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95.初めては…

 エルドは装飾品店の店主に品物の注文をして店を出る。


「完成は数日後か。デザインは残ってたしいいくらいか。…そういやモイラ、腰治ったかな。」


 エルドは宿に向かって歩き始めた。




「ところで、マリーってエルドと初めてしたのはいつなの?」


 昼食も終え宿に戻って作業に没頭しているマリーにモイラが唐突に聞いてきた。


「え?…たしか学院の卒業式の後だったかな。あの日初めてお酒飲んでよく覚えてないんだよね。気が付いたらエルドの上に乗ってた。」


 マリーがこめかみに指を当てて考えながら言う。


「あ、そっちも知りたかったけど、今聞いたのはこっち。」


 モイラは唇を尖らせ指で指し示す。


「普段キスしてるの見たことないな~って思ってたけど昨夜は情熱的にしてたし。そもそもマリーはキスが上手だから嫌いじゃないだろうし。」


 モイラは頬を赤らめ照れたように言う。


「いやうん…それは…」


 先ほどとは違って言いよどむ。


「あれ?こっちの方が恥ずかしくないと思うけど?」


 モイラはマリーの腕をにやけながらつつく。


「ベ、別にいいでしょ!それならモイラの初めてはどうだったのよ!?」


 それを聞いてモイラは顎に指をあてる。


「たしか12歳の時修道士として働くようになって、その時の同室の先輩シスターから覚えておかないといけないことだからってのが最初だったかな。」


「え?」


「前も言ったと思うけど、教会って不純異性交遊は禁じてるけど同性交遊は制限ないしその盲点をついて昔からそういう慣習があるみたい。だからシスターになったばかりの子は同室の先輩に指導してもらうんだって。」


 割とものすごいことを話しているのだがモイラは普通の事のように淡々と話した。


「いや、うん…ごめん…」


 何と言っていいのかわからずマリーは謝るしかなかった。モイラはなぜ謝られたのかわからず首を傾げる。少々重くなった部屋にエルドが帰ってきた。


「ただいま。お、モイラ腰治ったんだ。」


「うん。なんとかね。」


 エルドは上着を脱いで椅子の背もたれにかける。自分はそのまま椅子に腰かけた。


「も~、しわになるからハンガーにかけてっていつも言ってるのに。」


 マリーが立ち上がりエルドの上着を取りハンガーにかける。


「ああ、ごめん。どうしても忘れちゃうな。」


 エルドは頭をかきながら言う。モイラはその様子を見てほほ笑んでいた。


「あ、そうだエルド。マリーと初めてキスした日って覚えてる?」


「ん?覚えてるけど何で?」


「モイラ!!?」


 マリーは顔を赤くしてモイラの言葉を止めようとするがエルドが制する。


「まあまあ、別にそこまで恥ずかしいことじゃないでしょ。この感じだとマリーに聞いても答えてくれなかったからってことね。


 学院最終学年の年の僕の誕生日にマリーがプレゼントだからってしてくれたのが初めてかな。」


 エルドが懐かしい思い出に表情をほころばせながら言う。マリーは顔を赤くしたまま俯いている。


「なんだ。そんなロマンチックなファーストキスだったんだ。少し羨まし~。」


 モイラが唇を尖らせながら言う。マリーはモイラの額に手刀を入れた。


「む~、痛い。それじゃあ初めて寝た日は覚えてる?こっちは淡々と教えてくれたけどあまり覚えてないって…」


 エルドを見ると今度は苦笑していた。


「あ~…卒業式の後、アルと3人で酒場に行って初めて飲酒したんだ。アルは10杯くらいで酔ったみたいだからって先に帰ったんだけど僕らはあまり酔わなかったからそのまま飲み続けたんだ。


 で、同じ味も飽きるからってカクテルに手を出したんだけど、マリーがオレシア味のカクテル飲んだらそこから歯止めが利かなくなったみたいでものすごいハイスピードで飲み始めて泥酔して、しょうがないから近くの宿を取ったんだけど、一部屋しか空いてなかったから一緒の部屋にしたんだ。


 もちろんその時は僕は床かソファーで寝るつもりだったんだけど、マリーをベッドに寝かせたらそのまま引っ張られて押し倒されて襲われたってのが初めての時かな。」


 エルドの説明にモイラはもちろんマリーも感心しながら聞いていた。


「うん。頷きながら聞いてるけど君のやったことだからねマリー。」


「そもそもキスの時は恥ずかしがるのに寝た時の話は普通に話す心情もよくわからないんだけど。」


 エルドはため息をつきながら言い、モイラも苦笑しながら言う。


「まあ、まともに記憶にあるかどうかの違いかな?」


 マリーが首を傾げながら答えた。

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