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捜査編

 刑事は部下を呼び出し、3人の証言者の奇妙な発言について話していた。

刑事はひとつずつ、その謎を明かしていく。


「まず、オオカミが家の中で老婆を食い殺したというがな、これはどうにもおかしいんだ。狩人の証言によれば、彼が家の中に入ろうとしていた時には家の扉が閉まっていた。更にオオカミが窓を突き破って出ていった時も、窓の鍵は閉まっていたんだ。


 つまりオオカミが、ばあさんの家に独りでに侵入することなんて不可能なんだ。窓が閉まっていたのはもちろんのこと、扉だってオオカミが開ける方法を知ってるわけがないからな。まして仮に開けられたとしても、わざわざ野生の動物が扉なんて閉めるか?」


 そこで刑事は結論を出す。


「オオカミはあの家に、人間の誰かの手によって入れられたんだ。つまりこれは、獣害に見せかけた人間による殺人事件だ。扉や窓が閉められていたのも、確実にオオカミがばあさんを食い殺すよう仕向けるためにやったんだろう」


 続いて刑事は2番目の奇妙な点を洗い出す。


「そして狩人が言っていた『オオカミを追いかけまわして、追いついて射殺した』という証言だが、これは普通に考えれば物理的に不可能だ。人間がオオカミよりも速く走れるわけがない。仮に追いかけたとしても、途中で見失うのが関の山だ」


「なら、狩人は嘘の証言をしたのですか?」


 部下が刑事に問う。


「いや、おそらく狩人は嘘をついていない。本当に追いついてオオカミを殺せたのだろう。だがその場合、何故オオカミは狩人に追いつかれてしまったのかという疑問が残る。その理由はつまり、オオカミの体に異常があったということだ。例えば病気を患っていたとか、足にケガを負っていたとか、そういう理由で走るのが遅くなってたんだろう」


 そこで刑事は、狩人に頼んでオオカミの死骸を見せてもらう。するとオオカミの前足の右側には、予想した通りギザギザの傷の跡があった。


「やはりな。これはトラバサミの跡だ。トラバサミというのは、一度罠にかかったら、野生のオオカミが自力で脱出することはできない代物だ。つまりこのオオカミは罠にかかった後、人間の手によって捕獲され、解放された。ばあさんを殺すための道具として利用されたんだ」


 隣で話を聞いていた狩人は、そこで首を捻って口を出す。


「刑事さん、このオオカミはこの村じゃ見かけない種類の奴です。いったいどこから紛れこんだのでしょう?」


「なるほど、外来種というわけか」


 刑事はオオカミの体を隅々まで調べる。すると焼印を発見した。 

 

「ふむ......こいつは野生ではなく売り物だったのか」


 狩人に礼を言って納屋を出る。

そして刑事は3番目の奇妙な点について述べる。


「赤ずきんはばあさんと出会った時、『病気が伝染うつるから近づかないでおくれ!』と怒鳴られたそうだな。だがこの発言も、赤ずきんの母親の証言と照らし合わせると奇妙なんだ。母親はばあさんの病気のことを『医者に診察してもらっても原因がわからなかった』と述べていた。つまり人に伝染する病気かどうかは、ばあさんにもわかりっこないはずなんだよ。


 赤ずきんの証言によれば、部屋はカーテンが閉め切られて暗くなっており、ばあさんは頭巾も目深に被っていたそうだ。これは赤ずきんに自分の顔を見られたら、何か不都合なことがあったから『近寄るな!』と叫んだのではないかと考えられる」


 そこで刑事は老婆の家に戻り、血まみれのベッドを入念に調べた。すると金色のつややかな長い髪が枕の上に落ちていた。


「この髪は明らかにばあさんのものじゃないな。ばあさんは見ての通り白髪だ。そしてこの髪はまだ水気を失っていないところを鑑みるに、抜けてからそれほど時間が経っていないようだ。ばあさんは寝たきりでずっとベッドから動けないはずだから、枕の上に他の誰かの髪が偶然落ちたとは考えられない。おそらくばあさんとは別の誰かが、最近になってこのベッドの中に入ったのだろう」


「なら、赤ずきんが出会った老婆は偽物だったということですか!?」


「飽くまで可能性があるという話だがな。だが問題は、どうしてそいつが病気のばあさんにわざわざ成り代わりをしなければならなかったかということだ」


 老婆の死体を見つめながら、最後に刑事は4つ目の奇妙な点について語る。


「そして母親の『特に変わったことはなかった』という発言、あれもよくよく考えればおかしな話だ。3日前から母親は自分の家の中で、徹夜で四六時中編み物の仕事をしていたはずなのに、狩人の『村にボヤがあって大騒ぎになった』という事件については全く触れなかった。


 森の中での火事は村の存続に関わる一大事なのに、そんな事件のことをたった2日で忘れるなんてありえないだろ。大騒ぎになっていたと狩人が証言していたように、ボヤ事件が起これば、村中の人間に知れ渡っているはずだ」


「確かにおかしいですね。家の中にいたとはいえ、火事が起これば人の叫び声も聞こえてきたはずでしょうに。徹夜で疲れて、気づかぬ間に居眠りでもしてたのでしょうか?」


「いや、その可能性もあるが、俺はもう一つの可能性を考えている。つまりその時母親は、村にいなかったという可能性だ」


 刑事は部下を連れ立って、村人たちに再度聞き込みをする。するとやはりボヤがあった夜、赤ずきんの母親を呼びに行っても留守だったという。窓から家の中を覗くと、ベッドには娘の赤ずきんだけがぐっすり眠っていたらしい。


「一体母親はどこへ行っていたのでしょう? これから彼女に直接聞き込みに行きましょうか?」


「いや、その前に俺はこの村の近くにある町へ行ってみたい」


 そして刑事は馬車を走らせ、町に着いた。

その町の肉屋の主人に聞き込みをする。


「ええ、確かにそんな感じの女性が2日前の夜にウチを訪ねましたよ。いきなり『生け捕りにしたオオカミを売ってくれ』って頼まれましてね」


「そのオオカミには、このような焼印がありませんでしたか?」


 刑事は手帳を取りだして、模写した絵を見せる。


「ええ、その焼印はうちのものですよ。確か帳簿にも買い手の名前が記されていたはずです。何しろあのオオカミはここじゃ珍しい外国のオオカミでして、取引も高額なものでしたからね」


 刑事は帳簿を見せてもらう。

すると赤ずきんの母親の名前が載っていた。


「決まりだな」


 刑事は静かにいう。


「あのばあさんを殺した犯人は、ばあさんの娘だ」

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