98.それぞれの好み
モイラはエルドを叩いた後、少し血が付いて汚れているのに気が付いて魔剣ヒーリングを丁寧に拭いていた。もちろんその前にエルドの頭部に回復魔法をかけている。
「そういえばモイラに聞きたいことがあったんだ。」
エルドが目を覚まさないのを見てマリーが口を開いた。
「うん、なに?」
モイラは魔剣の先端の丸い玉の部分を拭きながら答える。マリーは亜空間から魔道具の眼鏡を取り出した。
「これをかけた時のこと覚えてる?」
「もちろん。」
「その時…その…エルドはどんな風に見えた?」
あぁ~とモイラは嬉しそうに言う。
「私好みのエルドだったな~。マリーもそんな感じじゃない?」
それを聞いてマリーが赤くなる。
「あれ?違うの?」
「いや…違く…ない…でも…」
「?」
「いや、うん…違くない。」
マリーは首を振って自分を納得させるように頷く。
「それよりモイラ好みのエルドってどんな風なの?」
「えぇ?それ聞いちゃう?う~ん、でも別に教えてもいいか~。」
モイラは顎に指を当てて言う。
「私ね、好みの男性が50歳過ぎた少しナンパな人なの。」
「へ~…それじゃあエルドが老けて見えたの?」
正直エルドは若く見える方だから老けて見えるというのがイメージできない。
「そう。少ししわが入って髪も白髪が混じってそれでいて苦労知らずのお坊ちゃんな感じが残って…あぁ…初めての相手はそんな男性がいいなってずっと思ってたの…」
モイラが珍しくはしゃいでいる。
「マリーの眼鏡を借りてみたエルドが私の好みドンピシャで、後30年経てばあんな感じになるんじゃないかな…」
モイラは感嘆の吐息を放つ。
「国中回っていた時も色々な老齢の男性と会ったけど全然いい人がいなかったわね。強いて言えばトーライトさんやライナス領領主様がいい感じだったけど、2人ともそれなりに苦労してそうな感じが顔のしわに出ててちょっと違うのよね。」
「へ~…」
「そう言えばトーライトさんって結婚してないの?」
モイラがふと疑問を口にした。
「いや、20代の頃に結婚してたらしいけど30になる前に死別したんだって。」
突然エルドが体を起こして答える。
「きゃぁ!起きてたの!?」
モイラが跳ね上がる。マリーも驚いた表情でエルドを見ていた。
「少し前にね。何か僕に関する話っぽいから聞き耳たててた。」
エルドは首をまわしながら言う。
「あ~、驚いた。別に聞き耳たてなくてもよかったのに。」
「体起こすのが面倒だったからってのもあるけどね。ところでマリー。」
エルドはマリーを見る。
「君は眼鏡を通してどういう風に僕が見えたの?」
「え…」
マリーは再び赤くなった。
「ベ、別に普通に…」
「普通に?」
「それっていつものエルドってこと?」
マリーは恥ずかしそうにうなずく。
「あはは。それじゃあ僕と同じだ。僕も眼鏡を通してみた時はいつものマリーだったよ。ただ違うのはいつもより瞳が綺麗に見えるってくらいかな。」
エルドはテーブルに置いてある眼鏡を取りマリーにかける。
「うん、やっぱりそうだね。しかし僕が老けて見えるってどういう仕組みになってるんだろ。」
そう言ってエルドはマリーから眼鏡を取り自分にかける。
「どう?」
モイラの方を見るとモイラが赤くなって艶やかな視線を送ってくる。
「ねえエルド、今夜はその眼鏡かけて寝てくれない?」
「え?壊したくないからやめとく。」
そう言って眼鏡を取った。それをモイラが取り、かける。
「むぅ~、だ。今度壊してもいい用の同じ眼鏡探しに行こう。」
モイラは眼鏡をかけた状態でエルドを見た。エルドの目が見開かれてる。
「どうしたの?」
エルドがモイラの眼鏡を取り、もう一度モイラにかけた。
「あはは…こりゃ…自分が情けなくなってくるな…」
以前モイラがかけた時には変わりなかったが今回はモイラの髪が輝いて見えいつも以上に可愛らしく見えていた。
見え方が変わったのは自分の心変わりのせいだろうとベッドにふて寝してしまうエルド。何が情けないのか理由を聞かされないマリーとモイラは首を傾げていた。