最高の一日を!
今日がもっと、いい日だったらよかったのに。
だったら、最高の一日を送ってみるのはどうですか?
目覚ましの音が聞こえる、僕はそれを止めながら日付を確かめる。
ああ、また『今日』がやってきていた。
「おはよう」
リビングに降りると、母さんはいつもの様に朝食の準備をしていた。
「おはよう、サユくん」
母さんは笑顔で手伝いを求めるので、僕は朝ごはんをテーブルへと運ぶ。
「いただきます」
二人揃って朝ごはんを食べる。父さんは単身赴任中のため、家にいない。
やはり、母さんの作るご飯は美味しい。そう伝えると、彼女は微笑む。これで、夕ごはんは豪華なものになるだろう。
朝食を終えて、自室に戻る。カバンの中に今日の授業の教科書を放り込んで家を出る。
「行ってきます」
課題はその前にやってある。きちんと入れたかは定かではないけれど、まあいいだろう。
学校に行くまでの時間に今日のシュミレーションを繰り返す。
何が起こるのか、僕には分かっているから。
でも、不確定要素というものはどこにでも存在する。今日の朝、母さんを褒めるというのもその一つだ。それによって何が変わるかなんて、わかりきってはいるのだが。
「おはよー、サユ」
「おはよう、雪乃」
声をかけてきた親友に挨拶を返す。こいつは僕の幼馴染でもある。
「なー、課題かしてくんねえか?」
明るいお調子者、僕とは真逆に近い性格だろう。でも、なぜかずっとそばに居てくれる。
僕を便利扱いしてる面もあるけれど。
「はい、ちゃんと返せよ」
なんだかんだで、僕も甘いみたいだ。
三時間目の体育の授業。競技はバスケットボール。基本的に僕はパス周りは得意だが、シュートすることはない。
だけど、今日は違ったらしい。
「サユ、いけっ。シュートだ!」
雪乃から回ってきたボールをゴールめがけて放り投げる。少し力み過ぎたような気がしたけれど、なんとかボールはネットをくぐってくれたようだった。
「ナイスシュート!」
いつもは言われる側の雪乃に言われると、なんだか気恥ずかしい気分になる。
「ありがと」
と、だけ返しておいた。
他には特に何があったというわけでも無かった。
しいて言うならば、雪乃が数学の授業中寝ていて、指名されたことだろうか。
残念ながら、僕と雪乃の席は遠いので助けることは出来なかったけれど。そのことで僕を責めるのは間違っていると思う。
なんだかんだで放課後。部活へ向かう雪乃とは別行動になる。特に予定もない僕は図書室へ向かうことにした。
静か、涼しいとお昼寝にはもってこいな場所ではあるが、そんなことしたら司書さんに追い出される(現に雪乃は二度ほど出禁を食らったことがある)ために、本好きや調べ物をしに来る人くらいしかいない。
「うわっ! ……大丈夫?」
図書室の前の曲がり角で誰かとぶつかってしまった。その人は大量の本を持っていたようで、バラバラと落ちてしまった。
僕は本を拾うのを手助けした。それにしても、本の量が多すぎるような……? 一回に借りられる本は三冊までのはずだけど。
「また、手伝ってくれてありがとう」
彼女は、この本の半分は自分の本なのだと言った。
「版が違うとまた違うんだよ」
なんて言っていたが、僕にはよく分からなかった。
そして、図書室で時間を潰して家へ帰る。思った通り、夕飯は豪華と言うか僕の好きなハンバーグだった。
「喜んで貰えて嬉しいわ」
母さんもなぜか嬉しそうだった。母さんはほんとに笑ってばかりの人だ。世界は幸せに満ち溢れていると思っている人なんだろう。
なんというか、羨ましい。
僕は夕飯を食べ終わると、風呂に入り自室へ戻った。
そして、パソコンを起動し、日記をつける。
「分岐は、朝の言動と、課題を見せたのと、体育のあれか? あと、放課後の一連の出来事」
日記と呼んでいるが実際はなんというのだろうか。
「おやすみ」
朝が来た、目覚ましを止めながら日付を確かめる。
ああ、また『今日』が来た。三百四十二回目の今日が。……どうしたら、明日が来るだろうか。
どうして、こんな人生を送っているのか。あまり確かな記憶はない。でも、確かなのは一つ。
「僕はどうして、七夕の日に『最高の人生を送れますように』なんて書いてしまったんだ!」
そう、確かにどこかでそう願ったせいでこうなったのは確かだ。
「いい加減明日を過ごしたいんだけどなー」
だいたいの分岐は行ったはず、どうしたら最高の『今日』を送ることができるのだろうか。
僕の試行錯誤は今日も続いていく。最高の人生を過ごすために。
読んでいただきありがとうございます。