93.閑話 王家の悩み
リュトデリーン王国現国王のバルザはエルド達を寂しそうに見送った後、執務室の椅子に深く座った。
「はぁ…まさかモイラ殿がエルド殿と婚約するとは…」
その言葉に答えたのは第一王子のイニシアだ。
「婚約はともかくエルドの元に魔剣が3本集まるのは少々よろしくないかもしれないですね。」
そう、現在エルドの元には魔剣が3本ある。それはこの国に記録の残っているものすべてだ。
「いや、普通なら、普通のSランク冒険者だったなら別に構わないんだけどな。エルド殿はまあ、普通じゃないというかなんというか…」
「何かしでかしそうだからという事ですか。」
言いよどむ父親の言葉をイニシアが継ぐ。それを聞いてバルザは苦笑した。
「はっきり言えばそうなんだが。実際何か起こしてくれたからモイラ殿と婚約という運びになったんだろうし。これに関しても少々何かしてると思うんだが、確認しても特に何もないからな。」
エルドとモイラが婚約したということを聞いてバルザは2人にレコードを見せてもらっていた。王家にある魔法具は他のやつよりも強力なため偽装も見破ることが出来る。しかし2人の記録におかしなところはなかった。
ついでにマリーのも見せてもらっていたのだがこちらも特におかしなところはなかった。
「まあ、お互い同意の事なら気にする必要はないんじゃないですか。少々おかしなところはありますがエルドは不義理をするような男には見えないですし。」
それに関してはバルザも同意だった。昔、学院を破壊せんとするくらいに5番目の息子と喧嘩してそれを止めに入り叱った時も息子より恐縮していたくらいだ。
「それより…今回の件、早く終わらせないといけないな。」
「神官総長が禁呪を使った…そう簡単に終わらないと思うんですが…」
「それはわかっているが、いつまでもエルド殿たちを中央都に滞在させておくと別の何かを引き入れそうで怖いんだよ。」
「どうせなら以前から計画していた大教会組織の改革に彼らを巻き込んではどうですか?好き勝手していた神官総長もいなくなって組織改革に手を入れやすいですし。」
バルザはため息をつく。
「藪蛇になりそうだな…ただでさえあの神官総長の後ろ盾がな…」
バルザは立ち上がり体を伸ばす。
「まああまり悩んでもしょうがない。まずは明日、本当に禁呪を書き記した書物があるか大教会の跡地を確認しよう。話はそれからだ。」
「わかりました。ライオスに行って人員を手配してもらっておきます。」
「頼んだ。…さて、夕飯までまだ時間はあるか。かわいい孫たちに会いに行ってくるかな。」
「父上、かわいがるのはいいですが甘やかさないようにしてくださいよ。」
息子の苦言にバルザは眉をひそめてイニシアを見る。
「老い先短い年寄りの楽しみを奪う気か?まったく父親を敬うという事が…」
「老い先短いと思うならさっさと隠居してほしいんですが。こっちは受け継ぐ準備が出来ているというのに。」
イニシアはため息をつきながら言う。
「なんだ準備って。子供がまだ4人しかいないんなら準備が出来ているとは言い難いな。」
バルザは笑いながら部屋を出ていく。
「まったく、今の年で4人なら十分だろうに。自分が末っ子生まれた時いくつだったと思ってるんだか。」
つぶやきながらイニシアも執務室を出て行った。




