その6 日常 at 副業~一般的感覚で言うところの非日常への誘い~
遅くなりまして申し訳ございません。
ちょっと社会人のアレコレで書く気力がおもいっきり減衰してました。
ともあれ、第二章はバトルを入れて行きたいです。
第二章、開幕です。
一言で言おう。ただただ、ひとえに暇である。
……いや、割と冗談ではなく暇だ。
非番と定休日が重なって、やることが無い。
コーヒー豆は充分にあるし、食器は汚れ一つなく輝いている。
洗濯物も干したし、記帳も済んだ。
掃除はいつもの習慣で終わらせてあるし、趣味の参考にと買い込んだ本や雑誌類は大体読破済み。つい先日に読み切ってしまった。
という訳で、やることが無くなった。
取り敢えず、いつものノリで喫茶店用の仕事着を着ていたので普段着に着替えよう。
そうしてクローゼットを開け、おもむろに手を伸ばして掴んだのは戦闘員服。……違う。コレじゃない。
結局、無難な組み合わせで落ち着くまで30分ほど掛かった。どれだけ仕事に染まっていたのかがよく判る。
日々の食事は賄い飯で済ませることが多いので、冷蔵庫の中身は大体保存の効く物か飲み物のみ。スーパーに行く事はほとんど無く、今回も行く予定はない。
だったら何処に行くのかというと、本屋だ。
唐突に推理小説が読みたくなった、なんていうありきたりな理由だ。
結局、賑やかすだけで終わった。感性にクる本が見つからなかった。
……かの「ロボット三原則」の人が推理小説を書いていたことには、多少なりとも驚いたが。
知り合い(なかまうち)の店で昼食を済ませ、雑貨やらCDやらを軽く見てから、3時頃に帰宅する。
思えば、なんと枯れた生活をしているのだろうか。
友人は軒並み怪人になって人間態になれないし、幹部陣は忙しいと聞いているし、同じ戦闘員は頭がアレだし。
……素直にアジトに潜っているべきだっかたもしれない。
物思いに耽りながら、無意識的にコーヒー豆を挽き始める。挽きは細かくし、カップにコーヒー豆と等量の砂糖を入れ、お湯を注ぐ。所謂バリコーヒーだ。
口に運ぶ段階にいたって、漸く淹れていたことに気付き、そしてなぜバリコーヒーだったのか悩む。
自分でやっていて意味が解らなくなることはよくある話だと思う。今の俺が正にそれ。
別にカフェプレスでも良かったのではないかとも思わないでもないが、アレと比べればどころか全コーヒーの中で格段に簡単だからこうしたのだろうか。
数分ほど悩んだが、やっぱり答えは出てこない。無意識とは斯くも偉大で不可思議なモノなのだと実感した。
と、そこに電話のベルの音が鳴り響く。修理して改造してしぶとく使い続けている黒電話である。
「実際に使えると話題になるだろう」と、先代マスターが意地と根性で成し遂げた遺物。それが鳴っているということは、おそらくそういう事。
「はい、喫茶アゼリアで……」
『おお、久しいなスオウ! 元気そうで何よりだ』
私の理想である渋いイケメンで、外見に反した明るい性格。
神出鬼没で、いつも何処にいるのか判らず、その癖に週一ペースで何処かから連絡を入れてくる自由人。
それが、喫茶アゼリアの先代マスター。名を、橘 正司と言う。電話から聞こえるのは、相変わらず低くも人懐っこさを感じさせる美声。ああ羨ましい妬ましい。
「……そちらも、お元気なようで。お久しぶりですね、先代。黒電話の方に掛けてきたってことは、何かしら収穫があったってことで良いんですか?」
『いや、ただ何となくだ』
「さて、ハサミは何処だったかな……っと」
『待て待て待て待て! お願いだからそれはやめてくれっ』
……先代マスターはちょっとばかり残念な性格をしていらしゃる。これは、長い付き合いの中で確信した事実。
真面目な時は真面目なのでまだマシというか、手の着けようがないというか……思わずため息が出てしまう。
「で、本当は何の要件で?次につまらない事言ったら問答無用で切りますよ。物理的に」
『いや、勢力図が大幅に変わったもんでな。コッチでは、少なくとも6チームが新規結成している』
「その代わりに3チームほど潰れましたよ、こっちでは」
『例の紅蓮戦隊の件だな?』
「ええ。救魔は狩り落としましたし、紅蓮の方は火消しも完了。あとリンの食べ残しがあったんですけど、いつの間にやら潰されてましたね」
話の内容から判る通り、先代マスターもイブゾーク関係者。
いつもは気ままに旅をしていると聞いているが、フラッと現れたり突然電話を掛けてきたりしては情報を提供していく。
無駄に多芸で経歴が謎すぎる、掴みどころのない男。
なお、リンの食べ残しはフレス様被害者の会が美味しくいただきました。犯人はシェンク様。
……アジトごと崩壊しなかったのは奇跡というべきか。
突然、何時になく真剣そうな声で「ああ、そうだ」と前置きして、先代が話を続けた。但し、シリアスは長く続かないと確信しているが。
『一応、新興チームで注意しておきたい所は一通り調べた。郵送したから、閣下によろしく』
「了解です。たまには帰ってきて顔見せてくださいね? 閣下もシェンク様も心配してますし、何よりそのドヤ顔を殴りたいです」
元々、真剣な話の似合う人ではない。なので、そうなったら即効で潰すのが、彼の仲間内でのセオリーである。
『どや顔してるつもりはないんだがなぁ……。 まあ、帰るのは勘弁な。色々と事情があって、その……』
急に口篭る先代。色々と、ですか。色々、ねぇ……
「……仕送り止めますよ?」
『それだけはっ!それだけは勘弁してくれぇっ!最後の命綱なんだよソレ!』
やけに切羽詰まったような調子でした。
普通に生活していたらそれなりに手元に残るはずなんですが。
まさかとは思いますが……
「またギャンブりましたか。最近のレースの情報から逆算して、五万ぐらいですか?」
『そんなに賭けてないぞ精々四万三千ぐらい……って、あ』
これ以上ない見事な墓穴。しかも多段式という高度な自爆だ。ご馳走様。
「じゃ、罰として仕送り五万減額ですね。」
『Nooooooooooooooooooo!!』
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とまあ、そんな感じのグダグダな休日を過ごしてから三日後。
閉店後、郵送されてきた資料に目を通すことにした。片手にはカフェプレスで淹れたコーヒーを携えながら。
『科学系3,魔術系2、異界系5。
内、魔術系は双方共に異界系と複合。
異界魔術系、仮称「神魔戦隊」 前衛2・後衛1の計3人
突出した性能は無いものの、不得意な分野も無い器用万能型。
拠点との位置関係から衝突の可能性は低いが、将来的に相対する可能性は高い。
基礎戦法は、神降しを起点とした自己強化。
流入する力が未だ微小であるためか、戦闘能力は低い。が、これから先の修練次第では大きく『化ける』可能性があり、注意が必要と思われる。
異界魔術系、仮称「獣魔戦隊」 前衛5人
攻撃特化型。
衝突の可能性が最も高い。
それぞれが司る獣の特性を用いる戦法を基本とし、スタンドプレーが横行。個人主義的な部分が目立つ。
性能は術式変生獣人を下回る。現状、3人で漸く1体と互角。しかし未知数な面も多く、要注意。
早期に撃破し、地盤の強化を提案する。
………………
…………
…… 』
畜生、あんななのにきっちり仕事してやがられるもんだから、強く言えない。
普段の態度と実力が吊り合わなさすぎる。
彼の実力云々に関してはこの辺りで止めにして、取り敢えず一通り流し読みする。
近々接触しそうなのが一つ。
脅威度は低いが無視できないチームが2つ。内一つは遠からず接触しかねない。
残り3チームは、今現在の情報から推測しても脅威には成り得ないと判断できそうだ。
俺個人としては、雑魚は早々に磨り潰して戦闘員の糧にしてしまいたいぐらいの慎重さで事に当たりたいのだが、幹部陣の判断が優先される。無駄な戦力消耗は控えたいと考えているのは、さすがの俺でも理解できる。そろそろ損耗が許容範囲を超えそうだ。
人型戦闘機械の導入も勘案してはいるものの、実際の採用はまだ先になりそうな気配。
それまでは意地と根性の人海戦術以外に無い。
取り敢えず資料をまとめ、軽くレポートを書く。
一応、コレは幹部からの命令だ。素人の目にはどう映るのかを意見として聞かせて欲しいと言う事らしく、参考意見として充分に価値があると言われた。
何となく釈然としないが、参考になっているのなら幸いである。
とりあえず、神魔は最優先で対処するべきであると判断する。
別紙に各戦隊ごとの詳細な情報が記載されていたため、ソレを読んだ上での判断だ。
現状では、彼らの戦闘能力は戦闘員以上怪人以下。但し、特定状況下においてその戦闘能力が跳ね上がった例が数多く存在し、その状態を維持できるようになられたら非常に厄介だ。
こちらとしても、強敵と正面から殺り合うのは避けたいものであるし、神域の力という物はこの上なく厄介なものであることをガウルン様から教えられている。……実体験込みで。
正直、アレは死ぬかと思った。伊邪那岐命の呪怨の手に捕まった時には本気で殺意を抱きました。なぜか勝手に離れて怯えるようにプルプルしてましたけど。
それでも、今なら色々と呪物とか霊薬でブーストすれば白択をギリ一時間現界させられる程度に鍛えられましたから、多大な希望的観測を含めれば私でも五分ぐらいは保たせられるんじゃないでしょうか。
獣魔は……幹部陣が出張ったら瞬殺じゃないでしょうか。格が違いますし。
実際、怪人態の幹部陣は幹部候補から見ても異次元と言っていいレベルだとロウルが言っていた。
ガウルン様含め、幹部陣の本気は未だ拝見したことがない。
ただ、少なくとも自分の推し量れるレベルに無い程に隔絶している事だけはかろうじて分かる。
なにせ、才能的には最底辺と評された自分が促成5倍コースで約3年、詰まる所15年に相当する修行を受けて、戦隊系ヒーロー相手にタイマン張って何とか逃げおおせるレベルにまで腕を上げたにもかかわらず、未だに気配の一つも掴めないのだ。
体術なら、チャリでドラッグレースに挑むとかそんなレベル。
呪文構文なんてもう、英語で考えながらドイツ語で論文書いてアラビア語で発表するような意味不明っぷり。
――本人は気付いていないが、この時点ですでに下手な怪人と同等の実力である。
それはともかく、後の事を考えるならば早急な対処が推奨される物だと思う。
こちとら、ぽっと出に潰されるようなヤワな組織じゃあ断じて無い。が、やはり堅実に行動するのが我らイブゾーク。
速やかに戦闘能力を奪い去り研究の糧にすれば、怪人達の強化につながる。シェンク様とフレス様のダブルMAD'sが嬉々として制圧してくれることだろう。
根っからの格闘ヲタたるシェンク様は、時々禁断症状に陥って時・場所・場合に構わず勝手に開戦する奇癖がある。
ぶっちゃけ、いつもの周期ならそろそろその時期だったりする。なので、取り敢えず突らせておけばコッチに被害が無い分かなり楽し……もとい有益だろう。
毎度毎度、目の前に◯田落ちされる身になってほしい。上空から文字通り真っ逆さまに落下してくる成人男性含む五人。首は折れないものなんだろうか。
ともかく、明日はアジトへ顔を出さなくては。どうしても営業日の出頭は行ける時間が朝に限られる。
早めに纏めて、出頭ついでに提出せねば。
……なお、軽く纏めるつもりがシッカリカッチリになって翌日寝坊したのは、完全に余談である。