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君にはうちはまだ早い  作者: ハシモト
美少女冒険者アイシャ、用心棒になる
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皆さん、欲の皮が張りすぎです!

 外地区から中地区へは城壁で仕切られていて、そこには警備員らしい騎士姿の男たちがいた。だけど私がギルド証を、クラリスちゃんが市民証を出すと、特に何も告げられることなく中に入れた。


 中は蟻の巣みたいな外地区とは違って、縦横に石畳の通りがまっすぐに走っている。さらにその先、街の中心部の方に壁と塔に囲まれた場所があった。荷物を上げ下げする足場らしきものもあり、その向こうからは真っ白な煙が幾筋も上がっているのが見える。


「あれって?」


 私の台詞に、クラリスちゃんは左手の親指と中指で輪を作ると、そこに右手の人差し指を入れて見せた。そうか、あれがこの街の迷宮にして鉱山なのか。あの高い塔は封印柱だ。つまりこの街は迷宮を囲むように作られている。


 その向こうで昇っている白い煙は、鉱山から出た鉱石を加工するための工場なのだろう。それを眺めていた私の腕をクラリスちゃんが引っ張った。そうだ。先ずは何はともあれ、ギルドまで行かないといけない。


 クラリスちゃんは通りをまっすぐに進むと、大通りの交差点のところで角を指さした。そこには大きな街の市庁舎みたいな建物が建っている。


 ミストランドのギルド本館も立派な建物だが、この建物もそれに劣らぬほど立派だ。入り口には守衛まで立っており、冒険者とも市民とも判断がつかない人たちが朝から大勢出入りしている。


 私はクラリスちゃんの手を引くと、入り口の守衛さんに声を掛けた。


「あの、登録はこちらで可能でしょうか?」


「依頼でしたら、入り口入って右側――」


「あ、すいません。所属の登録です。それに行方不明者に関する情報提供の依頼もあります」


 守衛さんはちょっと怪訝そうな顔をしたが、私はギルド証を差し出すとそれに視線を向けた。そしてもっと怪訝そうな顔をする。最近はこの反応にもかなり慣れてきてしまった。


「ミストランドからわざわざここまで? もう噂になっているんですね」


 そう告げて私にギルド証を返すと、私の背中に隠れているクラリスちゃんを覗き込んだ。


「こちらは?」


「私の依頼人です」


 今度は職業的自制心が働いたのだろうか、特に表情を変えずに頷いて見せた。もしかしてクラリスちゃんが依頼人よりも、私が冒険者の方が余程に不自然なのか?


「ギルドへの所属の登録は左手の受付です。そこで情報提供に関する確認も出来ます。依頼の受託は、通常は右手の受付ですが、すでに依頼が決まっているのなら、左手の受付で一緒に手続き可能です」


「ありがとうございます」


 私は余計な思考を頭から追い出して、私は守衛さんに頭を下げると、開けてくれた通用口から中に入った。


「アルマスの所では、含有率1割を超えるやつを掘り当てたらしい。それも第7層でだ」


「新規に見つかった鉱脈(つる)は、そんなに上まで伸びているのか?」


 中では大勢の人たちの話し声が耳に響き、事務員たちが忙しく動き回わる姿が目に飛び込んで来た。奥では大きな計りが置かれ、持ち込まれた鉱石だろうか? それをハンマーで叩いてかけらを取る姿も見える。


 その様子はギルドの受付と言うより、取引所と呼んだ方があっているぐらいだ。大きなホールの中を見回すと、左手にやや閑散としている受付がある。守衛さんが言っていた登録の受付だろう。


 私はクラリスちゃんの手を引いてそこに進むと、受付の女性に声を掛けた。


「すいません。登録の依頼はこちらでしょうか?」


 北方出らしい金色の髪に白い肌をした女性が、私の方を振り向いた。活気があるギルドらしく受付の皆さんも美人揃いです。


「はい、こちらで承ります。ギルド証の提出と、こちらの申請用紙に記載をお願いします」


 私は鎧の内ポケットからギルド証を出すと、受付の女性に差し出した。それを見た女性が一瞬おやっという顔をする。私はこの反応とずっ友らしい。


「流石はミストランドの方ですね。ここの事はあちらでも噂になっているんですか?」


 そう言うと、女性は感心した顔をした。そう言えば、守衛さんもそんな事を言っていた気がする。


「噂って、なんのことでしょうか?」


 私の問い掛けに、女性が今度はきょとんとした顔になった。


「新鉱脈が見つかった件で、こちらに来たのではないのですか?」


「新鉱脈?」


「はい。ここの鉱脈はかなり深くまで掘られていて、これまでは第32層の坑道から先でないと、まともな含有率の鉱石は取れませんでした。ですが最近もっと上の階層で、しかもとても含有率の高い鉱脈が見つかったんです」


 そう言うと、受付の女性は広間の奥を指さした。


「それで今のここはお祭り騒ぎです。運がいい人は純金の塊を見つけた方もいますよ」


「ぐずぐずするな、もう一度潜るぞ!」


 彼女の言葉を肯定する様に私たちの背後を冒険者、いや採掘者? どちらともよく分からない一団が通り過ぎていく。


『もう一度潜る?』


 鉱石も取れるかもしれませんが一応は迷宮ですよね? ギルドの統制はどうなっているんでしょうか?


「迷宮の負荷は大丈夫なんですか?」


 迷宮に負荷が掛かりすぐると迷宮が活性化してしまう。そうなれば核を封印して完全に取り除くか、崩れが起きるかのいずれかだ。


「はい。厄災そのものの出現率が大きく変わっている訳ではないので、上の判断では問題なしです」


 女性はそこで言葉を切ると、窓の外を指さした。そこには真っ白な雲で覆われた空が見える。


「大勢の方々がすぐに押し寄せてきたと思いますが、もうすぐ冬の嵐の季節です。ここには誰もたどり着けません。なので今なら待つこと無しに、浅い階層から鉱脈へ辿りつけますよ」


 そう告げると、受付の女性は私ににっこりとほほ笑んで見せた。ちょっと待ってください。いきなり新鉱脈が見つかったんですよね。それって――。


「活性化の可能性はないのでしょうか?」


 活性化した迷宮には、それまで出なかったような厄災が現れ、一攫千金が狙える。理由は簡単で、活性化した核が力を得るために、私たち人を誘い込もうとするからだ。


 だがそれは厄災だけじゃなく金や宝石で誘い込む場合もあると、エミリアお姉様から聞いた。新しい鉱脈とか言うのはそれと同じとしか思えない。


「ありません!」


 私の事をしつこいと思ったのだろうか、受付の女性がきっぱりと言い放った。


「本日は登録の受付だけでしょうか?」


 私は受付の女性に首を横に振って見せた。まだ大事な用事が二つ残っている。


「情報の確認もお願いします。この街に来る途中、雪崩に巻き込まれて私のパーティーのメンバーが行方不明です。その情報はこちらに届いてませんでしょうか?」


「メンバーと言いますと、この赤毛組の方ですか?」


「はい。サラ・アフリートです。最後の所属は私同様にオールドストンになります。もし無事なら、ここに来ていると思うのです」


「ちょっとお待ちください。確認してきます」


 私はその後ろ姿を祈るように見つめた。彼女は同僚から帳簿を受け取るとすぐに私の所へ戻ってくる。


「すいません。サラ・アフリートさんがこちらに来た記録はありませんでした」


 私に気を使ったのだろう。彼女がすまなさそうな表情をしながら告げた。


「ですが、サラ・アフリートさんがこの近くで見つかったという情報もありません」


 少しは希望があると言いたかったのだろう。彼女は私にそう付け加えた。覚悟はしていた。事実は事実として受け止めるしかない。自分が助かったこと自体が奇跡みたいなものだ。


 私達冒険者はその仲間が突然いなくなることが避けられない仕事だ。それを事実として受け入れられなければ、冒険者と言う仕事を続けることは出来ない。それは神話同盟に入って最初にあの嫌み男から言われた事でもある。


 でもサラさんを見つけて土の下へ、パール・バーネル(創世神)の元へと返してあげないといけない。それは生き残った私の役割であり責任でもある。


 私の気持ちを察してくれたのだろう。クラリスちゃんがそっと私の手を握ってくれた。その手がとても温かく感じられる。後で一杯泣こう。でも今は彼女をそしてあの人たちを守るのが先だ。


「大丈夫よ」


 私はクラリスちゃんにそう告げると、内ポケットから依頼票を受付に出した。


「こちらで、依頼の受付も同時に出来ると聞いてきたのですが?」


「この依頼ですか?」


 依頼票を見た女性が驚いた顔をする。今はほぼすべての冒険者が迷宮に鉱石を求めて潜っているのだろう。


「はい。受付をお願いします」


 女性から控えを受け取ってすぐ、私はクラリスちゃんの手を引いて出口へと向かった。私達の背中を何人もの男たちが追い越していく。彼らの行先は迷宮、いや、地獄の窯の蓋を開けに行こうとしている。


 私は少し駆け足でギルドの外へと飛び出した。守衛が私たちを不思議そうな顔で見るが、そんなのを気にしている場合ではない。私はかがみこむと、クラリスちゃんの耳元に顔を寄せた。


「クラリスちゃん、店に戻るわよ。そしてすぐにここを逃げ出すの」


 私の台詞にクラリスちゃんが呆気にとられた顔をする。だが私の真剣な表情に何かを感じたのか、すぐに頷いた。そうだ。すぐに逃げないといけない。


 もうすぐこの街を崩れが襲う!

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