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君にはうちはまだ早い  作者: ハシモト
美少女冒険者アイシャ、暇を持て余す
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舐めないでください。こちとら現役ですよ!

 暇です。本当に暇です。


 これが本物の迷宮なら決してありえないことだけど、あくびまで出てしまいます。まあ、朝方までランタン片手に、あちらこちらへ罠をしかけて、仮眠程度しかとれてません。このぐらいは許してもらいましょう。でもあの嫌味男がここにいたら、一時間は嫌味を聞き続けるところです。


 だけど流石に寝るわけにはいかないので、ほっぺたやら内またを指でつねって何とか意識を保つ事にする。よく考えればミストランドを出て以来、旅での野営は山ほどやったけど、迷宮の中で、しかも一人での野営なんて初めてだ。そう思うと、なんだかとても寂しくなってくる。嫌味男に持たされた荷物はつらかったけど、お姉さまたちと迷宮に潜るのはそれなりに楽しかった。


 エミリアお姉さまが用意してくれたお弁当に、リリスちゃんが無言で入れてくれるお茶はとっても美味しかったし、フリーダお姉さまの一人突っ込み、一人ボケにはたくさん笑わせていただきました。だけど嫌味男の嫌味だけは余計でしたけどね。


 そんなどうでもいいことを考えているうちに、頭の上で警戒線につけてある羽がくるくると回るのが見えた。サラさんからの合図だ。小さめにつけておいたランタンの灯りをさらに絞り、一口付近に設置した警戒線へ注意を払う。


 さあ、サラさんと二人で仕掛けた罠の数々をとくと味うがいい、なんてことを考えたら、思わず口からいやらしい笑い声が漏れてしまった。


「フフフ……フフフ……フフフ……」


 漏れた声は思ったより大きかったらしく、竪穴の壁に反響しまくる。ちょっと待ってください。これじゃ、私は子供向けの物語に出てくる魔王みたいじゃないですか!?


 ドカン!


 次の瞬間だった。いきなり入り口の方から爆音が響き、頭の上からパラパラと小石が振ってきた。慌てて頭を抱えて地面へ伏せる。どう考えても、私のいる迷宮の奥へ向かって、あの子たちが全力で力を振るっているようにしか思えない。ある意味初見の迷宮の探索としては正しいやり方だけど、ここにいるのは私、アイシャール・ウズベクド・カーバインです。


『決して()()ではありません。()()です!』


 そう心の中で叫んだが、極大技やら極大魔法の奏でる轟音が、この迷宮ごと破壊しそうな勢いで鳴り響いている。このままでは生き埋めです。いくら何でもやりすぎだ。慌てて訓練中止の連絡用の警戒線を引っ張る。


 だがそんなことはお構いなしに、光り輝く矢が頭上を通り過ぎ、竪穴の壁へ連続して突き刺さった。光の矢は竪穴の縁にあった階段を次々と破壊していく。


「これって……」


 思わず声が出た。相手はただやみくもに打っているわけじゃない。こちらの動きを止めた上で退路を断っている。これは厄災を狩るときの定石そのものだ。だとすれば次に来るのは……。


「まずい!」


 私は慌てて竪穴の縁から身を乗り出すと、その下へ飛び込んだ。飛び降り自殺をする訳ではない。そこに張ったロープを使って、縁の下のくぼみになっている場所へ身を躍らせる。本物の迷宮に潜るときと同様、いざと言う時の為に身を隠すために用意した場所、安全地帯だ。そこへ飛び込んだ瞬間だった。


 ゴゴゴォオオゴゴゴ!


 今までの音が目覚まし時計の音ぐらいに思える轟音が鳴り響く。同時に爆風が辺りに吹き荒れた。だがくぼみにいたおかげで吹き飛ばされずに済んだ。もしまだ縁の上にいたら、私の体はすでに竪穴の底だった。だけど一体何が起きていると言うのだろう。いくらサラさんがめんどくさがりでも、こんな暴走を許すわけはない。


 そうだ、許すはずがない。間違いない。サラさんにも何かあったのだ。その事実を前に、体が恐怖に震えて、何も考えられなくなってくる。


『考えろ。考えながら死ね……』


 ぼーっとしてくる頭の中に、誰かの言葉が頭の中に響いた。そうだ。こんなところで震えている場合じゃない。彼らを迎え撃って、サラさんを救いにいかないといけない。もし手遅れだったら、その時はその報いを必ず受けてもらう。相手が誰だろうが、決して容赦はしない。


 自分の頬を叩いてい気合を入れると、頭上の割れ目の隙間から辺りを伺う。ともかくこの竪穴の縁まで追い込まれたこちらの負けだ。先手を打たないといけない。だけど事前に用意したかがり火は全て吹き飛んだらしく、周囲は真っ暗だ。


 でもよく見ると、夜行草を絞った液でつけた印はまだ残っていて、ところどころでぼんやりとした明かりを放っている。それを目印にすれば、明かりなしでもある程度は移動できる。でもこちらの強みは、事前に準備で明かりなしでもある程度移動できることぐらいしかない。


 相手の強みは三人いて互いに支援が出来ること。特に厄介なのはミトの矢だ。見つかってしまえば、あの自在に飛ぶ光の矢で、すぐに狙撃されてしまう。もっともカイの斬撃も、エマの魔法も同じぐらいに厄介だが、狭い洞窟の中では小回りが効かない。でも相手の強みを消す方法はあるだろうか?


『ある!』


 エマだ。エマを人質に取れれば、後の二人はこちらに手を出せない。いきなり本物の冒険者みたいになっているが、カイとミトの二人は決してエマを見殺しにできない。でもエマに近づくには、前衛のカイと、その後ろでこちらを狙うミトをなんとかする必要がある。


 ドォガガン!


 再び光の矢が、こちらを威嚇するように竪穴の上の天井へ突き刺さった。そこにある足場を吹き飛ばしていく。どうやらサラさんの時のみたいにこちらが天井に潜んでいるのを警戒しているらしい。でも何かを吹き飛ばすのに極大技やら、極大魔法はいらない。


「こいつがあれば、十分よ」


 私はくぼみに積んでおいた袋の山に手を伸ばした。

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