84.中央都大教会
ライナス領領主より協会設立の申請書を書いてもらい、家に戻るとすぐに中央都に向かった。魔獣馬車で3日ほどの日程をエルド、マリー、モイラ、ヤロルクの4人で向かっていた。
最初ジェイロットはそれに便乗して中央都に行こうとしていたがトーライトが近々行くというのを聞いてトーライトと共に向かうことにしたらしい。今はトーライトの雑貨屋で手伝いをしている。
そして久しぶりの中央都。吹く風はまだ冷たいがライナス領に比べ雪もなくかなり過ごしやすい。たまたまではあるがエルドはライナス領に居を構えたのを少々後悔していた。
「さて、大教会ってどこだっけ?」
馬車降り場で馬車から降り身体を伸ばしながらエルドが聞く。
「確か旧王城の近くだから向こうかな。」
マリーが中心地の方を指さして言う。それを見てヤロルクが頷く。
「あ、あそこに小さく見える青い屋根がそうですね。少し距離がありますがここからは歩くしかないでしょう。」
「うぅ…周りの人が多いし背の高い人ばっかりで前が見にくい…」
背の低いモイラは大教会の場所を視認できないでいた。
中央都はリュトデリーン王国で一番人口密度が高い。領土も最大の大きさであるにもかかわらずだ。エルドはモイラの肩を叩く。
「じゃあモイラ、その杖掲げて歩いてくれるかな?ちょうど目印になるし。」
「え?こう?」
モイラは両手で魔剣を持ち掲げる。エルドの身長ほどの高さのある魔剣ヒーリングはモイラが持ち上げると群衆の頭一つ上に杖の先端が出て目印になった。
「なるほどね。これならわかりやすい。」
マリーも納得した。ヤロルクは笑いがこみ上げるのを抑えているのか口元に手を当てている。
「なんか恥ずかしいんですけど…」
モイラは杖を降ろしエルドを見上げる。実際周りもモイラを珍しそうに見ていた。
「どうせ髪色で見られてるんだろうから変わらない変わらない。」
エルドが笑いながら言うその言葉にモイラはむくれるが実際背の低い彼女を見失うよりは奇異の目でみられてもこっちの方がいいというのはモイラもわかっている。
「じゃあ私が隣にいてあげるから。エルド、私なら見失わないでしょ?」
マリーがモイラの肩に手を置きながら言う。
「君を見失ったら後で何言われるかわかったものじゃないからね。見失わないように頑張るよ。」
エルドの言葉にマリーは微笑んでモイラと共に先に歩き出した。その後をエルドとヤロルクがついて行く。30分も歩いた頃、大教会の前に到着した。
「で、やっぱり正々堂々と正面から行くの?」
マリーがエルドを見ながら聞く。
「そりゃあね。申請もしないといけないからとりあえず受付にこの申請書出しに行こうか。」
エルドは大教会の受付と表示された方に足を運ぶ。
「すいません。ライナス領領主の代行で協会設立の申請書を出しに来たんですけど…」
受付をしている男性はけだるそうにエルドから申請書を受け取り内容を確認する。
「不備はありませんね。結果が出るまで一月かかります。結果はライナス領領主様に直接通知が行きますのでこちらをお渡しください。」
そう言って受領書なのか番号と今日の日付が書かれた紙を渡してきた。エルドはそれを受け取り亜空間にしまう。
「それと…なんだっけ、一番偉い人…ああ、神官総長にお会いしたいんですけど…」
神官総長の名前を出すと受付の男性が怪訝な目をエルドに向ける。
「お約束はされてますか?」
「いえ、ただ…」
一瞬何と言おうか迷ってしまう。
「聖女様をお連れしたのでお会いしたいと思いまして。」
受付の人は怪訝な表情をエルドに向けたまま立ち上がった。
「神官総長様に確認してまいります。隣の待合室でお待ちください。」
そう言ってすぐそばの扉を指さした。そして奥へ行ってしまう。
「意外とすんなり行くもんだな。」
エルドが待つように言われた待合室の扉を開けながら言う。
「いやホント…なんでいつもうまくいくのかな…ふつう追い返されてもおかしくないのに…」
後から入って来たマリーが呟きながら言う。
「この前自分らが待っていたところより質素ですね。」
「あ、お茶もある。みんな飲む?」
ヤロルク、モイラも続いて入ってきてモイラは隅に置かれたポットにお湯が入っているのを確認した。モイラは4人分のお茶を淹れ、みんなで呼ばれるのを待った。




