第三話
どうもSomeHowと申します。
よかったら読んでやってください。
ダンジョン配信者アイナとルベルゼの邂逅より数刻、地上は大騒ぎであった。
ダンジョン"配信"と言うだけあって、二人の様子は文字通り"世界中"へと拡散された。
ダンジョン配信は日本のみならず世界中で大盛況のコンテンツだ。
配信はリアルタイムで各言語に翻訳され、国や大陸さえ跨ぐ。
しかもアイナは日本有数の配信者の1人なのだ、海外のファンも一定数抱えている。
古龍を一撃で屠ったうえ、自身はダンジョン内で生まれたと語る少女。
そんな有り得ない存在が世界中に知れ渡ってしまった。
既に各SNS、ネット掲示板では謎の少女「ルベルゼ=グラトニール」の正体についての考察が進んでいた。
『人間に限りなく類似した魔物ではないか』、『魔物と人間の混合種じゃないか』、『魔物の突然変異だ』etc...
具体的な考察からふざけ半分の眉唾まで様々な議論が交わされた。
しかし、当の本人はそんなことは露知らず地上を目指しての冒険道中。
同行するアイナもまた、規格外の一言に尽きるルベルゼに気を取られ地上との連絡も取らず。
ダンジョンを管理する協会や国のお偉い方はイレギュラーへの対応に追われて大混乱。
――場面は移り、ダンジョン中層部。
アイナとルベルゼは地上を目指し、魔物を狩りつつ上層へと歩を進めていた。
「それで、ルベルゼさんはここの最下層で目を覚ましたということなんですね」
「ああ、僕が居たあの場所にはそれより下へ降りる階段や転移板は存在しなかった。あそこが最深部と考えるべきだろう」
「あぁ、そういえば……ルベルゼさんはどうして地上を目指そうと思ったんですか?」
「ん?あぁ……腹が減ったのだ」
「……へ?」
「お前は本当に面白い顔をするな、百面相か?」
「いや、え……腹が減ったって…………え?」
「別に裏の意味などないぞ、ただ腹が減って空腹感に耐えられそうになかったからあの羽根付き蜥蜴を狩ったのだから」
「羽根付き蜥蜴って、古龍のことですか……?」
「こりゅう?なんだそれは」
聞き慣れない単語にルベルゼは小首を傾げて問う。
「古龍を知らないんですか?」
アイナの言葉に首肯で返す。
「えっと、古龍というのはですね……人間に対して他の魔物と比べて一層強い敵対心を持ち、尚且つ自然そのものに影響を与える強大な魔物、とダンジョン協会は基準を定めています」
「なんだその曖昧な基準は」
「仕方ないんですよ、古龍はそもそも発見報告が異常に少ない為に生態に謎が多すぎるんです」
「そういえば、先程僕が狩ったあの蜥蜴の事をお前は古龍と呼んでいたな」
「そうですよ!あの魔物も古龍なんですけど……」
「何か気になることでもあるのか」
「……古龍には謎が多いって言ったじゃないですか」
「言っておったな」
「それが何故かと言うとですね、古龍の発見報告は下層の最奥部より先でしか上がってないんです」
「ほう?」
「確かにあそこは下層でした。でも下層に入ってすぐの所に古龍が現れるなんて……世界で見ても初めての事かもしれない。それに……」
「それに?」
「ルベルゼさん、あなたの事もです」
「……話してみよ」
「ダンジョン内で生まれた、ダンジョン内で育っただなんて古龍出現よりよっぽどおかしい事なんです」
アイナは少し興奮気味にそう捲したてる。
ソレを鬱陶しそうに流してルベルゼは上層への道を進む。
「あ、ちょ……無視しないで下さいっ!」
「……その話はもう終わったろう?僕も自分が何故ここで産まれたのかなど知らぬと。何度も言わせるな」
「で、ですが……」
「……この話はもうやめよ、不愉快だ」
ルベルゼは話題を打ち切ると、さっさと歩みを進めた。
アイナは彼女の背中を見つめながら、再び浮かんだ疑問を呑み込む。
(何なんだろう、この人……いや、この存在は?)
アイナの心には恐怖と興味が交錯していた。
ふと、先程まで頭上を覆っていた薄暗い天井が遠のき、目の前に広がるのは開けた大空間だった。
「……ここは?」
思わず足を止めるアイナ。
ルベルゼはそんな彼女を振り返ることなく、堂々と歩みを進める。
「中層の広間だろう。魔物の匂いが充満している」
ルベルゼは鼻をひくつかせながら、まるで美食家が香りを楽しむかのように言った。
「ま、まさか……また食べるつもりですか?」
「当然だろう。僕はまだ満たされておらん」
そう言うとルベルゼはアギトを呼び出し、翼蛇の形態から巨大な鎌へと変化させる。
『主よ、前方より大型反応だ』
アギトの警告と同時に、遠くから震えるような低い咆哮が響いた。
「っ……あれは……!」
アイナが目を凝らすと、霧のような靄の中から無数の赤い目が次々と姿を現した。
それは群れを成す巨大な魔狼たち――"デスハウンド"と呼ばれる中層の主だった。
「数が多すぎる……どうするんですか?」
「決まっておろう」
ルベルゼは大鎌を構えると、涼しい顔で言った。
「喰う」
『主よ、準備は整った』
「よし、アギト――」
その瞬間、ルベルゼの体から放たれた威圧感に、群れは一瞬動きを止めた。
「斬り払え、蛮顎!」
ルベルゼが振り下ろした大鎌は、空気を裂きながら魔狼たちの中心に突き刺さった。
その刃先から黒い波動が放たれると、デスハウンドたちの肉体が音もなく裂けていく。
「な、何なの……これ……」
アイナは目の前の光景に言葉を失った。
『斬餉』
アギトの声が響くと同時に、残った魔狼たちも一瞬で切り刻まれ、血飛沫さえ霧のように消えていった。
「これで少しは満たされるか」
ルベルゼは鎌を振り上げ、残った魔物の肉片を拾っては次々に口に運ぶ。
「っ……」
アイナは吐き気を堪えながら、その光景を目の当たりにする。
「……何者なの……?」
震える声でそう呟いた時、アギトがルベルゼに囁いた。
ルベルゼは口元を拭いながら、不敵に笑うと視線を前方へと向けた。
『主よ、先の反応は弱くなる一方だ。どうやらこの先は魔物が少なくなるようだが……』
「つまらんな」
ルベルゼは眉をひそめる。
「この先に喰えるものはあるのか?」
『主よ、上層に向かうほど弱い反応ばかりだ。しかし地上に出れば、別の狩り場も見つかるだろう』
「ふむ……まあよい。とにかく、まずはここを出るぞ」
アイナはルベルゼの言葉にほっと息をつきながらも、その背中に漂う異質さに再び不安を覚えた。
(……この人が地上に出たら、一体どうなっちゃうの?)
そう考えながら、アイナはルベルゼの後を追い、上層への道を急いだ。
ここまで読んでくださりありがとうございました。
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