96.報告
中央都滞在3日目、エルド達はイニシアに呼び出されて警護騎士団の中央本部へ来ていた。警護騎士団とは街を護衛する部隊の事で、街の巡回から今回のような事件の調査、後片付けなどを一手に引き受けている。
「来たなエルド・ファニアール。」
受付で案内された部屋の中にいたのは第一王子のイニシアと第三王子のライオスだった。
「いちいちフルネームで呼ばないでほしいな。それよりライオス殿下もいるんだ。」
エルドはあくびをしながら言う。それをマリーがたしなめた。
「ライオスは警護騎士団の団長だからな。いて当然だ。」
「ああ、なるほど。それで、何か確認してほしいから呼ばれたようだけど何を?」
イニシアに促されて3人は椅子に座る。
「これを見てほしくて。」
ライオスはエルドに1冊の本を手渡す。きちんと製本されたものではなく個人で作った本のようだ。
「中を見ても?」
「ええ。ただエルド殿だけで読んでください。」
エルドは両脇に座るマリーとモイラに目配りした。2人は椅子を動かし離れたところに座りなおす。2人が離れたのを見てエルドは本を開いた。
「…禁呪を記したものか…」
数ページ開いてからエルドは口に出す。
「そうだ。エルド・ファニアールは知っていると思うがそもそも禁呪は王家と五大家で分割して保管することになっている。そしてその内容はそれぞれが別の禁呪だ。」
「ただし、危険度の高いものは共通して保管していると聞いてるけど。」
イニシアの説明にエルドが口をはさむ。
「その通り。禁呪にも3段階の分類があり危険度の高いものはどの家でも保管されています。もっとも、危険度の高いものは現在5個くらいしかないのですが。」
ライオスが答えた。エルドはページを進める。
「これはうちから流れたものではないね。もちろんファニアール家に行って調べるんでしょうけど。」
エルドは本を閉じる。
「それはもちろんだ。だがファニアール家だけじゃなく王家や他の五大家にも同時に調査に入る。」
「まあそりゃそうか。それよりこれの確認だけなら僕一人でいいでしょう。何で2人まで?」
その言葉にライオスはイニシアを見る。
「今回禁呪を使った神官総長のニュートスとオルファ。ニュートスの方は空に飲まれてしまって消息不明だがオルファはお前らの治療のおかげで一命はとりとめている。」
イニシアのその言葉にモイラが息をつくのが聞こえた。
「しかしまだ意識が戻らない。禁呪のせいなのか体力の問題なのかそれ以外なのかがわからない。今意識があればなぜこの本の存在を知っているのか聞き取れたんだがな。」
「他の修道士は知らなかったという事か?」
エルドの問いにイニシアが頷く。
「もっとも、知っていて知ってると言うやつはいないと思うがな。」
それもそうだとエルドは息を吐く。
「どうするんだ?オルファの意識が戻るのを待つのか、待たずに調査を続けるのか。」
「お前らをここに拘束し続けるのも問題だからな。2~3日中に五大家には人員を派遣する。お前らはその間中央都から絶対に出せない。本当は宿に軟禁しておきたいくらいだ。」
イニシアがため息をつきながら言う。
「ただそれだと人道的にも問題あるだろうというのが陛下の意見だ。まったく、今回の事件の関係者なんだから気にせずにいればいいのに。」
イニシアはやれやれと首を振りながら言う。
「ともかく、数日中は絶対中央都から出ようと思うなよ。手紙もダメだ。」
エルド達3人はイニシアの言葉に了解し部屋を出て行った。
「イニシア兄上、我らの監視の元なら彼らにも協力してもらえばいいじゃないですか。特に五大家の調査なんて信用できる人員の確保が大変なんですから。」
「気に入らん。なんで父上もお前もあのエルド・ファニアールに頼ろうとする。領主の時ならいざ知らず、今はSランクの冒険者だ。国政にかかわっていい人間じゃないだろ。」
それを聞いてライオスはため息をつく。
「まあ性格には難があるかもしれないけど、その能力は高く買っていいものだと思うんですけどね。そもそも兄上が彼を毛嫌いしてるのは…」
ライオスの言葉をそれ以上聞きたくないとばかりにイニシアは立ち上がり部屋から出て行ってしまった。
「はぁ…同じ長子で跡取りだったのに自由気ままに生きている彼に嫉妬しているから…ですよね…」
ライオスのつぶやきはイニシアの耳には届かなかった。