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割とユルい戦闘員の日常 ~喫茶と幹部と時々悪行~  作者: 岩滝 将大
第一章 プロローグ~或いは組織の平常運転~
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その4 ゴ◯ゴじゃなくてシモ・ヘイヘと言われたい

『ドゥームコンドルが無断出撃した。』

 この報告を聞いた時、私は心の隅で「ああ、やっぱりか」と思った。

 しかし、驚いていないかと聞かれれば答えは「否」だ。

 彼の無茶をする性格は有名だったし、恐らく何らかの方法で拘束している筈だと思っていた。


 だからだろう。彼が無断出撃してしまったのは。

 彼は改造されてから日が浅い。今まで通りに・・・・・・拘束していつも通りに・・・・・・治療した。

 思えば当然だろう。なにせ、彼は既に人ではない。人相手の拘束では意味が無かったのだ。

 周りが慌ただしく動く中、彼の居たベッドの映像を見て、私はどうしたものかと考えを巡らせるのだった。


 ――――――――*―――*―――*――――――――


「……やはり、どうにかして到着を遅らせる必要があるな。」


 幾つかのパターンをシミュレートして、結局そこに落ち着いた。

 彼の足止めは恐らく不可能。なら、可能な限り遅らせ、その隙に準備をすれば良い。

 少し用法が違うが、所謂「殿しんがり」に近しいか。


「少し、その案を聞かせてくれませんか?」

「……声に出ていましたか。」


 気がつけば、何時の間にやらライノール様が右隣に立っておられました。その顔は真剣そのもの。

 どうも私は、独り言というものが苦手なようです。


「ああ。どうやって彼を止めるつもりだ?」


 あまりいい案では無いですし、素人考えで穴が多いだろうと前置きした上で了承してくださいました。


「彼を止めるのではありません。彼が接敵するタイミングを可能な限り遅らせ、大規模転送術を発動させる時間を稼ぐんです。」

「アイツ一人を召還するのに大規模転送術は要らねぇだろ。そこんトコどうなんだ?」


 才蔵が口を挟んでくる。この男は普段こそ関西人の如きノリでイロイロ台無しにするが、本来かなり聡明な人物だ。

 ただ、今回はどうも友人が絡んでいるせいかいつものキレがない。

 だから、ココは『目的』を明確にする必要があると思い、言葉を繋いだ。


「彼をどうこうするのではなく、この案のかなめヒーローの足止め・・・・・・・・です。

 そもそも、この作戦の勝利条件はなんですか?」

「それは当然、紅蓮戦隊基地の攻略で……」

「そして彼は、基地に向かっている。そして、ヒーロー達もそこに。

 このままでは接敵と同時に戦闘になるのは必死ですから、いっその事別働隊に仕立て上げればいいんです。」


 『働く気があるなら働かせてやれ。』私の祖父がよく口にしていた言葉だ。

 だから、その勤労意欲を有効活用してやろう。生殺しにするよりはずっといいだろう。

 怪我人のくせに無茶をするアイツはどうせ止められないのだし、横合いから仕事を奪い取り、あとで説教部屋に叩き込んでやればいい。心配させた罰だ。


「そうか……ただ、どの様に行う?」

「遠距離からの砲撃、もしくは幻術による回帰回廊の形成や領域封絶辺りでしょうか?」

「となると……俺が適任か?」

「そうだな。……で、兵装開発部門から『新しい兵装が完成したんでテストして』などと巫山戯た口調の報告があった。スオウ、ついでだからぶっつけ本番でやって来い。」


 ……何でココで綺麗に終わってくれなかった。心持ち、ライノール様が不機嫌だ。あの変態共の異常なハイテンションを見れば誰だってそうなるが、閣下が不機嫌になっているところは正直言って初めて見た。

 ……()く言う私も、開発部の新兵器という時点で嫌な予感、と言うよりも警鐘が頭の中でガンガンと鳴り響いている。


「……フレス様、無茶振り過ぎて涙が出てきそうです。」

「……だめ?」


 ……くぅっ、そんな上目遣いで頼まれても困りますって!

 チワワのような潤んだ瞳で見つめられても困るというか年を考えてって殺気ぃ!!


「……ワカリマシタ、有リ難ク拝命サセテ頂キマス」

「上目遣いの半泣きを維持したまま殺気を放つなんて……フレス、なんて恐ろしい子ッ!!」


 目で「アトデオボエテナサイ」と主張しながらマニュアルを渡された。怖いです。

 そんな恐怖の中、取り敢えずマニュアルを読んでみる。

 嫌な予感しかしないので、要約してみると……


『新型スナイパーライフル ドラグノフカスタムmark5 RX+

 新型炸薬が従来のものの15倍ほどになりましたので、使用できるように徹底的に強度を上げました。(当社比20倍)

 結果として、重量の余り立射できなくなりましたので、銃床部にアンカーパイルを装着。反動を抑えるための射出型アンカーも装着されています。

 通常弾も発射可能ですが、新作の新型炸薬仕様のドリル弾頭でテストをお願いします。』


 テメエラ馬鹿か、いやヴァカか。

 ンなもんブッパなしたら肉片が飛び散ってモノごっつスプラッタな事になるだろうが。

 適当に足元目掛けて撃てば問題は……


『ちゃんとスーツの防御力を抜けるのかシッカリ検証して頂きたく思います。』


 神は死んだようです。


 ――――――――*―――*―――*――――――――

 才蔵……いや、作戦中なのでロウルと呼ぶべきでしょう。彼と共に、小規模の長距離転移術を繰り返して目的の地点へ到着した。


「簡易幻術結界の上から回帰回廊と封絶結界の二重構築で行こうと思う。」

「完成見込みは?」

「邪魔が入らなかったら3分。布陣術を仕込んだ苦無を正五角形に打ち込んで、印を結べば完了。誤差10m以内なら発動するから、それまで持ち堪えろ。」

「了解。ご武運を祈ります。」

「こっちのセリフだバカ。」


 これだけ軽口を叩けるのなら充分だろう。直様ライフルを組み立てる。

 風向・風速による誤差や自身の呼吸や心音でさえも、狙撃においては致命的な誤差を生む。

 スーツの補助を考慮しても、最後にモノを言うのは自身の腕前である。

 銃身に並行になるようにロックされていたアンカーパイルを展開。魔導術式により形成された、固形化された空間に打ち込む。

 射出型アンカーも同様に、前方に対して展開する。

 術式により固形化された空間のほうが、圧倒的に安定性が高い。


 目標の進路予測と、風向・風速により生じる誤差を細かく修正する。「貴重な人材を失いたくないから」と、細々と伝授された「生き残るための魔法」を僅かに改良し、狙撃戦特化の索敵魔法として完成させたソレは、予想を遥かに上回る精度を見せた。

 一度大きく息を吐き、胸の中に精一杯の空気を満たす。そして、軽く息を吐きだして止める。

 パワーアシストを逆転させ、スーツ全体を使って体を固定する。

 スコープから見えるのは正義の味方(てき)だけ。遠くから聞こえる車のエンジン音も、吹き荒ぶ風の音すらも既に聞こえない。

 装填された弾丸は、鈍化術式を展開する移動阻害弾。次弾からドリル弾が装填される。

 トリガーを引く。

 着弾。

 術式の展開を確認。次弾装填。

 もう一度深呼吸。体を固定。トリガー。


「うわ、脚が吹っ飛んだ。」


 銃口と着弾点を結ぶ直線を回転軸として、尋常ではない回転と速度で撃ち込まれた弾丸が姿勢を崩させる。

 慣性の法則に則り、軽い側――この場合、脚である――が大きく動き、結果として支えホネが無くなった部位が弾丸に巻き込まれるように千切れ飛ぶ。

 そんな光景に俺は――


「スプラッタもいいところだぞこれ。」


 ――特に心動かされたわけでもなく、淡々と狙撃を続けるのだった。



 ――――――――*―――*―――*――――――――


 最初こそ遠慮がちに狙撃していたのだが、数分後には浅慮する必要が無いことに気がついた。

 何故なら、吹っ飛んだ脚を合わせたら不思議な光と共に、元通りに繋がっていたからだ。

 さすが、魔術系は何でもアリだ。ヘッドショット以外なら大丈夫なんじゃないか?などと思い、ドリル弾を全部使いきってしまった。

 ドラカス5RX+も、反動にさえ目を瞑ればいい銃だと思う。


「あとは、コッチの連絡も聞いてくれれば尚良かったんだがなぁ……!」

「いやあ、ちょっとばかり夢中になってしまいまして。」


 実際、トリガーハッピーにでもなってしまったのかというぐらいに気分が高揚してしましました。


「ソレより一つ気になる事があるんですが。」

「……なんだ?」

「あの人ら、狙撃する前と明らかに体積変わってません?」


 ええ、最初は成人としては高めの身長だったんですが、なんか小学生ぐらいの身長になってる上に女性がK◯NISHIKI状態になっています。


「バカスカ撃ち過ぎたからゴチャ混ぜになったんだろう。」

『バカやってないで結界を解け馬鹿共。既に遅延作戦は完了した。』


 ガウルン様からの通信が入った。心なしか呆れの色が入っているような気がするが多分気のせいではないだろう。


「了解です。ロウル、転送。」

「上官に命令すんな。」


 ………

 ……

 …


 結局、どちらの作戦も成功に終わった。新興の戦隊達も捕獲できたので、ちょっとだけフレス様がヤバげなテンションになっている。

 魔術はどれだけ極めても果てが見えないが故に、往々にして研究者肌になりやすい。

 ですが………


「だからといって三人纏めてキメラにするのはいかがなものかと。」


 どうやら、女性の体に取り込まれた肉体は分離できなくなってしまっているようだ。


「まあ、可哀想なのよね。ほら、悪阻(つわり)ってあるじゃない?」

「妊娠した女性特有のものでしたっけ。気分が悪くなったりするっていう……」

「それ。いま、この子は正にその状態。

 早い話が、拒絶反応なの。子宮に『子供という別人』が入っているからそうなるんだけど、全身隈無く同僚の肉体が混入しているわけじゃない?」

「……ああ、なるほど。エターナルツワリブリザードなわけですか。」

「ええ、精神的に死ねるわね。妊娠経験者だから言うけど、アレが永遠に続くなんて考えると怖気がするわ。」


 というわけで、彼らの末路は三頭型の怪人になりそうです。

 女性は「コレ(悪阻)が治るならなんだっていい」と捨て鉢でしたが、男性陣は物理的に小さくなってしまったのが原因か、背中が煤けてました。


「やっぱりキングギ◯ラにしようかしら?まあそれ以前の問題として、異性での魔術的完全融合って両性具有になるか無性化するか判らないギャンブルなんだけど。」

「いや、ココは三人だから三頭型なんて安直な方向じゃなく、脳容積3倍の方向で考えてもいいんじゃないかと。ほら、阿修羅的なカンジで。」

「体積は何処にやるの?」

「密度を高める方向に持って行きましょう。あと、男性陣のアレはドリル弾の余波でモゲて(・・・)ますから、女体化する可能性のほうが高いのでは?」

「あー、なら先に再生させてからにしましょう。阿修羅はやっぱり男じゃないと。」


 ……などとまあ、こんな風にして制圧後のお祭りムードの中、マッドどもが暗躍するのがウチの風物詩。


 取り敢えず酒に合う料理を用意しに行かなければなりません。

 幹部の方々は飲み明かしそうですし、明日も臨時休業ですかね?

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