表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君にはうちはまだ早い  作者: ハシモト
美少女冒険者アイシャ、ヒロインを首になる
70/90

天才少女来たる!?

 ランドたちが背後を振り返ると、昇り始めた朝日を浴びながら、杖を手にした冒険者姿の人物が、こちらへ走ってくるのが見える。


「や、やっと見つけた」


 その人物、クラリスとさほど年が離れていない少女は、栗毛のポニーテールを揺らしつつ、そこに集う人たちを見回す。


「リア?」


 それを見たランドの口から、驚きの声が漏れた。


「ランドさん、お久しぶりです!」


 リアがランドへ、ペコリと頭を下げる。


「この子もあんたと同じ、その赤毛組とかへの参加希望者なの?」


「どうして私が、あんな女(アイシャ)のパーティーに入らないといけないんです!」


 リンダの台詞を聞いたリアが、クラリスとは真逆の反応を返す。


「確かオールドストンで、ギルドの事務をやっていると、サラから聞いたが……」


「はい。でもサラお姉さまが現役引退して、ギルドの事務になったと聞いたからです。お姉さまが復帰するのであれば、私も冒険者へ戻るに、決まっているじゃないですか!」


 リアがランドへ、胸を張って見せた。


「そんなことより、サラお姉さまはどこですか?」


「サラ? ここにはいないぞ」


 ランドの答えに、リアが面食らった顔をする。


「だって、アビスゲイルでランドさんが復帰したという話が流れて来たから、てっきりサラお姉さまと組んだと思って、はせ参じたんですけど!」


「いや、サラたちがどこにいるかは、俺の方でも分からない」


「それって、サラお姉さまは、まだあの疫病神(アイシャ)のところにいるということですか!」


 リアが絶対にあり得ないという顔をする。


「せっかくサラお姉さまがオールドストンへ戻ってきたのに、あの女が色々とやらかしたせいで、また出ていくことになったんですよ!」


「その件は、彼女たちのせいではないと思うが……」


「はい。あんな案件を紹介してしまったのを、心から後悔しています。なので、すぐに戻ってこれるよう、依頼者のポンコツ貴族の所へ、殴り込みをかけてやりました。でもどう言うわけか、みんな行方不明だったんですよね……」


 そう告げると、大きく肩をすくめて見せる。


「あの女と居るとやばいって、サラお姉さまに警告しようと、あれこれ手を尽くして探しているのに、全然見つからないし……。そう言えば、ランドさんはどうやって、冬季のハマスウェルからここへ?」


「それも色々とあってな」


「やっぱり。あの女と関わると、ろくなことがないんです!」


 大きくため息をついたリアの前へ、クラリスが進み出た。そしてリアに向かって、涙目で首を横に振って見せる。


「もしかして、ランドさんの隠し子ですか?」


 リアがジト目でランドを見た。


「俺の隠し子ではない。この子はクラリスだ。なりたてほやほやの冒険者だよ」


「冒険者? このお子ちゃまがですか!?」


 ランドの言葉に、今度はリアが驚いた顔をする。もっとも、クラリスとリアとの間で、それほど年が離れているわけではない。


「この子はアイシャの大ファンでね」


「ふ~ん。確かに変な感じがする子ですね」


 そう告げると、今度はリンダとミルコの方へ顔を向ける。


「もしかして、この方たちとも一緒に潜るつもりですか?」


「そのつもりだ。彼らは『暁の閃光』の、リンダさんとミルコさんだ。迷宮に忘れ物をしているらしくてね。それを一緒に取りへ行く」


「訳ありですね。ランドさんが分かっているのなら、私は何も言いません。それよりも、この子は本当に大丈夫なんですか?」


 リアが少し真剣な顔をして問いかける。その前でクラリスが、子供みたいに地団太を踏んで見せた。


「クラリス、落ち着け。リア、お前が来てくれてよかった。正直なところ、魔法職が居なくて困っていたところだ」


「本当はサラお姉さまと同じ、両刀使いの前衛になりたかったんですけど、魔法の点数を取り過ぎました。でも、同じだと被りますからね。今ではこれでよかったと思っています」


 そう告げて、鼻を鳴らして見せたリアに対し、クラリスがランドの袖を引っ張って猛抗議をする。


「クラリス、お前がアイシャにあこがれて冒険者を目指すように、リアもサラにあこがれて冒険者を目指した。だから、リアとお前は似た者同士と言える。それに俺たちは冒険者だ。冒険者が、迷宮を前にしてやることは一つだろう?」


 それを聞いたクラリスが、あきらめたように黙り込んだ。そしてリアを見ながら、小さくうなずく。


「リア、どうやらクラリスが何者かは分かっているな。お前なら、クラリスの力をうまく引き出せるはずだ。それと気を付けてくれ。この子は口がきけない」


「やっぱりそうなんですね。仕方がありません。おこちゃまの子守は任せてください」


 クラリスの前で、リアがわざとらしく胸をたたいて見せる。


「そうと決まれば、ちょっと変わったやつですけど、さっさとぶっとばしましょう。それよりも、サラお姉さまの捜索と救出の方が余程に大事です。そこの新人、何をぼっとしているの。さっさとこっちへ来なさい!」


 そう声を張り上げると、クラリスの腕を引っ張って、迷宮の入口へ引きずっていく。


「ちょっと、大丈夫なの!」


 二人が離れるなり、リンダがランドへ声を掛けた。


「リアか、それともクラリスか?」


「両方よ。まるで村の寺子屋にいる、ガキみたいじゃない」


 リンダが迷宮の入口で、互いに舌を出し合う二人を見て、呆れた顔をする。


「リアについては心配無用だ。おしめの時から、冒険者に囲まれて育ってきているからな。それに才能も努力も、俺なんかとは比べ物にならない」


「若いころの自分と比べてなんて、何の意味もないよ」


 それを聞いたランドが、リンダへ首を横に振って見せる。


「そうじゃない。あの子が冒険者になってからずっとだ。いや、そのはるか手前からかな。だから、ちゃんとクラリスの面倒も見ている。あの態度だって、半分はクラリスがビビらないようにしているんだよ」


「一体何者なの?」


「王立魔導院を最年少かつ、首席で卒業した逸材だ」


「冒険者なんて、やる必要ある?」


「先ほど当人が言っていた通り、王都で魔法職なんてやる気は全くないらしい。オールドストンに戻ってきて、厄災を片っ端からぶっ飛ばしていた。陰ではリ・リスの再来と呼ばれていたぐらいだよ。ただ……」


「ランドさん、何をしているんです。日が暮れますよ!」


「俺の知り合いの真似を、やり過ぎるところが玉の傷だな」


 ランドはリアに手を振って見せると、リンダとミルコへ、小さく肩をすくめて見せた。




 真っ黒な空間の中に、まるで陽炎みたいにぼんやりとした風景が浮かんでいる。そこには冒険者たちが迷宮を前にして、最後の相談をしている姿が映っていた。


「フフフ、釣れた、釣れた、撒き餌で釣れた――」


 一人の真っ白な姿をした少女が、その映像を前に、うれし気な声を上げている。


「これって、なんの術?」


 その姿を眺めながら、タニアは背後に立つアンチェラへ問いかけた。


「隠者の影です。あのエミリア・フリーマンが編み出した術式で、見えないところから、誰かをこっそり覗くための物です」


「いかにも、あの陰険が好みそうな術式ね。それとアリスは随分と浮かれているけど、あまり意味がないんじゃないの? 処女探索に派遣したパーティーが全滅したら、今度はミストランドのベテラン連中が、総出でつぶしに来るわよ」


「全滅などしません。あくまで見かけ上はですけど」


 アンチェラの言葉に、タニアは慌てて迷宮へ降りていく冒険者たちを眺めた。そして釣れた、釣れたと調子はずれの鼻歌を歌い続ける、アリスの方へ視線を向ける。


「アンチェラ……、これって」


「はい。これがアリスの世界を滅ぼす力です」


 アンチェラはそう答えると、一部の隙も無い侍従姿で、タニアへ深々と頭を下げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ