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ドキドキ☆激烈バレンタインパニック(後編)


問おう。

チョコレートを作るのに、それは本当に必要なのか?

その原材料不明な加工食品やら、菓子製品には不要そうな鮮度の良さそうな肉類や魚類は、チョコレート作りに必要な素材なのか? あと、何でもミキサーに掛ければいいってモノじゃないぞ、マイラ。


誰か教えてほしい。

あれを食べることになる俺の運命はどうなるのか?

マイラ、お前の勝利への飽くなき挑戦には敬意を払いたいのだが、その勝利の代価は彼氏である俺の命だぞ? というか、そもそもその食材でチョコレート作り勝負に勝とうと思えるのが間違いだと思う。


逃げ出したい。

だけど、俺は今簀巻き状態で吊るされている。逃げられないし、抵抗することも出来ない。というより、幼馴染を吊るし上げにするな、初音。

何故だろう。吊るし上げなんて初めてされるのに奇妙な既視感を覚える。


ちなみに、場所は初音の家だった。

何度か言っているが、初音は結構なお嬢様だ。屋敷もかなり豪勢で、キッチンなんかは鉄人同士が対決できそうな感じだった。食材も無駄にたくさんあって、それが悲劇の元になるのだが……。それと、人を吊るし上げられるくらいに天井が高い。


チョコレート作り対決は正直、すでに結果はわかりきっている……。そもそも料理苦手なマイラに勝てる勝負ではないのだ。初音のプロ級の腕に敵うはずがない。もう見た目からして初音の勝ちだ。

勝負の結果は火を見るより明らかなんだが、これって一応バレンタインチョコなので俺が食べないといけないんだよな……? これを全部食ったら、血糖値が上がり過ぎて死ぬと思う。


そもそも俺は甘い物自体が苦手なんだ。普通のチョコレートを大量に食べることがまず拷問だ。だというのに、こいつ等は馬鹿みたいに巨大なチョコレートを作ってやがる。しかも、マイラに至ってはチョコレートと呼んでいいのか疑問になるような物を作っている。


……あぁッ!? マイラ、今そのチョコレートの一部がビクンって動いたぞ!? お前、それをチョコレートと言い張って俺に食わす気か!? そんなモノを口に入れたら、味がどうこう以前に死ぬ!?


……というか、気付けばどっちを食っても死ぬじゃん!?

だ、誰でもいい……。誰か、助けてください……。



「慎、これが私の愛情たっぷりのチョコレートよ!!」

「先輩、これが私の完全無欠のチョコレートです!!」



ドドーンッと効果音でもつけたくなるような勢いで俺の前に出される二つのチョコレート様。いや、これはもう本当にチョコレートと言っていいものなのだろうか。


よし、とりあえず見た目で命名してみよう。


初音作、天使の塔。俺の家に持ってきたウェディングケーキのパワーアップバージョンだ。どの辺りがパワーアップしたかというと、デコレーションとかもそうだけど、何より高さと幅が倍以上になっている。これを食えというのか、俺一人で……?


とりあえず量に致命的な問題があるが、一応食えなくもなさそうな初音のチョコ。こいつは基本的に俺の好みを把握しているので、甘さ控えめだろう。……多分。……勝負に熱中して、そのことを忘れていなければ……。


まぁ、初音のチョコはひとまずいい。問題なのはもう一人の作品だ。


マイラ作、悪魔の塔。……もう名前と長い前振りで充分にわかっているだろう。これ以上俺に説明をさせないでくれ。なんというか、本当に地獄に建ってそうな感じがする。色が黒いだけに生々しい。



「ぐぬぬぬ……!! 小童め……!! 初音のチョコを……!! 儂ももらっていない初音のチョコを……!! 殺す、あの小童にはいつか目にもモノ見せてくれるわ!!」



扉の向こうから血の涙を流しながら歯軋りしているのは初音の父、芝崎壮二郎だった。ここ数年、娘からチョコを貰えず、枕を涙で濡らしているらしい(初音談)。出来ることなら顔を合わせたくない相手であるが、このチョコレートを食ってくれるなら大歓迎だ。というか、少しでも食ってほしい。


……っていうか、これだけ作るなら少しくらい父親にチョコを恵んでやれよ、初音。まぁ、いい気味だと思うが、その逆恨みが俺に向かうから困る。



「まぁ、見た目では完全に私の勝利ですね。というより、マイラ先輩程度の腕で私に勝負を挑もうなんて無謀なんですよ」


「う、うるさい! 勝負は最後までわからないわよ! 大体、私のチョコには愛情っていう最高の隠し味が入っているんだから、あんたの見た目だけのチョコには負けないわよ!」



出来れば見た目だけの判定で終わりにしたい。

俺はビクンと蠢くような物体を口に入れるのは嫌だ。たとえ、恋人の愛情入りだとしても。


「あ、愛情なら私だって負けてないですよ! 幼馴染として十年以上の積み重ねがありますからね!」


「くっ……! 愛情は時間じゃないわよ! つべこべ言わずに味で勝負よ! さぁ、慎、私のチョコを食べて!」



さっきビクンと蠢いた部分を切り取った謎の暗黒物質を突き付けられた。

何故か、磯の香りがした。っていうか、生臭い!? 絶対にチョコレートの匂いではないぞ。カカオはどこへ消えた? これを食ったら死ぬ、と生存本能が逃げろと警鐘を鳴らしていた。


「嫌だァァァッ!! 助けてくれッ!! 俺はまだ死にたくないッ!!」

「な……ッ!? 何よ、その失礼な反応はッ!?」


「あははは! 当然の反応ですよ! じゃあ、私のチョコを……」

「お前はまず逆さ吊りにしている俺を降ろせ!!」


「あっ、そういえば、忘れてました」



と言って、何故か包丁を手に取る初音さん。

背中にひやりとしたモノが流れる。どうにも初音が刃物を持つと怖い。その理由は彼女が居合の達人だから……という訳ではなく、見た目に反して結構バイオレンスな奴だから。

嫌な予感がすると思った次の瞬間、突如として俺を吊るし上げていたロープが断ち切られた。ほとんど視認できなかったが、初音の腕が一瞬消えたように見えたので、あの包丁でロープを切ったのだろう。


で、俺を吊るしていたロープが切れたということは、重力に従って俺の身体は当然地面に引き寄せられて、自然落下する訳で……。



「痛ぇぇぇッ!? ぐぉぉぉ……、頭がァァ……!!」



クッションも何もない固い床に頭から墜落する。

初音よ、こういう結果がわかりきっているくせに、こんな乱暴な解放の仕方はないだろう!? というより、そもそも幼馴染を逆さ吊りにする時点でどうかしているぞ!!



「さぁ、先輩、私のチョコを食べて美味しいと悶絶してマイラ先輩に敗北の屈辱を味わわせてください」


「悶絶ならすでにしとるわ! てめぇ、もうちょっと優しい降ろし方があるだろう!」


「今優先すべきはマイラ先輩を泣かすことです!」

「泣くのはあんたでしょ、初音!」


いいや、多分俺だと思う。

この天国と地獄のチョコバベルを二つも食わないといけないんだからな。マジで俺の明日はあるのか?

……こいつ等が喧嘩しているうちにこっそり抜け出そうか。このままここにいると確実に殺される。チョコ地獄で。よし、じゃあ……、バレないようにこっそりと……。


「ほら、勝手にどこか行こうとしないで、さっさと食べてください!」

「しまった、見つかっ……むごぉッ!?」


「慎、私のチョコも!」

「ぐほぉぉッ!!?」


「あっ! マイラ先輩、今は私のターンで……」

「早い者勝ちよ! はい、もう一口!」

「んぐぉぉぉッ!!!??」


「ま、負けません! 先輩、私のチョコもガンガン食べてください!」

「ふぐぐぐ……!?」


「ちょっと初音のばかり食べないでよ! 恋人のチョコをもっと食べろ!」

「んんん~!!? ぐむぅぅぅッ!!?」


「先輩、やっぱり幼馴染チョコが最強ですよね?」

「………んんっ……。ぐぅ!?」


「私の方が美味しいわよね!?」

「いいえ! 私の方が美味しいです!!」



「……………………」



「……あれっ? 慎の顔ってば、こんなに青かったっけ?」

「……っていうか、さっきから咀嚼さえしてませんね?」



「……………………………………」



「……もしかして、結構ヤバい状況ですか?」

「し、慎ッ!? しっかしてぇぇぇッ!!」



死んだ祖父ちゃんと小一時間ほど談笑してきました。

でも、祖父ちゃんのいる川辺に行こうとすると全力で止めてくれました。

俺、とっても優しい祖父ちゃんが大好きだったなぁ……。











知ってたか、酸素って美味しいんだぜ?

ワンニャン戦争に巻き込まれて死に掛けたが、無事生還。

何やら聞いた話によると心肺停止になったとか、消化器系が焼き爛れていたとか、そんな恐ろしい事態になっていたらしい。というか、心肺停止になり掛けたのは大量のチョコが喉に詰まって窒息したことが原因だろうが、消化器系が焼き爛れていたってのは……。恐るべし、チョコバベル……。


あぁ……、生きているって素晴らしい……。

バレンタイン、何それ? 爆発しちまえよ……。


何故に恋人と幼馴染からチョコレートもらったのに、バレンタインを呪わなければいけないのだろうか。畜生、結構楽しみにしてたのに、夢も希望もない現実を突き付けられた。


「し、慎、ごめんね……」


あの騒動で若干生死の境をフラフラ行き来したが、今は俺の家でマイラと二人きりだった。一応まだバレンタイン当日だ。もう大分夜更けだが……。


「もういいって。あんなのでもチョコはチョコだしな。ありがとよ、マイラ……」


「うぅ……。あんなのって言ったぁ……」

「うわっ!? 悪ぃ! 言い方悪かったな!」


「……まぁ、別にいいよ。実際、あんなの、だったし……」


いかん、俺の失言でマイラをいじけさせてしまった。

色々と酷い目に遭ったのは事実だが、それでもマイラは愛情を込めてチョコを作ってくれた。その気持ちだけは純粋に嬉しかったのに……。


「マイラ、気にするなって。俺は嬉しかったぞ」

「嫌だ、助けてくれ、死にたくない、って言ってたじゃん……」

「うっ……」


……返す言葉がない。

だって、あの時は本当の命の危機を感じたのだから……。というか、実際に命の危機になったし……。


「ごめんね、慎……」

「あ、謝るなって。嬉しかったって気持ちは本当なんだから」


「でも……」


普段のマイラは割と明るくてサバサバしている奴なんだが、一度ネガティブスイッチが入ってしまうとなかなか浮上してこない。


俺は鬱状態のマイラの横に座り、そっと肩を抱き寄せた。落ち込んでいるこいつを慰める時は下手な言葉より、ボディランゲージの方が有効だ。……それに、普段だとあまり触らせてくれないし。今がチャンス。



「過程はどうあれ結果として無事だったんだから、もう気にするなよ」


「……でも、慎が動かなくなった時、凄く怖かった。本当に、凄く怖かったんだよ……。私、慎がいなくなったら、きっと耐えられない……。慎が死んだら、きっと私も慎を追って死ぬと思う……。慎がいない人生なんて考えられない……。だから、私より先に死なないでね、慎……」


「……あぁ、約束する。何があってもお前より先に死なないから安心しろ」



俺はマイラの耳元に囁きながら、優しく頬にキスをした。そして、そのまま額をこすり付けるように猫のように俺達は寄り添いあった。


強気なくせに泣き虫なマイラ。

彼女を泣かせたくないから、俺は変わることが出来た。大神マイラという少女に出会わなければ、俺は今もつまらないチンピラのままで、もしかしたら何か大きな過ちを犯していたかもしれない。俺が更正できたのも全部彼女のおかげだ。


だから、俺は全力でマイラの願いを叶えるんだ。



「マイラ……」

「慎……」



チョコレートより甘く濃厚なキスを重ねる……。

溶け合うように何度も、何度も……。


マイラ……、ずっと一緒にいたい大切な女……。

俺はもっとマイラのことを知りたい……。

マイラの全てを俺のモノにしたい……。



「えっ……? し、慎……!?」



俺はキスの勢いのままマイラを押し倒していた。

このまま、もっとマイラと一つになりたい。



「マイラ、愛してる……。俺はお前の全部を……」

「だ、駄目ェェェェェェッ!!」


「ノオオォォォッ!?」



ニーキック……、直撃……。

どこに直撃したかとか聞くな……。

今、俺は男として死んだ……。いろんな意味で、な……。

マイラさん、今の雰囲気ならいいじゃないですか……?

っていうか、ガード堅過ぎじゃないですか……?



「あっ……、ご、ごめん……」

「ふぐぉぉぉ……」



今、俺は何かを喋る余裕なんてありません……。

肉体的にも、精神的にも……。



「……え、えっと、その……、ごめん!!」

「ま、待て、マイラ……」



顔を真っ赤にしたマイラは、俺のなけなしの制止を振り切って、そのまま荷物を持って去っていった。

残された俺は一人寂しく布団の上で一時間以上悶絶し続ける羽目になった。

チョコ地獄で死に掛けるし……、マイラには肝心なところで逃げられるし……、もう散々だ……。大嫌いだ、バレンタインなんて……。もう彼女がいても希望なんてない……。


バレンタインなんて爆発しちまえ、畜生……。







ドキドキ☆激烈バレンタインパニックは以上で終了です。

今回の話は、思い付きの短編ネタでした。本編中でもバレンタインがあったんですが、こっちはドタバタコメディでした。本編の方は伏線的な意味があったんですが、こっちは純度100%ネタです。

マイラと初音、本編ではかなり険悪でしたが、本来はこんな軽いノリで喧嘩ばかりしていました。喧嘩友達みたいなノリで、嫌いだけど嫌いじゃない、みたいな? 短編集ではこういうギャグ話メインで行きたいです。


では、また別の短編でお会いしましょう。

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