君のために出来ること(そのやり方には疑問あり)2
前回の話とセットになってますが、一応独立した話です。
「貴方のハートにお注射しちゃうぞ♪ マジカルナース、マイラ♪」
「どんな病気も私のハートで癒してあげる♪ リリカルナース、初音♪」
「「愛の救急ナース、貴方のハートに救急搬送♪」」
バタンッ!!
ガチャッ!!
どうやら熱を出し過ぎて幻覚を見たようだ。
四十度の高熱のせいで頭痛が激しくなってきた。今の幻覚は忘れて今日はぐっすり眠ろう。そうすれば、全てなかったことになって誰も傷付かない明日を迎えられる。
ダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンッ!!
ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポーンッ!!
物凄い勢いのノック音と呼び鈴が聞こえるが、あれは幻聴だ。幻覚や幻聴は本物と変わらないように見えたり聞こえたりするから、俺は何も見なかったし聞いていない。この間マイラに移された風邪のせいで幻覚幻聴がするだけだ。
まさか六畳一間のボロアパートの前に奇妙奇天烈なコスプレイヤーが現れるはずがない。しかも、恋人と幼馴染そっくりの顔をしていたが、おそらく気のせいだ。
俺はふらつく足取りで煎餅布団に戻って横になる。
「あれっ? チャイムが鳴らなくなったんだけど?」
「えっ? マイラ先輩、壊したんですか? 強く連打し過ぎですよ」
聞き捨てのならない台詞が耳に入ってしまったので、俺は仕方なく起き上がった。
全くの余談であるが、この呼び鈴はやっぱり壊れてしまったらしく、来年の四月頃まで鳴らない状態のまま完全放置することになった。閑話休題。
「おい、これ以上人の家を破壊してくれるなよ、マイラ……」
「これ以上って何だよ! 前科あるみたいな言い方して!」
独り言のつもりだったが、どうやら地獄耳のマイラには聞こえたらしい。扉の向こうから抗議の声が聞こえてきた。
……というか、あれはやっぱりマイラと初音か。
幻覚幻聴ってことで、なかったことにしたかったんだけどな……。
「……お前、ちょっと前に料理中に何かが爆発させてガス周りを壊しただろう?」
マイラの過去の所業を思い出しながら玄関の戸を開けた。
すると、そこには珍妙なナースっぽい格好をした恋人と幼馴染がいた。病院にいるような純白のナースではなく、二次元の方にいるような奇天烈ナースだ。スカートの丈がやたら短かったり、背中に羽っぽいパーツが付いてたり、色だって純白というよりピンク寄りだったり。
んん~、個人的には純白ナースの方が好きだったけど、これはこれでアリだな。マイラも初音も可愛いし、凄く似合っているし。
「あ~、そんなこともあったわね……」
「で、二人は見舞いに来てくれたのか?」
俺は風邪、こいつ等はナース服。そこから導き出せる結論は、見舞いくらいしかないだろう。年齢制限の掛かりそうな展開を一瞬だけ妄想したが、さすがにそれはないだろう。
「もちろん! 今日は休戦して一緒に慎の看護をしようと……」
「悪いが、いらん。お前等二人が揃った時点でオチが見えてる」
バタンッ!!
ガチャッ!!
マイラと初音、この二人がセットで現れれば、どうせ俺が酷い目遭うに決まっている。もう方程式みたいな感じで確実にそうなるから。
四十度も熱が出ている状態であいつ等の被害に遭ったら、マジで死ぬ。
ひとまずマイラと初音のナース服(まぁ、想像していたのと若干違うが)を見られたから、ひとまず良しとしよう。
斬ッ!!
「って、おい!? 今、ちょっと聞き捨てならない音が!? うぎゃああああ!? 玄関が真っ二つに!?」
リリカルナース様が抜身の刀を手にして、真っ二つになった扉を蹴破っていた。なんて凶悪な救急ナースだ。昨今のナースは暴れる患者やムカつく医者を黙らせるために帯刀を許可されているのだろうか。
っていうか、どうするんだ、この扉。こんな見事に斬られたら、もう素人で修理できるレベルを超えている。
「最近はコスプレさえしていれば帯刀していても職務質問されないですよ、先輩♪」
「だったら今110番に連絡してやる! 職質飛ばして一発逮捕だ!」
「まぁまぁ、斬っちゃった物は仕方ないじゃない?」
「仕方ないとかそういうレベル超えてるだろう! 大体お前等が揃うとろくなことが……って、ぅあァ……」
息継ぎなく叫びまくっていたら、急に頭が真っ白になった。フラフラと倒れかけたところを愛の救急ナース達が抱き止めてくれた。
女二人に支えられるなんて、だせぇな、俺……。
何とか自分で立ち上がろうとするが、高熱で体力を奪われているせいか足に全く力が入らなかった。
「ごめん、慎。ちょっとふざけ過ぎた」
「ごめんなさい、先輩。今、布団の所まで運びますね」
マイラと初音に運ばれて、布団に戻された。
騒ぎ過ぎたツケで頭がガンガン痛んで、呼吸しているだけで気分が悪かった。かなり吐き気がするが、さすがに女達の前でゲロなんて絶対に吐けない。そこまで無様を晒したら恥じで死ねる。
「慎、どれくらい熱が出てるの?」
「あ~、さっき計ったら四十度だった」
「……それって風邪のレベル超えてますよね。病院行きましたか?」
「ざけんな、風邪なんて自力で治す。診察費がもったいねぇ」
仕送りとバイトだけで生活している貧乏学生は大変なのだ。マイラとのデート費用も捻出しないといけないし。この間、マイラの見舞いで着ていったコスプレ衣装だって高かったし。
「変なところでケチらないでください! 今、ウチに連絡して医者呼びますから、大人しく診察されてください」
「いいよ、大袈裟だな」
「四十度も熱出ているくせに先輩の反応が適当過ぎるんです!」
マイラは三十九度の熱を出したが、一日休んだら完全回復したぞ。代わりに俺がダウンしたけど。だから、俺も一日寝てれば大丈夫だろう。
大袈裟に心配する初音は、ブルジョワな実家に連絡してリアルなお医者様を呼んでくれた。出来れば、鬼畜眼鏡でないことを祈る。
「今連絡しました。お医者様は一時間後くらいに来るそうです」
「そう。それじゃあ私達は……」
「んっ? お粥でも作ってくれるのか?」
正直、マイラの腕は期待していないが、初音というサポートもいるので割と安心………………喧嘩しないかな? っていうか、それだとオチが見えるから嫌なんだけど。今日くらいは喧嘩するなよ。休戦すると言っていたが、こいつ等はすぐに喧嘩するので信用できない。とにかく仲良くしてくれることを祈るばかりだ。
「慎のマル秘コレクションもといエロ本を処分するわよ!」
「了解です! 欠片も残さず焼却しましょう!」
「ぎゃああああああああああああああああああああああああッ!!!」
いらんところで一致団結するなよ、こいつ等!!
「初音、慎を押さえ付けといて」
「了解です!」
「待て、止めてくれ! 違うんだ! それは俺のじゃない! それ全部仁のだから! 仁のだから捨てちゃ駄目なんだって! 止めて、捨てないでぇぇぇッ!! 嫌アアアッ!!」
「……押さえるより、締め落としといたほうがよくないですか?」
「それもそうね。殺っちゃって♪」
「殺っちゃって♪って! お前、彼氏に何ィ……うごぉぉ……!?」
四十度の高熱出した重病人の首を絞めるとか、こいつ等は本当に正気なのか。いや、それより俺のマル秘コレクションが……。俺の身体なんてどうでもいいから、俺の秘蔵の…………。
ぐぉぉぉ……、俺はこんなところで倒れる訳には……。みんな(エロ本及びエロ本を愛する同志)力を貸してくれ……。
ふぐおぉぉぉぉ……。
………………。
…………。
……。
しくしく……。
こいつ等、悪魔だよ……。
エロ本を全て焼却するだけでは飽き足らず、インターネット上で奮闘(主にウィルスとかフィッシング詐欺とか)しながら集めたエロ画像を全部消去しやがった。
全て燃え尽きてしまった……。
何もかも失った俺は明日から何を希望に生きていけばいいんだ? 誰か教えてくれ、この空虚な心をどう満たせばいいんだ?
「慎って本当に巨乳好きだね」
「あと、やっぱりナース物が多かったですね」
「止めて……。もうこれ以上俺を苛めないでくれ……」
布団にくるまって悪魔達の嘲笑と侮蔑から逃れるようと試みる。だが、薄っぺらい布切れ一枚で残酷な悪意を防げるはずもなく、俺の心はズタボロに切り裂かれていく。
俺は何て無力なのだろうか。
自分の身すら守れないのに、大切な仲間達を守れるはずがない。
すまない、許してくれ……。俺が無力だったばかりに、お前達(エロ本&エロ画像)が地獄の業火に焼かれる羽目になってしまった。恨みたければ恨んでもいい。だが、俺は必ず取り戻す。失った全て(エロ本&エロ画像)を。
「先輩、馬鹿なこと考えてないで、お粥食べませんか?」
「馬鹿なこととか言うな! っていうか、いつの間にお粥を作った?」
布団から顔を出しながら問う。
「先輩が泡吹いてる間に、です」
あぁ、なるほど……。
人が気絶している間に色々してくれて、誠にありがとうございますね、この野郎……。
「それで、お粥は誰が作ったんだ?」
「もちろん、この私、初音ちゃんの力作ですよ。私がいる限り、マイラ先輩を台所に立たせませんよ」
ひとまず食える物が出てきそうで少しだけホッとした。
しかし、まだ完全に油断はしない。初音は料理の腕はいいが、たまにテンションに任せて変な物を作ることもある。バレンタインとか酷い目に遭った。まぁ、あれは普通に食えば美味かったんだけどな。
「そういえば、マイラ。俺が風邪ひいたら美味いお粥作って汚名返上するって言ってなかったか?」
「あ~……、うん、そう言ってたね」
「お前の性格上、絶対にお粥作ると思ってたんだけど?」
マイラは筋金入りの負けず嫌いだから、汚名返上をすると言ったら絶対にする。結果はともかく。
「実は初音にお粥の作り方を教えてもらって一回作ったんだけど……」
「作ったんだけど?」
「試食した初音のお父さんが泡吹いて倒れて……」
一体、どんなお粥を作ったんだよ?
泡を吹くって結構ヤバいぞ。さっき実際に体験したからよくわかる。
っていうか、あの親父も結構可哀想な奴だな。……まぁ、別にいいけどな。
「さすがに、そんな物を食べさせられないから、今回は初音に協力してもらうことにしたの」
今回、マイラが仲の悪い初音と一緒に見舞いに来たのは、そういう理由だったのか。俺のためにわざわざお粥作る練習してくれたという話はかなり嬉しかった。
「という訳で、私のお粥を食べてください。はい、あ~ん♪」
「んあ? んぐっ……。おぉ、美味いな」
初音が絶妙に位置にレンゲを出したので、思わず何の抵抗もなく「はい、あ~ん♪」なんて恥ずかしい真似をしてしまった。
だが、このお粥は実に美味い。塩加減も絶妙だし、ふわっとした卵の味も最高だ。風邪で弱った身体でも食が進む味だ。やはり、初音の料理は美味いな。
「コラァァァッ! 何してんのよ、初音! はい、あ~ん♪ってやっていいのは私だけでしょ!」
「そんなことありません。幼馴染である私にも権利はあります。というか、これを作ったのも私ですし。そういえば、マイラ先輩って何しに来たんですか? 邪魔なので帰っていいですよ?」
「はァァ~つぅ~ねェェ……!!」
「お、おい、喧嘩するなよ、マイラ! 初音も煽るな!」
「私もやりたい! はい、あ~ん♪って私もやりたい!」
……あれっ?
予想していたのと違う展開だ。
どうせマイラと初音が喧嘩して俺が酷い目に遭うと思っていたのに。何なの、この嬉し恥ずかしな展開は?
「駄目です! お粥作ったの私ですし!」
「じゃあ、私もお粥作る!」
「慎先輩にまた泡を吹かせたいんですか!」
最初に泡を吹かした奴が言うなよ……。っていうか、やっぱりいつもの展開か……。
「くっ……! だったら、そのお粥寄こせ!」
「ちょ、止めてください! 危ないです!」
マイラと初音がお粥を取り合って喧嘩を始めそうな勢いだだった。
このオチは見えている。取っ組み合いの結果、器がひっくり返って俺が熱々のお粥を浴びる羽目になるのだろう。
そんな目に遭いたくないので、俺は気取られないようにそっと二人から距離を取った。狭い部屋だから完全な安全圏まで逃れられないが、何もしないよりマシだろう。部屋の隅に行き、ついでに防御用の布団も持っている。
俺は芸人でも何でもないのでウケを狙うつもりはない。熱々お粥を浴びて美味しいと思う感性はない。だから、案の定始まったマイラと初音の取っ組み合いを戦々恐々としながら眺めていた。特に注意すべきは、あのお粥の器だ。こちらに飛んできたら布団でガードをする。
「寄こせぇ!」
「嫌ですぅ!」
お粥の器がアチコチ行ったり来たりして非常に危なっかしい。いつこちらに飛んで気もおかしくない。お決まりのオチにさせて堪るか。
「「あっ!?」」
ほら、やっぱり来やがった!!
まるで狙い澄ましたかのように俺の方に飛んでくる。
だが、こうして布団にくるまってしまえば、多少の熱さくらい耐えられる。少なくても被害最小限に抑えられる。
ゴンッ!!
「~~~~ッ!!?」
お粥の器が……、お粥の器が俺の頭にクリティカル……。
しかも、布団にくるまってもお粥の熱が来るし。
や、ヤバい……。意識が……。
「うわっ、声にならない悲鳴をあげて悶絶してる」
「……あっ、動かなくなりましたね。……先輩が復活して怒り出しても面倒ですし、証拠隠滅して帰りましょうか?」
「……そうね。今日のことはなかったことにしましょう」
「じゃあ、レッツ証拠隠滅です♪」
気を失う寸前、腹立たしいやり取りが聞こえたが、後で目を覚ました俺はすっかり記憶を失っていて、この二人が見舞いに来ていた事実さえ忘れていた。
だから、後日になってマル秘コレクションが消失していたことや、呼び鈴が鳴らなくなっていたことや、玄関の扉が新品に代わっていることが不思議でならなかった。
あと、何故かナースに対して妙な拒絶反応が生まれていた。
終




