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ダンジョン村のパン屋さん2〜1年目の物語  作者: 丁 謡
プロローグ〜1年目の始まり
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 1

本日も快晴、春の青空が美しいファウランド王国バルシュティン辺境伯領アルバン村。

村に一軒しかないパン屋さんは朝から大忙し。

厨房の勝手口のドアを叩く音が聞こえて、村の娘が顔を出す。

「アマーリエさん!おはようございます。すみません、遅くなってしまって」

「おはよう、ブリギッテ。しょうがないわよ、お父さん大丈夫?」

「ただのぎっくり腰でした」

昨日の夕方大変だーと呼ばれて帰ったブリギッテが見たのは固まったままの父親と呆れた顔をした母親の姿だった。

「え!ただのぎっくり腰だって辛いわよ。ポーションは効かないし、あれは身動きしにくいんだから」

前世でぎっくり腰になったことのあるアマーリエは、とてもではないが他人事とは思えない。あれは本当になった者同士にしかわからない情けなさやいたたまれなさがあるのだ。『腰』とはよく書いたものである。

「すんごくぎこちない格好で歩いてますよ。歩き始めた赤ちゃんよりまだ下手くそな感じですよ」

「まあ、ぎっくり腰は横向けで寝るか、真っすぐ立ってるのが実は一番ラクっていうね。動くと響くから、気にしながら動かざるをえないし。後で軽いぎっくり腰に効く体操を教えたげるわ」

「もしやアマーリエさん、その歳でぎっくり腰に?」

あまりにも詳細な話と親身なアマーリエの様子にブリギッテに疑惑がわく。

「…ちょっとねー。取り敢えず、後このパンを並べてくれたら、お店開けてくれる?」

「プククッ。はーい」

ごまかすために仕事を言いつけるアマーリエに、吹き出した口を手で抑えたブリギッテだった。

店番として雇われているブリギッテは、残りのパンを店に並べていく。

店の入口のドアの鍵を開け、営業中の札を出す。既に開くのをまっていた村の幾人かがブリギッテに挨拶して店の中に入っていく。

「あわわ、みんな気が早い」

「オウ、ブリギッテ!食べていくからプル茶も頼む。パンはこれな。このテーブルと椅子は外に出せばいいんだろ?」

店の常連客のダンはブリギッテにパンのトレーを渡し、外用のテーブルと椅子を重ねて外に持っていく。

今日のように晴れた日はオープンカフェスタイルで営業されるのだ。

「ありがとうございます、ダンさん!あとテーブルにこのクロスもお願いします〜」

「おうよ」

「俺も手伝うぜ」

「オウ、頼まぁ」

「ケントさんもありがとうございます。いつもので〜?」

「応、いつもの!」

同じく常連のケントも椅子を重ねて運んでいく。男二人であっという間にオープンカフェの準備が終了する。

「はーい。みんなは〜?」

「うちは今日の分のパンを買いに。ゆっくり選んでるから、ブリギッテは焦らなくていいよ」

「そうそう。気にしないで〜」

「マーチのおかみさん、ミルフィ、ありがと〜」

街と違ってこの村はお互いに手伝えることがあれば手伝う緩やかな空気の村だ。

アマーリエはブリギッテをはじめ、村の女衆四人を交代で店番に雇っているが、それぞれの働ける時間に来てもらうようになっている。皆もそれぞれにやることがあるからだ。

そして、忙しくなった原因も結局は自分が招いたことなので、村の人の手伝いを甘んじて受けている。

そして晴れた日のオープンカフェの準備は一番に来た常連男性客の仕事になっている。おまけで甘いものがつくので甘いもの好きがもっぱらこれを請け負っている。

「アマーリエさん、ダンさんとケントさんにパンとお茶運んできます〜。おまけは、プリンでいいですか?」

今日の二人はプリンが好きなので、ショーケースからプリンを出してお盆に載せるブリギッテ。

「そうそう、お願いね。マーチさんおはよう。こどもさん達今日から神殿の教室でしょ?」

「そうなの!だからお昼の分は少なめでいいのよ。神殿の教室でお昼が出るようになって大助かりだわ。ああ、あたしと亭主のお昼どうしようかしら?」

「じゃあ、朝はこのカンパーニュ。お昼はこっちの半分サイズのバケットにしたら?夜はいつもの全粒粉の食パン一斤」

「そうね!後こどものおやつにこのラスクもらっていいかしら?」

「はい、毎度!」

次々とその日のパンを買いにやって来る村人と他愛ない会話を交わしながらパンを売っていく。客足が途絶え、常連客がのんびりお茶をする鐘三つ(午前十時)には接客をブリギッテに任せ、アマーリエは厨房に引っ込み、お昼用の惣菜パンの追加分作りを始め、ランチセット用の前日の夜に仕込んだスープ鍋を温める。

「よお!ブリギッテ、久しぶりだな。元気にしてたか?」

「あ、銀の鷹の皆さん!お久しぶりで、お元気そうですね…あれ?神官様?」

「やあ、ブリギッテ、久しぶりだね。アマーリエは居るかな?」

「お久しぶりです。アマーリエさ~ん!銀の鷹の皆さんですよ!」

ブリギッテに呼ばれて厨房からアマーリエが顔を出す。

「あ、皆さん、お久しぶりですお元気そうですね…アルギス様?」

アマーリエのあからさまに代わる表情に銀の鷹のメンツは苦笑を浮かべて挨拶を返す。表情を変えられたアルギスも微苦笑を浮かべてアマーリエに挨拶する。

「久しぶりだね、アマーリエ。元気そうでよかった。なんで僕がここに居るのか不思議そうな顔だね?」

「お陰様で、ええとっても不思議です。喜び勇んで帰られたと思ってましたから」

「もちろん兄上の命令だよ。色々頼まれたんだ、兄上に」

最上級の笑顔で見えない尻尾を振りまくるアルギスを思わず胡乱な目つきで見てしまうアマーリエ。

「…左様で」

「大丈夫。去年みたいに面倒かけたりしないから」

「ええ、本気でお願いしますね」

「ああ」

アマーリエのあまりの必死な言い様に銀の鷹のメンツは爆笑、アルギスは照れたように笑う。

「いや、笑いごっちゃ無いんですからね!」

アマーリエは去年、まだ村についたばかりの頃から巻き込まれた帝国のやんごとない兄弟共のくだらない両片思い(ただし兄弟愛)と村のドタバタを思い出してため息を吐いた。


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