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桜を好きになった春

 僕は桜が大嫌いだった。


 自己主張の強い匂いを漂わせながら所狭しと立ち並んで競い合うように満開の花を咲かせ、「美しい」としきりに持て囃される、そんなあり方に苛立ちすら抱いていた。

 だけど今は違う。


 ある日、母が言ったんだ。


「お花見に行きましょう」


 僕はかなり驚いた。母がそんなことを言い出すなんて初めてだったからだ。


「花見なんてつまらないよ。せっかくの休みなんだから、家でゴロゴロしたい」

「……ねえ、お願い。母さんの一生のお願いだから」


 なんだか有無を言わせない雰囲気があった。

 僕はゲームがしたかったけれど、渋々ながら母と花見に行った。

 花見と言っても有名な場所へ行ったりはしない。近所の、普通の公園だ。

「綺麗ね」と母は言ったが、僕はそうは思えなかった。やはり桜は嫌いなままで、鼻を摘みたい衝動を必死に堪えたのをよく覚えている。


 ――一ヶ月後、母は死んだ。癌だった。

 僕は全然知らされていなくて、突然でもうわけがわからなかった。

 でもその時ふと僕は合点がいった。……ああ、だからあんなに行きたがっていたんだな、と。

 実は母は桜が好きだったに違いない。僕のことを思って花見なんてほとんど行かなかったけれど、きっと。

 僕は母の墓の前で手を合わせ、そんなことを思い出す。


「母さん、今年も桜が咲いてるよ」


 あの年から、僕は桜が好きになった。

 毎年この頃になると母の墓参りへやってきて、傍に佇む満開の桜の花を楽しむのだ。

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