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死子深域  作者: 餅ゴメ
3/7

第3話 分担

「作戦はこう」

「まずはこの近くの深域に入る。ある程度奥まで行ったら、そこからは彼の出番だ」


 杉原さんは結城の方を見る。


「彼の探知の能力で怪しいのがいないか探す。見つけたらそのまま尾行だね」

「まーでも、そんなすぐ網にかかることはないと思う。数日はかかるんじゃない?」

「そうだね。でもその緋縁という男のことも調べなきゃだし。ちょうどいいんじゃないかい?気長にいこう」

「んだね」

「俺はどうしたらいいんですか?」


 索敵・調査が大事なのはご尤もなのだが、このままでは俺のやることがない。それでも良いけど流石に任せっきりは悪い気がする。


「君はとりあえずは休んでてくれ。見たところ大怪我はしてなさそうだけど、無傷じゃないんだろう?」


 あの大爆発を回避こそすれど無傷とはいかなかったのは確かだけども。


「どうせ時間かかるんだし。いいじゃん万全になるまで待ってなよ」

「う⋯わかりました。じゃあお言葉に甘えて」

「おう!こっちは任せとけよ」


 よく見たら結城もサムズアップしてる。――たいへん心強い。普段は単独で動き回ることも多いから、こういうチームプレーは新鮮に感じる。なら俺はしっかり休ませてもらうことにしよう。


「やばくなったら連絡してください。怪我してると言っても全然戦えはしますから」

「そうだね。普通に君が一番強いからそこは頼らせてもらうよ」

「消耗してる今でも、7わたしらが束になっても一方的にボコられるだろうしねー」


 索敵は7かれら、戦闘は俺がやるという方針で意見が一致したところで作戦会議は終了した。ひとまず今は休息だ。――あと仕事着のスーツも傷ついたから替えないといけない。



――3日後


「進捗のほどは」

「甲龍会との遭遇はないけど⋯でも怪しいのは見つけたよ!」


 巻未さんが元気よくそう答える。少しずつではあるが、進んでいるらしい。


「さっきも1つ深域に入ってきたが、強めの魔獣が多かった。しかもどれも倒したって深域が消滅しねぇ。核でもねぇのにあの強さは妙だ」

「強力な魔獣の出現、これはやはり異常だ。こういう魔獣と遭遇したときは毎回周囲を調査してたんだけど、今回ついに手がかりを見つけてね。近くにとある液体の痕跡があった。」

「専門のチームに解析して貰った結果、これは『猛薬』と呼ばれる薬物をベースに改造したものらしい」


――『猛薬』。以前何かの任務で闇組織を潰したときにも聞いたことはある。裏社会でたまに流通している、増強剤の一種だ。普通は人間が服用して一時的な身体能力、魔力出力の向上を得るというものなんだが⋯⋯


「詳しいことは省くけど、改造によって魔獣にも効くようになったものを深域内に設置、気化させることで魔獣に作用させたらしい」


 なるほど、それが魔獣強化のカラクリか。


「それで、甲龍会がその設置の役を担ってるってわけですか」

「恐らくね。それに加え、もともと甲龍会には猛薬を裏社会で流通させるの自体に一枚噛んでるという噂がある。ともあれほぼ黒だね」

「なら後はもう証拠を抑えるだけですね」


 甲龍会本部の調査、これ自体は適当な理由をつけても可能だが、確たる証拠を得ていない状態で突撃したところで、向こうに隠蔽されるだろう。今やるべきは確証を得て逃げられなくすることだ。



「んだねー。ま、それがなかなかできてないんだけど」

「今日からは俺も参加するんで、頑張っていきましょう」

「もう治ったの?流石1課、回復速度も最強なんだね⋯」

「皆さんのおかげですよ」


 この3日間、調査は7課に完全に任せ俺は療養に専念させてもらった。お陰で無事傷は癒え、体力、魔力共に満タンまで戻すことができた。ただ、やはり人手は多いに越したことはない。俺も参加して、さっさと解決できれば最高だ。


「んじゃ、今日も行こうか」

 


「さて、知ってることを吐いてもらおうか」


 あの後俺達は手分けをして深域内を探索した。7むこうから『結城の索敵に数人ヒットした』という連絡があったため、勝手に俺の方にはいないかと思っていたが――どうやらこちらも大当たりらしい。


「ハッ。そう簡単に言うとでも⋯」


 タン、と乾いた音が深域内の冷たく重い空気を切り裂く。一通り攻撃を受け、重力で地面に張り付けにされている状態でまだ抵抗する元気があるのは大したものだが、さっさと終わらせた方が楽だと理解する頭は足りていないらしい。

 音が鳴るとほぼ同時。男の右腕、その表面を覆う白いシャツに赤黒い血が滲み出す。


「うぁ⋯⋯ッ」


 消耗した体に走る激痛。男は顔を歪ませる。本当はのたうち回りたいのだろうが、男の体にのしかかる「重み」がそれを許さない。


「急所は外してるから死にはしない。でも銃弾は貫通してないから、早く処置を受けるべきだ」

「言わなくても、大方予想は付いてるんだ。さっさと言ったほうが楽だぞ。⋯⋯お前らもだ」


 男の周りに同じく拘束された甲龍会構成員たち。その内の一人の横に立つ。


「もう1回聞くぞ。この薬をここに置いたのはお前らだな。目的は何だ?」


 沈黙。まだ口を割ってくれない。仕方ない――


「ひっ⋯待っ⋯」


 今度は鈍い音が鳴り、男の腕があらぬ方向に曲がる。


「そんなに時間は割けないし次行くぞ。全部折り終わってもまだ諦めないなら⋯そうだな一人くらいは死んでもらうか」


「んじゃあ早速左腕を⋯」

「待ってくれ!!」


 男が声を張り上げる。


「⋯⋯悪かった!分かったよ、話す!話すからもうやめてくれ!!!」

「俺達はボスに言われてここに猛薬を置いたんだ。魔獣を強化する実験だって。成功したら他の組の奴らなんて目じゃないから!」

「そうか。猛薬はどこで仕入れて来たんだ?これは一般的なものより改造が施されてる代物だ」

「それは⋯」

「緋縁、という名前に聞き覚えはあるか」

「ッ」


 言葉に詰まった男だが、俺が緋縁の名を口にした途端少し反応した。一応言ってみただけだがどうやらビンゴらしい。


「あるようだな。奴と甲龍会おまえらにはどんな関係がある」

「⋯俺達は、甲龍会は最近他の組から一歩遅れた立場に立たされていた。なんとかしなきゃって組が躍起になってたところに⋯あいつら、『降墓こうぼ』の奴が協力を提案してきた」

「提案?」

「この猛薬の実験をやれば、成功した暁には改造猛薬を俺等に流すと。これがあれば他の組を消せるだろうって」

「なるほどな。その降墓とやらについて何か知っていることは?」

「最近裏社会に現れた集団なんだ。詳しくは知らない。今回接触して来たのもその緋縁だけだった」

「そんな怪しい奴らとよく協力したな」

「最初は俺達も疑ったさ!だが⋯」

「追い返そうとしたウチの者が一瞬のうちに殺された。そのうえで猛薬を使った『実験結果』を見せられた。――従うしかなかったよ」


 霧に包まれていた部分徐々に晴れて来る。なんとなく、粗筋は理解した。今回の事件の裏で暗躍していたのはやはり緋縁で、より正確には『降墓』という組織だ。だが降墓はその実態をほとんど表していないと言ってもいい。霧が晴れた先にはより濃い霧が広がっていた。改造した猛薬、それによって齎される魔獣は確かに脅威だと言える。さらに降墓の他のメンバーも緋縁レベルの強者だとするなら、安定した対処が可能なのは1おれたちくらいだろう。


「分かった。情報提供感謝する」

「あ⋯ああ。俺達は⋯命だけはどうか⋯」

「⋯⋯」


 ズン、と空気が震え、彼らから動きを奪っていた重力が一瞬だけ強くなる。彼らは動かず、言葉を発することもなくなる。殺してはいない。別に死んでもらう必要はないし。地面に縛られていた男たちの体が、今度は大地から解放される。空中に浮かび上がった男たちの体は、この深域を消滅させるべく移動する俺の後を追っていった。



「――と、言うわけです」


 深域は消滅させ、7課に連絡を入れたあとオフィスで彼らと合流、現在はそれぞれの得た情報を共有していた。


「なるほどね。こっちも上々だよ」

「まず甲龍会が改造猛薬を扱っているのは事実。そして、もうすぐ彼らと他の組の間である取引が行われるらしい」

「その取引内容は効果を弱めた猛薬を他の組に流通させる代わりに甲龍会の指示する要件を遂行すること。そしてゆくゆくは逆らえなくなった組織を傘下にする。彼らは猛薬という武器を使って勢力を拡大させるつもりなんだ」

「壊滅よりも吸収を選んだってことですか。確かにそっちのほうが賢い選択だ」

「うん。で、そんな事されたら見逃せない脅威になる。だから――」

「甲龍会が勢いをつける前に、事前に僕らで潰す」

「ここまで関与してる証拠が出てるから、もう十分な理由ができたからね。魔導対策局の目標――『国家の秩序を脅かす存在への対処』に基づいて、彼らを排除する」

「決行はいつですか?こっちも接触しちゃった以上、なるはやが良いと思うんですけど」

「うん。明日やるよ。正面から本部を襲撃、制圧する。だから明日までに武器とか整えといてね」

「了解です」



 そして決行当日。


「基本は君をメインに据えて、7課で取りこぼした奴らを拾う。なんせ一番強いのは君だからね」


 納得そりゃそう。一番強いやつが雑に荒らして、他で細部を詰めていくのは大変合理的ないい作戦と言えるだろう。しかし、この先に続いた杉原さんの言葉に俺は衝撃を受けることになる。


「この方針だと⋯どうしても君の負担が大きくなる。だから何かあったら遠慮なく言ってくれ。僕らは君より弱いけど、支援なら得意だから」


 意外⋯⋯ではないな。この人たちの性格の良さを考えたら、或いはこういったことを言う可能性はあっただろう。でも実際にその言葉を受け取れば、そんな『論理的』などすぐに崩れる。こんなことを言われるのは⋯初めてかもしれないな。


「そーだよ朝霧君。今の私達はチームだからね!」

「⋯ええ。存分に協力していきましょう」


 全員の準備が整い、オフィスを後にしようとしたその時、俺達が各自持つ端末に一件の通知が届く。


『市街地近くに深域発生。内部に強力な魔獣の反応あり。至急対処に向かってください』

「⋯まじか」 

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