表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生き返りゲーム  作者: ナレソメ
6/17

六話〜集結〜

 *1*


 それはカミヤと地国に買い物をしに行った二日後の晩、またあのスポーツカーでカミヤがやって来たのだった。カミヤは、生き返りゲームの開催日時を教えてくれた。


 そして、今日がその日。とうとうやって来た、生き返りゲームの開催日なのだ。


 ”当日の朝迎えに行くから”と言われたので、僕は言われた通り家の前で待つ事にした。


 しばらくすると、甲高いエンジンの音を響かせ、あの真っ赤なスポーツカーがやって来た。


「おはようございます。今日はよろしくお願いします。」


「おはよう!お?キマってるねぇ、その格好!」


 僕はネルシャツにジーンズ、そして黒いスニーカーにリュックサックを背負っていた。でもなんだか、気に入っていた。


「あ、ありがとうございます。やっぱりちょっとバカにしてますよね?」


 そんなやりとりをして、僕はまた真っ赤なスポーツカーに乗り込む。案の定、頭をぶつけた。


 開催場所は地国のとある場所だと言うので、そこまでカミヤが連れて行ってくれた。


 そしてあのトンネルを通り、また地国のビル群を眺めてしばしのドライブだ。


「どうだ?もうこっちの風景にも慣れてきたろ?」


「まぁ、慣れたと言うかこっちの方が現世っぽくて落ち着きます。」


 確かに、天国は長閑で良いところだ。だが、無国人となった今はこちらの世界の方が落ち着くのだ。


「あ、でも君。今は無国人となった訳だけど、一応天国へ行けた善人だって事を忘れないようにな!今は君の精神が多少揺らいでるけど、君の本性は捨てちゃダメだぞ。」


 僕はその言葉に、本来の自分を少し取り戻せた気がした。


「そうでしたね、少し忘れてました。」


「このゲーム、参加者の性格や行いが大きく影響するんだ。だから、自分を忘れず頑張ってな!」


 今日のカミヤはいつもより少し優しく感じた。


 そして僕とカミヤは、開催場所である大きな施設に到着した。


「へぇ〜。地国(ここ)にもこんな場所があったんですね。驚いたなぁ。」


 そこは、未来的な曲線が美しい、非常に大きなスタジアムの様な場所だった。


「ここはな、地国の予算をふんだんに使って最近出来たばっかりなんだ。確か、2500億円くらいかかったかな?」


「そ、そんなにお金掛けて作ったんですか!」


「そうなんだよ。前は古い競技場だったんだけど、今回の生き返りゲームの為に新しく建設し直したんだ。」


「その名も”新地国立競技場”だ!」


 何とも莫大な費用を掛けて造った様だ。しかし、何だか何処かで聞いた様な話しだった。


「じゃ、俺はここまでだから!そうだ。これが控え室の番号な!それじゃあ頑張れよ!」


 カミヤは控え室の番号が書いてある紙を渡して、その場を去っていった。


 そして僕は、カミヤに渡された紙を持って、その新地国立競技場の中へと入っていった。



 *2*


 中はまだ新しい建物の匂いがした。きっと壁のタイルの接着剤や塗料の匂いだろう。床はピカピカに磨き上げてあり、照明が反射して上からも下からも眩しい。


 そして僕は紙に書かれた番号の部屋を見つけ、立ち止まった。カミヤに買ってもらった新しいスニーカーが、キュッキュッと音を立てた。


「A103…ここか。」


 僕はその部屋の番号のドアを開けた。


 まだ誰もおらず、そこは数人が入れるくらいの、それ程広くない部屋だった。


 長テーブルが一つ、パイプ椅子が三脚あり、テーブルの上にはポットと紙コップ、そしてお茶菓子とインスタントコーヒーが置いてあった。


 そのお茶菓子の近くに、ある紙切れを見つけた。そこにはこう書いてあった。



 ”この度は、生き返りゲームにご参加頂き、誠にありがとうございます。今回のゲームは三人一組で戦ってもらいますので、メンバーが揃うまでこの場でお待ち下さい。なお、お茶菓子やコーヒーは無料でご提供させて頂きますので、みんなで仲良く召し上がれ!”



 何だか最後の方が変な口調の文章だったが、”三人一組で”と言うのは初耳だったので驚いた。


「三人一組か…一体どんな人と組むんだろうな…。」


 僕は少し不安だったので、そのコーヒーを淹れて飲んでいた。


 そしておよそ30分ほど一人で待っていたら、ドアが軽い音を立てて開いた。


「あら?遅刻?」


 僕の後に入ってきたのは、女性だった。


 髪は黒髪のロングで、顔が小さくとても美人で色っぽい。非常にスタイルが良く、少し筋肉質で、ハリウッド女優の様な体型だ。特に、真っ黒のアイシャドウと真っ赤なリップが更に色気を増していた。


 僕はコーヒーを置き、ガタッと立ち上がって挨拶をした。


「あ、あの、初めまして。今日はよろしくお願いします。」


 その女性は”はぁ”と軽くため息をつき、そのまま部屋に入って来てパイプ椅子にドカンと座って足を組んだ。


「アンタさ、天国の住人かい?その格好、イケてないわよ。」


 入って来るなりグサリと刺さる事を言う。僕は少し気に入っていた服をバカにされて、悲しい思いをした。


「は…はい。天国の住人でした。あの、あなたは…。」


 僕がそう言い掛けたとき、口を挟んできて自ら自己紹介をし出した。


「アタシは都築ジュン。地国の住人よ。見りゃわかんでしょ?」


 見た目で地国の住人だとは予想ついたが、普通の名前だったので少し驚いた。


「あ、あの。僕はイイロクって言います。」


 するとジュンは首を傾げた。


「イイロク?変な名前だね。あぁ、そっか。あっちの奴らは名前が無いんだったね。でも何で、そんな変な名前なんだい?」


 またグサリと刺さる事を…。イイロクという名前も、少し気に入っていたのに。


「えっと、僕の識別番号が1169番だったので、そこから付けてもらいました。」


 するとジュンは少し間を置き、一言だけ言った。


「単純ね。」


 僕は何だか不安だった。これからこんな人と一緒にチームを組んでゲームをするなんて…。まず、ジュンの格好がかなりの威圧感がある。


 ジュンは上下真っ黒のレザーの服を着ていた。体のラインにピッタリと合ったライダースジャケット、そして非常にスリムなレザーパンツ。足元はヒールの薄い実用性のあるブーツを履いている。


 だが、ジュンのイメージからはその服装や化粧がピッタリとマッチしていた。


 そして女帝の様なジュンは、僕に命令をした。


「ほら、アタシのコーヒーくらい淹れなさいよ。」


 僕は怖くなって、そそくさとコーヒーを淹れて差し上げた。震える手で、コーヒーの入ったカップをジュンに渡す。


「ど…どうぞ…。」


 ジュンはそのカップを手に取り、コーヒーを啜りながら喋った。


「よろしい。」


 しばらくこの狭い部屋でジュンと二人の気まずい時間が過ぎる。


 僕はチラチラとジュンの姿を見ては、目が合わない様にすぐに背けた。


 だが、ジュンに気づかれた。


「アンタさ、さっきから何チラチラ見てんのよ。ははーん、さては。アタシがあまりにも美人で色っぽいから、見とれちゃってるんだろ?お子ちゃまにはちょっと刺激的だったかしら?」


 確かに…ジュンは美しく色っぽい。僕の様なタイプの人間には全くと言って良いほど抗体がない。


 そしてジュンは、テーブルに手を置き前のめりになって僕の顔に自分の顔を近づけた。


「フフッ。かわいいわね。チューしてあげよっか?」


「ちょちょ…ちょっと…えっと…その…。」


 僕はかなりテンパっていた。生まれてこのかた、女性と付き合ったこともなく、ましてやチューだなんて…。


 するとジュンは笑いを吹き出してまたパイプ椅子に座った。


「バッカねー!アンタ。焦っちゃった?ビビっちゃった?信じちゃった?アタシがアンタみたいなガキを相手にする訳無いでしょ〜。」


 僕はホッとした。だが、少し残念な気分もした。そして、ジュンからは良い匂いがした。


「か、からかうのやめて下さいよ…。」


 ジュンはまたコーヒーを啜りながら軽く謝ってきた。


「フフッ、ごめんごめん。なんか弱々しい子をからかうの好きなのよ。」


 何て性悪女なんだ。僕はそう思ったが、あの良い匂いはしっかりと記憶に刻んだ。


「あの、ジュンさんはいくつなんですか?」


 僕がその質問をした途端、ジュンの表情が変わった。ただの性悪女から、魔女になった様な変貌ぶりであった。


「アンタさ、そうゆう事はレディに聞いちゃダメなの。わかる?」


 僕はまた、恐怖を感じた。


「あ、その、ご、ごめんなさい。」


「調子にのんじゃないわよ。」


 結局歳は聞けなかったが、恐らく三十代の半ばと言ったところだろう。そしてこの性格じゃ、結婚相手も見つから無いな。と思った。もちろん、僕自身にも言える事だが…。



 *3*


 僕とジュンは、最後の一人を待っていた。僕は相変わらずコーヒーを飲み、ジュンは腕を組みいまだに現れないもう一人のメンバーに苛立ちを覚えていた。


「ったく、あと一人はどうしたのよ?何でまだ来ないのよ?このアタシを待たせるとはいい度胸してるわね、全く。」


 実際ジュンも遅れてやって来たが、彼女にとってそんな事は関係ない。常に自分が中心なのである。


 僕はのんびりとコーヒーを飲める、この時間が好きだった。


 そして、やっとの事もう一人のメンバーが現れた。


 ゆっくりとドアが開き、そこからやって来たのは、更に驚きの容姿をした男だった。


「おっ?もう皆集まっておるのだな!ガハハハっ!遅れてすまぬっ!」


 僕とジュンは、その男を見て固まった。


 何故なら、その男の見た目がとんでもなくおかしかったからだ。


「……。」


「……。」


 その男は、頭は剃り上げた丁髷で、腰には日本刀を差し、羽織と袴を履いた身なりは、まさしく”お侍さま”その物だった。


「ガハハハっ!そなたらが拙者と組む者たちだな?申し遅れた。拙者、”椿 権左ェ(つばき ごんざえもん)”と申す。ヨロシクーっ!」


 一瞬、僕とジュンの時間が止まっていたが、ジュンの一言でまた時間が動き出した。


「…ヨロシクーっ!て、アンタ何のつもりだよ!?そのカッコ、その頭!」


 権左ェ門は”はてな?”と言う表情をしていた。


「拙者、何かおかしいでござろうか?これでも地味な着物を選んで参ったのだが。ガハハハっ!」


 ジュンはその権左ェ門の様子を見て、額に手を当て”あちゃー”と言うポーズをとった。


「あ、あの、権左ェ門さん。あなたは一体何者ですか?」


 僕は恐る恐る聞いてみた。まさかこの地でこんな身なりの人に出会うなんて思っても見なかったからだ。


「拙者か?拙者はだな、ここ地国の住人であるぞ!もうかれこれ五百年近くこの地に住まうものだ!ガハハハっ!」


 僕は驚いた。単なる侍のコスプレではなく、まさか本当の侍だと思っていなかったからだ。


「ご、五百年っ?って事は、本当のお侍さまですか?」


 権左ェ門は両手を袖に入れ腕を組み、うんうんと頷いた。


「マジかよ?じゃあアンタ、ずっと地国(ここ)で暮らしてたっつー事なの?」


 権左ェ門はまた、うんうんと頷いた。


「さよう、拙者はこの地ではそなたらのずっとずっとパイセンなのである!従って、無礼な口は慎むのだぞ!ガハハハっ!ヨロシクーっ!」


 所々、喋り方が変だ。その喋り方によって全く威厳という物が感じられなかった。


 そして権左ェ門は、何か閃いたと言う様な表情をして、懐をゴソゴソし始めた。


「そうだ!貴殿らに愉快な物をを見せてやろう。確かここら辺に…おっ!あったあった!」


 権左ェ門は懐からスマートフォンを取り出した。


 そして、何やら慣れた手つきでスマートフォンを操作し始めた。


「コレを見てくれ!なかなか良く出来ておるぞ!ガハハハっ!」


 それは、あの有名な動画投稿サイトだった。


 そこにはタイトルが書いてあり、権左ェ門の姿が映っていた。


 そのタイトルが『日本刀でいろんな物を切ってみたwww』である。


 そして動画の権左ェ門は、畳や竹、野菜や魚、そしてブロックの肉やパンなどといった、一貫性の無いいろんな物を日本刀でズバズバと切っていた。


「ガハハハっ!どうだ?愉快な動画であろう!この”ようつべ”たるサイトのお陰で、拙者の暮らしは安泰であるぞ!ガハハハっ!」


 そしてジュンは権左ェ門に問いかけた。


「アンタ、一体何の業務してんのよ?こんなお遊びみたいな事ばっかりしてんの?アタシなんか毎日毎日働き詰めなのよっ!」


 ジュンは楽しそうな権左ェ門にイライラしていた。


 だが権左ェ門はニコニコしながら話しをした。


「拙者、長らくこの地で業務をこなして来たのだが、つい百年ほど前に業務期間が終わり、今はこうして自由に動画投稿しておるのだ。そして業務期間中はだな、毎日朝から次の日の朝までずっと道路の整備をしておった。」


 ジュンは少しだけ静かになった。こんな変な奴でも、やっぱり地国の業務はこなして来たのだと思うと、あまりキツイ事を言えなかったからだ。


「まぁ、アンタも苦労して来たって訳ね。それなら、別にいいわよ。」


 そして権左ェ門はあろう事か、ジュンに思いもよらぬ言葉を発した。


「そなた、実に美しい。どうだ?拙者と夫婦(めおと)にならぬか?ガハハハっ!」


 ジュンは全く相手にしなかった。だが何故か、僕の方がドキッとした。これは恐らく、ヤキモチのようだった。


「と、とりあえず三人揃いましたね。あ、権左ェ門さん。僕はイイロクと言います。よろしくお願いします。」


 僕がそう言うと、ジュンも続けて言った。


「アタシはジュン。ヨロシクね。」


 そして権左ェ門は大きく笑った。


「ガハハハっ!イイロク殿とジュン殿だな!二人とも良い名だ!ヨロシクーっ!」



 こうして僕たち三人のチームが出来た。


 それぞれ個性的なメンバーだが、何だか少し楽しくなりそうだった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ