が合うのか知りたいから」

「なるほどねぇ」

「あ、それで思い出した。クリームパンとあんドーナツをダールさんに送っとかなきゃ。村役場の転送陣で送ろうっと。地下の転送陣じゃ、無駄多すぎるし」

 うっかりウィルヘルムのことを忘れていたアマーリエも紙袋にせっせとパンを詰め始める。

「若様に送るんじゃないのぉ?」

「際限なく食べるからダールさん経由じゃないとだめなんですよ」

「あらまぁ。私もぉ弟子にお土産代わりに送ろうかしらぁ?」

「そういえば、魔女様方のお弟子さん達は、今どうされてるんですか?」

「魔力溜まりのぉ消滅にぃ、東へ西へと跳び回ってるわよぉ」

 魔女の弟子たちは転移魔法を使い、文字通り跳び回っているのだ。

「ありゃ」

「だからぁ、頑張ってる子にご褒美必要でしょぉ?」

「確かに」

 発送する荷物を作り上げたアマーリエと南の魔女、アルギスは明日の午後、一緒に行動することを決める。それぞれやりたいことを話し合い、段取りを組む。

「それじゃぁ、段取りの確認ねぇ。まずはここで落ち合って村役場に行って荷物の発送、芋っ娘はついでに開業日の届け出。そのあと商業ギルドに行って私たちは宿屋の精算を済ませて、芋っ娘は開業日の届け出と宿の料理人との顔合わせ。その時に芋っ娘は肉の情報を入手しときなさいよぉ?」

「教えてもらえるのかな?そんな重要なこと?」

「肉屋は二軒しかなかったはずだからぁ、肉屋についてはそのまま教えてもらえるはずよぉ」

「なるほど。あ、後、商業ギルドで手伝いの人の募集かけたいです」

「わかったわぁ。その後、日用品を売ってる方の通りをざっと見て、その後魔道具屋に行きましょうかぁ」

「わかりました。その段取りで」

「で最後に神殿でいいかしらぁ?」

「ええ、問題ないです」

「アルバン村の神殿てどんな感じなんですかね?」

「そうねぇ、この村はぁ、ダンジョンのためにできた村だからぁ、それに関わる人が集まってるわよねぇ。その人達が信仰する神様が主になる感じだわねぇ。神殿はそういう人達を支える神官が主立ってくるし、辺境だから薬師や医療の技術も求められるわねぇ。回復スキルは必須よねぇ」

「……大丈夫ですか?」

 アマーリエに振られたアルギスが苦笑を浮かべて答える。

「大丈夫です。私も神官の端くれですから」

「んまぁ、芋っ娘!こうみえて(・・・・・)アルギスさん上級の回復スキル持ちよぉ」

 どうやら、南の魔女にとってもアルギスの落ち込み方は鬱陶しいものであったようだ。

「なにげに、南の魔女様とげがありませんか?」

「あぁら、気のせいよぉ」

「いいです、道中いじけてましたのは私ですから」

「ほらぁ、帰るわよぉ。芋っ娘はしっかりパン焼くのよ。シルヴァンは明日、魔道具屋でダンジョン用のアクセサリー見繕ってあげるからねぇ」

「「はーい」」

「オン!」

 南の魔女とアルギスを見送ったアマーリエは、シルヴァンと一緒に在庫のパンを焼く作業を始めた。

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