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88.魔力のやり取り

 エルドとマリーはそれぞれ魔剣を構えて巨大魔物に向かっていく。エルドが高熱を込めた炎の剣身で前足を斬るが毛先が焦げるだけで大したダメージになってない。


 マリーは高く飛びあがり頭頂部にメテオを振り下ろすが巨大魔物が前足で受け止め払いのける。


 モイラは2人が攻撃をする直前に拘束魔法を発動させていたが、魔物が巨大すぎたために目測を見誤りうまくとらえられていなかった。


「ご、ごめんなさい!」


 マリーがヒラリ着地するとモイラは2人に謝る。


「気にしない気にしない。それに戦闘中に謝ってる時間は無いよ。」


 エルドは地面にテンペラを指し、自分の足元に氷柱を発生させ巨大魔物の頭上まで行き、跳び上がって炎の剣身を伸ばしたテンペラで両断しようとした。しかし、やはりというべきか巨大魔物は毛先が焦げたぐらいで全くダメージを受けていないようだ。


「困ったな。炎が全く効かない。氷なんかもっと効かないだろうに。」


 エルドは乾いた笑いを出しながら言う。


 マリーはメテオを横振りで巨大魔物に足払いをかけるが、足に当たった瞬間巨大魔物は飛び上がり転ばずに再び同じ場所に着地した。


「まだ雪がないだけましだけど、これ結構時間かからない?」


 マリーはメテオに魔力を込めて再び巨大魔物に振り下ろす。しかし巨大魔物の前足に阻まれて胴体へあてることが出来ない。


 今度は巨大魔物が立ち上がり、勢いをつけて両前足を地面にたたきつけた。その衝撃で部屋の床がひび割れ吹き飛んでいく。エルドもマリーもモイラも巻き込まれ高く吹き上げられてしまう。


 エルドは落下の速度を利用してテンペラの剣先で巨大魔物の眉間を突き刺した。勢いもあってかテンペラは刺さり、わずかだが出血を確認した。


 巨大魔物は痛みに悶え、眉間に張り付いたエルドを前足で払いのける。エルドは地面にたたきつけられたが直前に風のクッションを発生させてダメージを抑える。


 巨大魔物が痛みに悶えている間にモイラは拘束魔法で捕らえることが出来た。エルドもその上から氷のひもで巨大魔物を拘束する。しかしこれでも巨大魔物は動き出そうと暴れ始める。


「ねえマリー、この前みたいにメテオに魔力込めて打ち上げられない?」


 もがいて暴れる巨大魔物に常に拘束用の氷を発生させながらエルドが聞く。


「この前?…ああ。あれは無理。」


 一瞬いつの事か考えて、呪いの女神の件でサイクロプスと対峙した時にやったことを言っているのかとすぐに思いつく。


「あれは3年貯めた分を全部流し込んだから出来たことで、今の魔力じゃ到底できないから。」


 焦ることもなくあっさりとマリーは言う。


「ウソ~…いつでもできるものだと思ってたのに…」


 エルドの表情が曇る。


「せめて1年分くらいの魔力がないと無理でしょうね。」


「あ、あの…」


 エルドと共に巨大魔物に拘束魔法をかけ続けているモイラが口を出す。


「魔剣メテオって一度にそんな魔力を込めても平気なの?」


「ええ。この間は特に問題なかったからそういう特性だと思うけど。」


 それを聞いてモイラは魔剣ヒーリングの先端を魔剣メテオに向ける。


「それならこの子に内包されている魔力をその子に送ります。どれくらい送ればいいのかはわからないからマリーが教えてくれる?」


 それを聞いてエルドとマリーは目を見開く。


「魔剣同士で魔力のやり取りができるの?」


「ええ。雪崩にあった時もテンペラに魔力を補充させたから問題ないかな。ただ、この子がメテオに送るのは嫌がってるから…」


 そう言うとモイラはヒーリングを起こしてしまう。


「おねがい。今はそんなこと言ってられないから…」


 モイラはヒーリングを撫で、子供に言い聞かせるように諭している。


「マリー、モイラから魔力を補充してもらって。あの魔物は僕が全力で抑える。」


 エルドはテンペラに魔力を込め、巨大魔物を拘束している氷の量を増やす。


「マリー、メテオのヘッドを床において。」


 マリーは言われた通りメテオのヘッドを床に付ける。モイラはヘッド部分にヒーリングの先端をつける。そしてメテオに魔力が流れ始めるのをマリーは感じた。その量は自分がこれまで感じたことのないほどの量だ。


「モイラ止めて!これ以上入れると私が操れない!!」


 その声にモイラは慌ててヒーリングを離す。


「すごい魔力。それでもまだ全然入る気がするのが不思議。」


「ヒーリングに貯めていた魔力の半分が無くなってる。歴代の聖女20人分くらいはあるのにまだ入るの?」


 マリーはメテオを肩に担いだ。


「全然余裕みたい。どれだけ入るのよ。」


 そう言ってマリーは巨大魔物に向かって駆けだす。エルドの横を通り過ぎ、巨大魔物に向かってメテオを振り下ろした。


 エルドはマリーが駆け抜けたのを見てテンペラに魔力を込めるのをやめて下がる。


 マリーの振り下ろした一撃は巨大魔物を拘束している氷を破壊し、骨を砕く。そして反動で跳び上がった。マリーは跳ね上がった巨大魔物を見上げる。落ちてくる巨大魔物にメテオを当てて再び天高く打ち上げる。そしてまた落ちてきてはメテオで打ち上げる。それを4回ほど繰り返し、5回目に落ちてきたときメテオを大きく振りかぶってこれまでにないほど高く打ち上げた。


 空を見ると雲よりも高く跳んでいく巨大魔物。その巨体もいつしかゴマ粒ほどの大きさになりいつしか見えなくなってしまった。


「今度は空に飲まれて消えたか。炎で焼き尽くされるのとどっちがいいんだろうな。」


 エルドは天を仰いで巨大魔物が落ちてこないのを確認する。マリーはメテオを亜空間にしまっていた。


「さあ。空に飲まれるとそのまま消滅するって話だから炎の方がまだ生存できそうじゃない。」


「いや、どっちも嫌だと思うけど…」


 マリーの言葉にモイラは苦笑していた。


「さて、とりあえず次は…」


 エルドはあたりを見渡し周囲を確認する。


「この状況の説明だろうな。結界張っていたとはいえ中央都でこんなことしでかしたら王家に怒られるだろうな…」


 エルドの言葉にマリーもため息をつく。モイラだけはよくわからず魔剣ヒーリングを撫でていた。



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