その2 日常 at 秘密基地
夜の営業を臨時休業にし、明日の襲撃作戦の準備をすることになった。ああ、食器はバイトのオペ子さん達に頼んである。
とりあえず自室に戻り、戦闘員の制服に着替える。最初こそ恥ずかしかったが、今となってはもう麻痺した。
もっと恥ずかしい格好した怪人も居たし、ソレと比べればこの全身タイツぐらいどうということはない。
見た目こそ全身タイツだが、その実ハイテクの塊である。簡素ながらもパワーアシストが内蔵されており、防弾性能に長ける上、かなり快適なのだ。
複数着を自費購入し、寝間着として着用する剛の者も居るとか居ないとか。
ただ、口元が開いていないので固形物が食えない事が残念だ。
戦闘員の制服は全員共通で雑魚っぽい装飾が付いているのだが、私の物だけ他とは違う所がある。
通常、戦闘員用の階級章は「組織のシンボル+剣と銃のバツ印」だが、私のものには更に「Ex」の文字が刻まれている。
「特務戦闘員」。それが私の階級だ。
――――――――*―――*―――*――――――――
……などと格好付けて名乗っているが、
「ああ、すまんスオウ。コレをシェンのトコに持ってって。」
この通り、ぶっちゃけ体の良い雑用係というのが実情。
先に述べたように、洗脳を受けた(キリク様曰く「洗脳ではなく思考の塗りつぶし。洗脳は思考の染め上げ」だそうだが。)戦闘員達は、9割超の確率で脳筋または馬鹿、もしくは阿呆かうつけ者に成り果てる。取り敢えず手を出す(暴力的な意味で)程度に思考能力が低下するそうだ。
とはいえ、これはあくまで促成栽培であった時。シンパから派遣されたものや、オペレーター用にじっくり染め上げた者はこの限りではないが、体力に問題があるのだ。
で、何の因果か。
促成栽培組の癖して頭の使える、ある意味で成功体となった私にお鉢が回ってくる。戦闘員の体力とマトモな思考能力を併せ持つが故の人選であるのだろうが、そんな都合のいい人間が一人しか居ない都合上、こき使われる運命にある。
………あれ、涙が出てきた。
「スオウ、総務までコレ頼める?」
到着早々、シェンク様から頼みごと。まあいいですよ、もう馴れました。この10分の間に執務室のフロアを軽く20往復はしましたし。
パワーアシストなかったら大の字で倒れてるハズ。理不尽だ。
などと言いつつも、コレこと全員分の辞令書を総務課に。そのついでで今度は幹部宛の手紙や書類を受け取ってトンボ返り。休憩時間実に10秒。
ハードケースにまとめて突っ込み、吹き抜けを上から下に3フロアほどダイブ。他の戦闘員を踏み付けたけど気にしない。
スーツ着てたから、この程度は怪我にもならないだろうし、していても替えが効く。
正直、事務仕事ぐらいは一緒の部屋ですればいいのになどと口にしてみたのだが、満場一致で
「「「「「カッコ悪いから却下。」」」」」
……だそうである。
――――――――*―――*―――*――――――――
そんなこんなで一時間。執務フロアを80往復、そこから総務課まで5往復ほどして、漸く出陣と相成りました。
突入部隊は、シェンク様を筆頭に、双子の山猫怪人の片割れであるクーと、鷹怪人のバルドの二人。更に閣下専属の戦闘員から麾下精鋭5小隊に、後詰めが更に9小隊。
……小隊の構成比がおかしい気がする.
「まあ、そう思うのも無理は無いな。」
「っと、口に出ていましたか。」
何を考えているのか大体予想出来るわ、と答えつつ微笑むキリク様とライノール様が隣におられました。
「単純に向こうの廊下が狭いからよ。大人数で攻めるよりも、消耗した端から入れ替えて前進制圧って事。」
「展開できる面積が狭ければ、大群は寧ろ非効率的です。白兵戦を想定するなら尚更に。」
陽動部隊は、怪人一人に戦闘員4小隊を1セットとして計4セット。双子の山猫怪人のもう片方であるリンの他に、鴉とパキケファロとカブトムシ(メス)の怪人の四人が陽動部隊を率いることになっている。
「……にしても、なんで男性をメスカブト怪人にしたんですか?」
「それは、まあ……何と言うか、ですね……。」
「だって、やったのフレスよ?」
「……ですよねー。」
嫌な確信ではあるが、八割以上の確率で『面白そうだったから』だろう。
まあ、その鬱憤が戦闘力に結びついているのだから何も言えないのだが。
ちなみに、なぜこのお二方が此処に居られるのかというと、実のところは寧ろ逆といったほうが言い。
一足跳びに幹部候補と同等の教育を受けることとなり、今回の侵攻にあたり、戦略面での講義を受けるためだ。
「戦術は戦略を構成する一単位。戦略は政略を構成する一単位。どちらも似ているようで違うモノだ。
……と、コーヒーを頼む。」
……ぶっちゃけ、9:1ぐらいの割合でコーヒー係としての役割の方が重要なんでしょうが。
最近、作戦中に呼び出される回数が増えてきたのは決して気のせいじゃないはず。そろそろ道具一式揃えて持ち込もうかな?
なお、私は作り置きをしない主義である。本音を言えばサイフォン式で淹れたてを出したい所ではあるが、作戦中はスペースを取りたくない。
司令室内では基本的に挽きたてをハリオ式で淹れている。ご両人はアッサリしている方が好みだそうです。
適温にした湯をゆっくりと注ぎ、すぐに来られるであろう方々の分も一緒に淹れる。
不意に出入り口のドアが開いたので目を向けると、フレス様が恍惚とした表情で入って来ました。はっきり言って怖い。
「ウフフフフフ……確か紅蓮戦隊のスーツって熱力学を無視した代物だったはずよね……!
ああ……ッ!早く耐久実験して視姦して分解したいッ!」
フレス様、入ってきていきなり発言がアレ過ぎます。
ちなみに少数派であるカフェプレス派なお方。
「あ、そうそう。一人戦闘員が怪我してたから改造しといたわ。メスのヒラタクワガタ。男だったけど。」
いと哀れである。災難だったな。
あの時踏み抜いた人のような気がするけど気にしないでおこう。なけなしの良心が痛む。
まあ、蚊に刺される程度だが。
「たしかアレはヘラクレスオオカブトのメスでしたよね?男だけど。」
何というイヤガラセなのだろう。男の子の憧れだというのに。
「いや、それ以前にアンタの改造グセは治したほうがいいわよ?そろそろ機械兵の導入を考えてるの。コレ以上減らされるなんて嫌よ?」
と、丁度三杯分淹れ終わったので介入しましょうか。
「戦闘員は唯でさえ消耗が激しいんですから、減らされると前線指揮が大変なんです。プログラム通りにしか動かない機械兵だけじゃ怪人への負担が大きすぎます。」
……何ですかその『お前が言うな』って目は。
「だって、脳筋共が命令効くとは思えないし。」
「そもそも、殆どの方は細かい命令なんて出しませんし。」
「というか上手いこと制御している時点でおかしい。私でさえ海軍式罵倒法と訓練で脳内麻薬だだ漏れ状態にして初めて統率取れたのよ?」
「失敬な。私はただ『何処から攻めろ』とかそんな感じの命令しか出していませんよ?
というかフレス様、フルメタルジャケット見過ぎです。効果があっても精神衛生に悪すぎます。」
実際、『何処から攻めろ』とか『退け』みたいに簡単な命令しか聞いてくれやがりません。
「それに、アドレナリンがダバダバ出てきたらもう命令聞いてくれませんし。あとは総攻撃で無双ゲーの雑魚状態で全滅。どうにかできませんか?」
「無理。いっそのこと開き直ってモヒカンつけて『ヒャッハー』とか言わせれば良いと思うわ。」
「……まあ、テンションだけ見れば通じるところはあるわね……。今度縫いつけておこうかしら?」
「やめてください。ノリノリで火炎放射器持ち出して叫んでる予感しかしません。」
ふと口に出したことを後悔した。その場の全員が、フレス様を見ながら呆れと困惑を足したような微妙な表情で見ていた。
「今度モヒカン怪人作ろうかしら?」
そして全員が口を揃えて高言った。
『お願いだからやめてくれ。』




