七話〜ゲーム・スタート〜
*1*
イイロク、ジュン、権左ェ門の三人は、とりあえず自己紹介を終え、しばらくの間控え室でコーヒーを飲んだり、権左ェ門の動画を見たりしていた。
この生き返りゲームに負ければ”木”になってしまうと言うのにも関わらず、呑気な三人だった。
「ったく、いつになったら始まるんだよ。もしかして、アタシ達の事忘れられちゃってたりしてね。」
そんなまさか…。と思ったが、思いの外心配になった。三人が集まってから、もうかれこれ一時間程経っていたからだ。
「まぁまぁ、そう焦るでないぞ。恐らく、電車の人身事故があってここへ来る連中が遅れているのであろう。ガハハハっ!」
ジュンは権左ェ門の言葉に対し、不思議そうに聞いた。
「何でアンタ、そんな事分かるんだよ?もしかして、超能力とか?」
そして権左ェ門は、スマートフォンをジュンに見せた。
「いや、そんな奇怪な能力ではなく、このヤッホーニュースに載っておるのだ。ほら、ここにの見出しに”地国鉄道 人身事故で大幅なダイヤの乱れ”と書いてあるだろう?」
しかしこの権左ェ門、見た目は侍だが現代の技術を上手く使いこなしている。なかなか器用な人間だ。時代錯誤を感じさせない、その行いや余裕を持ったその性格…僕は何だか”只者ではない”オーラを感じ取った。
「ご、権左ェ門さん。あなたは一体、どんな方なんですか?」
僕の問いかけに対し、権左ェ門は少し濁す様に答えた。
「まぁまぁ、拙者が誰であろうと今は気にする事ではないぞ!ただ昔からこの様なハイカラな物に興味があってな!ガハハハっ!」
僕は気にするなと言われたので、あまり気にしない様にした。あまり聞きすぎるのも良くないし、人には言いたくない秘密を誰しもが持っているのだから。
そんな時、僕たち三人のいる部屋にドアをノックする音が響いた。
僕たちがドアの方に目をやると、一声かけて中年の女性が入ってきた。
「失礼します。私、ゲーム実行委員のイイジマと申します。」
僕はその中年女性を見て、”あっ!”と声を上げた。
そう、その中年女性は天国で会った公園で編み物をしていた、あの中年女性だったのだ。
「あ、あの。僕の事覚えていますか?ほら、天国の公園で少しだけお話しさせて貰った。」
すると中年女性のイイジマは、ニッコリと笑って答えた。
「えぇ、もちろん。あの時はどうもね。あなた、イイロクさんって言うのね。」
「あ、そうでしたね。まだあの時は名前が無くて…。あの、もしかしてイイジマさんって…。」
僕がそう言いかけると、イイジマは微笑みながら言った。
「ふふっ。1169だからイイロク。私は1140だからイイジマよ。まぁ、あの人が付けた名前だから単純よね。」
なるほど。やっぱりカミヤが考えた名前だったか。と、少しだけカミヤの事を思い出した。
そしてそのやり取りを聞いていたジュンが切り出した。
「で、イイジマさん。アンタ何しに来たの?って言うか、まだ始まらないの?」
相変わらずジュンの口調はキツい。だが、イイジマはそんなジュンの態度にも低姿勢で答えた。
「お待たせしてしまい、大変申し訳ありませんでした。ここへ来る途中、人身事故で電車が遅れてしまって…。」
そのイイジマの言葉に、権左ェ門は笑って答えた。
「ガハハハっ!気にするでないぞ!お陰でこの二人とも楽しく過ごせたのだからな!ガハハハっ!」
イイジマはその権左ェ門の言葉に安堵の表情を浮かべ、本題を話し始めた。
「ありがとうございます。それでは、これより生き返りゲームの開会式を始めますので、メイン会場へとご案内させていただきます。」
イイジマは振り返り、またドアを開けた。
そして僕たち三人はイイジマの後に続き、ピカピカの廊下を歩いて行った。
*2*
僕たち三人はさっきまでとは違い、少し緊張した表情でメイン会場へのゲートをくぐった。
そしてそこには、目を疑う様な大勢の観客……とはだいぶかけ離れていて、ちらほらと数人のグループが観客席に座っている程度だった。
「なんだい、全然観客がいないじゃん。このアタシが出るっつーのに、全くバチ当たりな奴らだな。」
確かに僕も、もっと大きな大会かと思っていたので少しだけがっかりした。
そしてイイジマはそんな僕たちの事を見て、ゆっくり話した。
「そうがっかりなさらないで下さい。何せ、天国の住人はこのゲームの事に興味がありませんし、地国の住人は毎日業務に追われております。この時間に、ここへ来てのんびりと過ごせる人は殆どいませんので。」
ジュンは納得したような素振りで言った。
「まぁ、確かにそうね。アタシらは特別にこの期間だけ業務から離れてるんだから、仕方ないか。」
「ガハハハっ!その通り!ガハハハっ!」
そして僕たちはメイン会場の真ん中へ案内された。そこには、他の参加者がすでに集まっていた。
「何だか、緊張して来ましたね。あっちの人達とこれから争わなきゃいけないのか…。」
「ったり前でしょ?アンタ何しに来たのよ?こんなとこで怖気付いてたら、あっという間に”木”になっちまうわよ。」
「ご、ごめんなさい…。」
「まっ、アタシが付いてるからお子ちゃまは安心してなさい。」
ジュンの言葉は相変わらずだったが、僕はそのジュンの言葉に少し緊張を解く事ができた。
「ガハハハっ!拙者もおるぞ!三人で頑張るのだ!ガハハハっ!」
そんなやり取りをしていると、会場内にファンファーレが流れ始めた。
そして、マイクの”キィーン”と言う音と共に、スーツ姿の強面の男性が現れた。
その男性を見たジュンが、驚いた表情で声を上げた。
「エ、エンマ部長っ!?なんでエンマ部長がここにいるのっ!?」
僕はそんなジュンの様子を見て、ジュンに問いかけた。
「あの怖そうな人、ジュンさんのお知り合いですか?」
「知り合いと言うか、アタシの働く部署のエンマ部長だよ…。いっつも叱られてっからなぁ。なんか自身無くなってきたー…。」
僕はそんなジュンの様子を見て、何だか微笑ましく思えた。
そしてエンマ部長は大きな声で話し始めた。
「諸君!私はこの生き返りゲームの実行委員長を務めさせてもらっている、エンマだ!諸君の健闘を楽しみにしてるぞ!はっはーっ!」
と、エンマ部長がすごく軽い挨拶をした後、この生き返りゲームのルールを話し始めた。
「まずは…えーっと、何だっけ?…そうだ!ポイントウォッチだ!ポイントウォッチの説明をするぞ!はっはーっ!」
そう言うと、また僕たちの元へイイジマがやって来た。そして、何やら腕時計の様な物を僕たち三人に付け始めた。
その腕時計の様な物には、10等分された円グラフが赤い液晶で映し出されていた。
そしてエンマ部長は説明を続けた。
「今は君たちが付けているのは、ポイントウォッチと言い、今回の生き返りゲームでとても重要な物になる。別に妖怪が見える様になるウォッチとかじゃないぞーっ!はっはーっ!」
僕たちは黙ってエンマ部長のルール説明を聞いていた。
だが、エンマ部長の話は色々といらないことを間に挟んで来て、やたらと長かったので僕が簡単に説明しよう。
〜ルール説明〜
今回のルールは、三人一組でとある場所へと向かってもらう。つまりゴール地点だ。
その道中、チェックポイントが4つあり、それを三人で力を合わせてクリアして行くのだ。
だが、先にゴールした物が勝者と言うわけではない。
その訳が、先ほど皆が付けた”ポイントウォッチ”だ。
このポイントウォッチの残りポイントの合計で、最終的な勝者が決まる。
また、このポイントは三人1チームで30ポイントあり、そのチーム内の誰か一人でも0ポイントになれば三人とも脱落すると言う。
しかし、チーム内でのポイントの受け渡しは可能なので、チームを救うために自らのポイントを上手く受け渡す事がカギとなる。
ポイントの加点減点は、スタート直後から採点され、その者の行い、チェックポイントのクリア、そしてゴール到達ボーナスなど様々な要素でリアルタイムに採点される事になる。
つまり、行いが悪いとどんどん減点されてしまうのだ。
禁止事項としては、”他チームへの妨害・暴力・ポイントウォッチの改造や破壊・犯罪とみなされる行為”がある。
それらを違反した場合、大幅なポイントの減点やその場で即失格と言うペナルティを課せられる。
と、これが生き返りゲームのルールだ。
そして今回の生き返りゲームの参加者は僕たちを合わせて計12名、4チームでの戦いだ。
僕たち三人の他は、地国住人だけのチーム、天国住人だけのチーム、そして天国2人地国1人のチームだ。
どこのチームが有利かは見当がつかないが、地国の住人がいない天国チームは悪行での減点は殆ど無いだろうと、予想がついた。
*3*
そしてエンマ部長のルール説明が終わり、チェックポイントとゴール地点の乗っている地図を配られた。
その地図は、日本列島の絵が大雑把に手描きで書かれていて、チェックポイントとゴール地点の場所が何となくわかる程度であった。
この地図によると、僕たちは今現世で言う所の東京都にいる様だ。
そして、4つのチェックポイントは東西に散らばり、ゴール地点は現世で言う所の北海道であった。
僕はその地図を見て、驚いた。
「あの、これって凄い距離じゃないですか…?」
ジュンも権左ェ門も地図を見つめるだけで、何も言わない。
そして実行委員長のエンマ部長がまた大きな声で話し始めた。
「諸君!今回の生き返りゲームは、数日を要した長距離レース形式とさせて貰う!交通手段や食事・寝泊まりは自由!それぞれのチームで話し合いながらゴールを目指してくれ!」
そしてエンマ部長は僕たち参加者全員をゆっくり見渡した。
「それでは、生き返りゲーム…スタートだぁ!はっはー!」
エンマ部長の号令の後、どこからか大きく”ドーン”空砲がなり、僕たちは一斉にこの”生き返りゲーム”の幕を上げた。