垂直な時間軸Sheet4:ビンゴ
「理由を教えていただけますか?」皆の話を黙って聞いていた中村が口を開いた。
エルが答える。「第一の理由は、先ほど薔薇筆さんがおっしゃったように、XLOOKUP関数が比較的新しい関数だからです。クレンジングをクライアント側で行うそうですが、使用するエクセルのバージョンは大丈夫でしょうか?」
「なるほど。分担作業になると、古いバージョンのエクセルを使っている社員もいるかもしれませんね。さすが『エクセルの魔女』です」
「いいえ、エクセルのスキルというより、単なる推測に過ぎません」
エルをよく知らない中村には、やや素っ気ない口調に聞こえるかもしれないとアキラは思った。
「第一の理由とおっしゃいましたが、他にも理由があるんですか?」薔薇筆も興味を隠せずに尋ねた。
「うーん、こっちはあまり影響しないと思うけど...VLOOKUP関数のほうが若干処理速度が速いんです」
「古い関数のほうが速いんですか?」育美が不思議そうに尋ねた。
スマートフォンで調べた薔薇筆が言う。「本当ですね。ネットにも書いてあります」
「今回のデータ規模では多少の差は出るかもしれないけど、スケジュールに影響するほどじゃないかな...」エルはどこか残念そうに呟いた。
中村は真摯に礼を述べた。「エルさん、貴重なアドバイスありがとうございます。上司に提出する前にVLOOKUPに変更しておきます」
その後は、エルの新曲AI披露、育美おすすめの今後バズりそうな漫画の話、アキラと中村のバイク談義、薔薇筆の数学蘊蓄など、尽きることのない話題で夜が更けていった。結局、中村は薔薇筆のアパートに泊まることになった。
翌週、アキラのメールアドレスに中村からメッセージが届いた。
「おい、エル。例の関数、ビンゴだったぞ!」
メールによると、VLOOKUP関数に変更した箇所に上司から指摘があったとのこと。しかし中村は、クライアントのエクセルバージョンに言及し、改めて確認したところ、案の定三割ほどが旧バージョンだったという。
アキラはメールを読み上げながら言った。「『上司には手のひらを返して褒められましたが、バツが悪いのでエルさんに教えてもらったと白状しました』だって。変なところで律儀だな」
「これで少しは恩返し出来たかな」エルはそう言うと、魔道具からAIの新曲を奏でた。