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ダンジョン村のパン屋さん2〜1年目の物語  作者: 丁 謡
第27章 本気の鬼ごっこ!?
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章の組み直しをしました。すみません。

 影が短くなりはじめ、そろそろ昼の用意かなと、太陽の位置を確かめたアマーリエの目に入ったのは。

「げっ」

「どうした?」

 不吉な声を漏らしたアマーリエの視線の先を見たベルンが、アイスクリームをすくっていたスプーンを落とす。

「……ありゃ、ノール殿か?」

「うんノールさんだね」

 ベルンにつられて空を見上げたパトリックが、宙を舞う騎士の姿を捉えて言う。

「ワワワ、結界に跳ね返された?」

 目をまんまるにして、見たままをメラニーがつぶやく。

 結界の天井にポヨンと跳ね返され、今度は勢いよく落下するノールの姿に、血の気が引くアマーリエ。

「ファ、ファルさん!すぐに、へそ踏みの会場に行ってください!」

 アマーリエの切迫した声に、ファルがポーションを掴んで走り出す。

「!黒紅様が見事に騎士様を受け止めましたよ!」

 驚きと安堵の混じった声でダニーロが叫び、隣りにいたパトリックの肩を掴んで揺さぶる。ダリウス程度の大きさになった黒紅が、ノールをお姫様抱っこしている。

「よ、よかった」

「黒紅ちゃん、よくやった。おやつ奮発したげなきゃ」

 涙目で腰の抜けるメラニーと、ほっと胸をなでおろすアマーリエ。

「……一体、あそこで何が起こってるんだ?」

 冷や汗を垂らしながら、ボソリとベルンがつぶやく。

「……知らないほうが幸せなことかな?」

 ハハハと乾いた笑い声を漏らして、パトリックが応える。

「パトリックさん、それ怖いですから!!」

 地べたにへたりこんだままメラニーが突っ込む。

「……行くべきか行かざるべきか」

 ハムレットのごとく苦悩を顕につぶやくアマーリエ。ただし、その苦悩の中身はノールの八つ当たりを受けるべきか受けざるべきかである。

「リエ?」

「まあ、黒紅ちゃんがちゃんと助けてたし大丈夫でしょ。ファルさんも行ってくれたし。さ〜きにお昼の用意しよーっと。人間、お腹空いたら気が立つもんねー。さあ!みなさん!そろそろお昼のカレーの用意始めましょうか!」

 アマーリエ、見事に逃げに入った。


 では少し時間を巻き戻して。

 挨拶を済ませた領主一家と黒紅一族。その後は西の魔女が案内役を買ってでて、皆を影踏み鬼と高鬼の会場へと誘う。緑青は、アイスクリーム屋の前で悶ていた竜人族の近衛、ドラコを捕獲し、連行する。

 二面ある影踏み鬼と高鬼の会場は交互に行われるが、影がほぼなくなってしまう鐘4つ(正午)は高鬼だけとなる。

 会場には、アマーリエと土の精霊が作った、高さや太さが様々な土の柱や壁が、あちこちに配置されている。

 西の魔女は、すでに始まっている影踏み鬼の会場を指さして説明を始める。

「まずは影踏みと高所回避だよ。これは個人戦だね。基本の規則は簡単。避難場所である影の中か高所にいる間は捕縛役(ねこ)が触れられない。ただし避難場所には十数える間だけしかいられない」

「ふむ」

「そして今回の大会の影踏みと高所回避の特別規則は、点数制と大人と子どもは別規則になっていることだ」

「点数?」

「ああ。参加者はまず、この点数確認表を渡される」

 西の魔女は会場の係員から紙を受け取って、ゲオルグ達に見せる。

「参加は、一人必ず三回。大人は全員が捕縛役(ねこ)逃走役(ねずみ)でもある」

「つまり、捕まえながら逃げなければいけない?……かなり難しくないか?」

 フリードリヒが苦笑いしながら、西の魔女を見る。

 大人の参加者は、逃げることだけにも捕まえることだけにも、意識を偏らせてはいけないのだ。高得点を狙うには、捕まえながら回避するという高度な技術が必要になっていくのだ。

 そして、審判役は逃げているのか、捕まえているのかを見極める必要が出る。

「そう。簡単じゃ、つまらんだろ。だが、魔物と戦うことを考えれば、戦いつつ逃げることできなきゃ、生き残れんだろ?」

「……訓練になっとるのか?」

「一応。遊びながら学ぶというのは大人でもありだろうと、パン屋さんや職人連中がな」

「「「「アマーリエ……」」」」

「まあ、学ばされてると気がつくのは、身についたことが役に立ってると、わかった後になってからだがな」

 ケラケラと笑う西の魔女に、微妙な顔をする領主一家であった。

 何にでも、どこにでも、学ぶべきものはあるのだという職人気質の人間にルールを作らせると、こうなるのである。

 審判役のほうも、見極め力や体感で一定時間を覚えられるということで、訓練につながっていたりするのである。

「うちでもやりましょうね」

「はい!宰相補様!」

 有無を言わさぬ微笑みの緑青に、うなずくしかないドラコ。

「子ども達の方は、大人と違って一人が捕縛役(ねこ)で残りが逃走役(ねずみ)になる」

「子どもは役に専念できるんですね」

 ルイーゼ・ロッテは、力加減がされていることを知り、ホッとする。

「まあね。流石にいろいろ見ながら、並立してやるようになるには、まだまだ幼いし、経験が足りないからね」

「いろいろ考えておるのう」

「ああ、かなり本気だよ。一回の時間の中での捕まえた数と捕まった回数で点数が決まる。だからほら、確認のための係があんなにいるんだ」

 会場周辺に立つ審判役騎士達が、せっせと点数をつけている。

「騎士達は、審判なのかい?」

「ああ。状況を見て判断することを学ぶ、大事な機会だからね」

「確かに。騎士に必要な仕事だな」

 フリードリヒが、深く頷く。

「もちろん、遊びに参加してる者も居るよ。そのあたりは、それぞれがやりたいことをやって楽しむほうがいいからね」

「一回の時間はどう計るのでしょう?」

「それはあの、砂時計さ。パン屋さんがガラス職人に作らせたんだ」

 そう言って、会場の正面側に置かれた砂時計を指さして、簡単な構造を説明する西の魔女。

「あれはいろんなことに使えそうですわね」

 マルガレーテがポツリと漏らしながら、かなり興味を惹かれたように西の魔女の話に聞き入る。

「ふむ。大いに結構。子どもの遊びを皆でするとは正気かと思うたが、なかなかに凝っておるの」

「ええ。そうですねぇ。王城でもできそうです」

 ゲオルグの言葉に、マルガレーテが面白そうにつぶやく。

「そうして、三回の総合得点で、優勝者が決まるんだよ。公平だろ?」

「本当に、よく考えたもんだな」

 走りまわる大人と子ども達を見ながら、フリードリヒが、考え抜いた大会役員のアマーリエと村人たちを思って、呆れとも感嘆ともつかない声を漏らした。

「かなりうまく点数を調整してますね。捕縛役(ねこ)でも逃走役(ねずみ)でも損はない」

 得点表を見ながら、緑青の方はただただ感心したようにうなずく。

 アマーリエ達、鬼ごっこ開催委員達は如何に公平且つ、皆が本気で楽しめる遊びになる用にルールを練り上げたのだ。点数の割り振りも上手くバランスが取れるようにと調整している。

「そういえば漆黒は?」

 代赭(たいしゃ)が孫の夫の存在がないことに気がついて、西の魔女に問う。

「この先のスタチュー遊びの会場ですよ。漆黒殿は、それに参加しますから。じゃあ、そちらを見に行きましょうか」

 西の魔女を先頭に、村人に声をかけながら次の会場に向かう、ゲオルグ達であった。


「「「「「「……?」」」」」」

 ポージングしたまま、ピクリとも動かぬ村の大人や冒険者達に混ざって、子ども達もじっとしている様子を見て、怪訝な顔を西の魔女に向けるゲオルグ達。

「いーち!にー!さん!お星様!」

 捕縛役(ねこ)の掛け声に一斉に動き出す、逃走役(ねずみ)。そしてまた大人たちはポージングし、子ども達はじっとその場に留まる。

『『『『ナイスカット!』』』』

 そして何故かはいる掛け声。

「……なぜ、装備がしゃべるのでしょう?」

 ルイーゼ・ロッテが、捕縛役(ねこ)が居る柱のそばに並ぶ装備を指さして言う。

「ああ、あれか?あれはこの間できたばかりの伝説(レジェンド)級の装備だね」

「いーーーち!にぃ!さーーーーん!おーほーしーさーまー!」

『『『『大胸筋が歩いてるな!』』』』

「「「「「「伝説(レジェンド)級の装備?」」」」」」

「おや?話は通ってないかい?奴らうるさいぐらい喋ってね。仕方ないから、支援の歌と祝詞を覚えさせたんだよ」

「支援の歌?」

「祝詞?」

「最近は、祝詞を覚えさせるために神殿前の広場に連れてきてるんだが、スタチュー遊びの時は、なぜかああして掛け声をかけるようになったんだよ」

 西の魔女の言葉に、耳が聞くのを拒否し始めるフリードリヒとゲオルグ。

「一!二!さーーーーん!おーほーしー様!」

『『『『筋肉本舗!!』』』』

「今日は、奴らを作った鍛治師たちもこっちに来てるから、一緒に来てるんだろ」

「あの、西の魔女様、いろいろ突っ込みどころが満載なのですが」

「奥方殿、気にしたら負けだ」

 西の魔女に真顔で言い切られ、後でアマーリエに問いただそうと決めたルイーゼ・ロッテとマルガレーテであった。

「あそこまで格好つける必要はあるのか?」

 特に冒険者や騎士達が、自慢の筋肉を見せるがごとくポーズを決めているのを見て、極めて麗しくない表情で物申すフリードリヒ。

「ああ、大人は敢えて難しい格好を取ることになっているんだよ。ただじっとしてるんじゃ、子どもが不利だろう?それに今回は、特別に芸術点もつくんだ」

 そう言って係から点数表を受け取って、芸術点と書かれた欄を見せる西の魔女。

「「「「芸術点?」」」」

「どれだけ美しく、またかっこいい格好で微動だにしなかったかで特別賞が出るんだよ。審査員は、細工士達だよ」

「……誰の案なんです?」

「南のに決まってるじゃないか。パン屋さんが渋々、折衷案を出したらこうなったんだ」

 さも当たり前にいい切った西の魔女であった。南の魔女が美しくなきゃぁだめよぉ!と要らぬことを言い、アマーリエがそれならと、芸術点を言い出したのだ。

 西の魔女は、そのままスタチュー遊びも得点方式だと説明し、フリードリヒは内心もやもやしながら、男たちのポージングから敢えて目をそらし、頑張る子どもたちを応援したのであった。



まだまだつづくー

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