〈file2〉
「うわぁ〜、懐かしい〜!学校の机ってこんなだっけ?」
「教室で子どもみたいにはしゃぐな!暦も何か―――」
「手入れが行き届いているな」
「聞いてねぇし!……つか、依頼人はまだなのかよ?」
「もうすぐできるはずだよ。お母さんとお父さんも連れてくるって言ってたし」
窓の外には新都の超高層ビル群がホログラムの広告を虚空に踊らせているが、この教室に残された木製の机だけは、数世紀前と変わらない冷たさを宿していた。
俺は、この雰囲気が好きだ。
今のSF的な世界に染まらず、個が存在している。
机に触れると、ひんやりとした冷気が指先を伝って俺の脳を刺激する。
三人で教室の隅々を見ていると、扉が激しく開かれた。
はぁ、はぁ、と荒い息が聞こえる。
「お、お待たせしました……!」
「あ、あなたが依頼人の葉月芽郁ちゃんだね?」
「はい!こっちは……」
「芽郁の母、葉月知暁と父の律です」
「わざわざご足労いただきすみません」
芽郁ちゃんのご両親が頭を下げるが、彼女自身は何処か、浮かない顔をしていた。
しかし、その顔にはほんの少しだけ、余裕が混じっていた様な気がした。
「いえ、とんでもないです。俺はコンステレーション所属、シリウスの探偵・宵街星凛です」
「同じくシリウスの探偵・頬月未宙!よろしく〜」
「どうも、シリウスの探偵・暦ゆらです」
未宙はわざとらしく天を仰いだが、その目は鋭く依頼人一家を観察している。
暦さんはただ、埃一つない教壇の隅を指でなぞり、この空間の『異質さ』を測っているようだった。
「……」
「……?どうかした?」
「ぶっきらぼうな変人に、すかした気取り屋に序列八十八位の探偵……。大丈夫かなぁ……」
「コラ、芽郁……!そんな事言っちゃいけません!事務所を盥回しにされて、やっと受け入れてもらったんだから」
「だ、だからでしょ!本当に最下位のこの人たちに頼んで良かったのかなぁ……?」
俺、未宙、暦さんを交互に見てから、そう芽郁ちゃんは呟いた。
依頼人に頼りないと思われることなんて慣れてはいるが、それが純粋な子供相手だと慣れていても傷付く。知暁さんが乾いた声を荒げて、芽郁ちゃんを叱る。
その目は、芽郁ちゃんを見ていないようだった。
その姿にも違和感を抱いたが、問題は、その後のセリフだった。
「あはは……。確かに俺達は最下位だけど、俺達なら、芽郁ちゃんの望む解決をしてあげられる……と思うよ!」
「私の望む解決?」
「うん。君、俺達に依頼したって事は、もしかしてもう犯人の目星は付いているんじゃない?」
俺の言葉が鼓膜を叩いた瞬間、芽郁ちゃんの肩が小さく跳ねた。
握りしめられた小さな拳が白く震え、彼女の視線が、主のいない隣の机へと吸い寄せられる。
その一瞬の沈黙が、饒舌な証言よりも雄弁に真実を語っていた―――……。




